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竜杖球 ~騎手になれなかった少年が栄光を手にするまで~  作者: 敷知遠江守
第四章 騒動 ~代表時代(前編)~
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第26話 会長激怒

「何て事をしてくれたんだ! これまでのククルカンとの国交を台無しにされて外務省はカンカンだ! お前たちは国益を損ねたのだよ! いったいどう責任を取るつもりだね!」


 竜杖球連盟本部に送迎された荒木たちは、真っ直ぐ会長室に通された。

 扉を開けた先には、真っ赤な顔をして怒りに震えている武田会長の姿があった。

 その第一声がそれであった。


「お言葉を返すようやけど、それやったら最初から会長が出向かれたら良かったんと違いますか? 会長いう役職に就いてるわけなんやから、普通はこういう時に出向くもんやと思いますけどね」


 何のための役職なのやらと全く悪びれる風も無く仰木は言ってのけた。その堂々たる態度に、隣で侍っている掛布と荒木の方が恐縮してしまった。


 武田がだんと右足を踏み鳴らす。 


「先様がお前たちをと指名してきたのだよ! 先様がそう言ってきているのに、そんな出しゃばるような失礼な真似ができるわけないだろうが!」


 武田がぎろりと仰木を睨みつける。すると仰木も負けじと武田を睨み返した。


「それやったら、付いて来たったら良かったんと違いますか? 向こうはうちらを寄こせ言うたんでしょ? うちら三人だけ言うたわけや無いんでしょ? ご自分の怠惰によって起きた失態を、こちらに責任転嫁されても困りますなあ」


 まるで他人事のように言い、仰木はぷいと武田から顔を背けた。

 その仰木の態度に武田がぎりぎりと歯をきしませる。


「それが! 国際問題を引き起こした者の態度か! 大使に暴行を振うなど前代未聞の出来事なのだよ! だから言ってるのだ、どう責任を取るつもりなのかと!」


 それにも反論しようとする仰木を制し、掛布が口を開いた。


「相手は最初から俺たちを射殺するつもりやったんですよ。ブリタニスの大使館の人がそれに気付いてくれて、間に入ってくれたんです。相手は最初から国際問題にしようとしとったんです」


 低く力強い声で掛布は武田に言った。

 だが武田は今度は掛布を睨む。


「そんなものは単なる脅しではないか! そもそもなんで見ず知らずのお前たちを彼らが殺すというのだね。お前たちが行ったのは国を代表する大使館だぞ? やくざの組事務所に行ったわけじゃないんだぞ!」


 その武田の発言に、三人が同時にため息をついた。

 それに武田が眉をひそめる。どうやら武田も何かがおかしいという事に気付き始めたらしい。


「やくざの組事務所やったんですよ、俺たちが行った場所は。無法者の集まりいう意味では何も間違うてなかった。たかだか試合に負けたいうだけで、腹いせに相手の選手に銃口を付きつけんのやから、それだけでまともやないいう事くらい会長さんかて想像できるでしょ」


 掛布が冷静に指摘し、三人がじっと武田の顔を見つめる。

 武田はそんな三人から視線を反らし、生唾を飲み込んだ。


「しかしだね。だとしてもだ、お前たちが大使に手を挙げたのは事実なのだろう? 外務省はそれが問題だと言っているんだよ。なんでそんな事をしたんだね」


 少し諦めの表情で武田がたずねた。

 荒木をちらりと見て掛布が「正当防衛だ」と短く述べた。


「向こうが殴ってきたんです。だから俺はそれを払いのけただけです。そうしたら相手がすっ転んじゃって。で、いきなり短銃を抜いてこっちを撃とうとしてきて。その部分だけ外務省の人に見られちゃって」


 荒木の説明で、どうやら武田にも外務省と荒木たちの意識の食い違いのようなものがある程度理解できたらしい。

 武田とて瑞穂経済の一翼を担う競竜の会派雷雲会の武田家の一門である。省庁の役人と長く付き合っており、あの者たちがどんな思考回路をしているかよく心得ている。

 国家権力の及ばない外国人には平身低頭し、自国民は徹底して蔑む究極の内弁慶。上におもねり、下を見下す佞臣根性。そのくせ気位は天下一品。

 今後どのような事実が報じられようと、彼らは自分たちが最初に下した方針を絶対に改めないであろう。そして自分たちを正当化するためならどのような卑劣な手段でも躊躇無く使ってくる。


 そして問題なのは、この三人の中に一部の報道が蛇蝎のように嫌っている荒木がいるという事。間違いなく彼らはこの件の責任を荒木一人に被せようとしてくるだろう。

 その要望してくるところは容易に想像がつく。最初は代表追放、それを飲めば次は球界追放を要望してくるだろう。


 だが、一部の外国はどういうわけかこの荒木という選手を非常に高く評価している。仮に代表追放などという事になったら、どんな事を言ってくるかわかったものでは無い。


「君たちはしばらく謹慎だ。追って沙汰があるまで試合の出場も許可しない」


 下がって良いと武田が言おうとした時であった。

 掛布が一歩前に進み出た。


「代表を辞めさせてもらいますわ。近いうちに記者会見開いて、色々と暴露したって、こんな代表にはおれへんってぶちまけてやりますわ。ほんなら球団の方で瑞穂戦に出ても問題無いやろ」


 こんなくだらない事で球団に迷惑はかけられないと掛布は主張。

 それにどういう意味があるのか荒木にはわからなかった。だが武田は酷く動揺した。


「短気を起こすのは止めたまえ。この件はなるべく穏便に済ませるから。だから大人しく沙汰があるまで――」


 そこまで言ったところで掛布は「ふざけるな!」と一喝。


「この件は帰ったら全て球団に報告させてもらう。提携しとる会派にも報告するように言う。荒木、お前もそうせい。竜杖球の連盟は選手を守らへん方針やってちゃんと言うとけよ」


 吐き捨てるように言って掛布は部屋を出て行った。


「俺も監督を辞退させてもらいます。お世話になりました。ほな、さいなら」


 仰木もくるりと踵を返して部屋を出て行った。

 慌てて荒木もぺこりと頭を下げて部屋を出た。



 昇降機の前で岡田は仰木と荒木を待っていた。


「あの、さっきのどういう意味なんですか? 球団に報告するって言ったら、会長、ずいぶんと慌てていましたけど」


 昇降機に乗り込むと、岡田はこりこりと耳を掻き、細く息を吐いた。


「誰がうちらの給料を払っとる思うてんねん。お前ら連盟と違うねんぞいう事を改めて思い知らしたったんや。恐らくこの後、職業球技協会の渡辺会長と二人で頭抱えるんと違うか」


 そう言ったところで昇降機の扉が開いた。

 昇降機から降りた荒木たちにすぐに連盟の職員が駆け寄って来た。


「今、正面玄関は報道が取り囲んでおります。お帰りは裏にお回りください。すぐに車を用意いたしますので」


 職員に案内されるがままに荒木たちは裏口へと向かった。


「なんでこないにこそこそせにゃならんねん。もう、最初から色々間違うてんねん。ドアホウどもめ」


 案内する職員に聞こえるようにちくりと仰木は呟いた。

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