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竜杖球 ~騎手になれなかった少年が栄光を手にするまで~  作者: 敷知遠江守
第四章 騒動 ~代表時代(前編)~
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第24話 不穏な空気

 板倉、仰木、掛布、荒木の四人は荷物を抱えた状態で皇都の大宿を出て、車でククルカン大使館へと向かった。


 皇都国立競技場は皇都でも西部の七条西京極(にしきょうごく)という場所にある。

 大宿はそれより東の五条皇嘉門(こうかもん)

 球場の西、桂川を越えた先にあるかつらという地区に連合政府の各省庁があり、その南、向日むこうという地区に各国の大使館が乱立している。


 そんな一般の人がまず立ち入らないような地区に荒木たちは車で向かっている。



 ――ククルカン共和国は瓢箪大陸中部の国である。北はアマテ共和国。南はタワンティン連邦。


 中央大陸からの侵略者を今のタノイ連邦に追い出し最初のアマテという国ができた。

 ククルカンはそのアマテの中部州と南部州であった。

 この時、州を大きく三つにわけたのは、この三州がそれぞれ違う民族だったためである。この事が、後にククルカンが分離する大きなきっかけになった。


 ある時、アマテの大統領の失政によって食料問題が起きた。

 その際、大統領は首都テノチティトランのある北部州を重点的に対処したために、中部州と南部州で暴動が発生。

 ところがこれを武力鎮圧しようとしたために暴動は反乱に変わってしまった。反乱が独立運動に変わるまでは、そんなに時間を有しなかった。


 最終的にペヨーテ、マラジョ、タワンティンの三政府が仲介に入り、アマテ政府は渋々中部州と南部州の独立を承認。

 アマテはこの時、中部州と南部州は別々の国として独立という提案をしていたのだが、ククルカン政府は南部併呑という形で独立してしまった。


 ただ、独立はしたものの、ククルカンにはこれといった産業は無く、農業が主な非常に貧しい国であった。

 ところが、それが一変する事態が発生する。


 ククルカンにチブチャという州がある。瓢箪大陸のくびれの一番細い部分である。

 ある時、ペヨーテが出資して、この地に巨大な運河を建設した。


 もちろんククルカンの土地に作った運河なので、所有権はククルカンが有している。だが、出資したのがペヨーテのため、管理権はペヨーテが有している。

 この運河の利用価値は非常に高く、税収という形でとんでもない額の収入がククルカンに入ってくる事になった。


 すると、今度はククルカンの南部が独立運動を開始した。当然チプチャ運河の所有権を主張。現在、南部の独立運動の拠点となっているバカタでは毎週のように暴動が発生している。


 そんな情勢のため、民衆は瑞穂に比べると酷く好戦的だし、国際大会で何か問題があり、それの対処に失敗すれば、それは南部の独立を後押しする事になりかねない――



「だから相手の監督と選手を呼び付けて指導したという実績が欲しいのだと思います。それを写真付きで本国に送って相手を屈服させたという風にしたいのだと」


 何の理由も無く大量失点で負けたという事にはできないのではないかと板倉は車の中で説明した。

 だが、荒木だけじゃなく、仰木も岡田も何を言ってるんだという怪訝そうな顔をしている。


「ほんまにそんな理由なんやったとしたら、一緒に外務大臣を呼んでくれなあかんのとちゃうの? その前に、それこそ武田会長の出番とちゃうの? なんでうちらなん?」


 どうにも納得いかないと仰木は不貞腐れたような声で指摘。

 口には出さないが板倉もそう思っているのだろう。あえてそれに対しては何も言わなかった。


「お気持ちは私もわかります。ですが、その、ここは両国の関係を損ねないためにご協力いただけないでしょうか?」


 板倉も間に挟まれて厳しい立場なのは十分理解はできる。

 だが、恐らく外務大臣も連盟の武田会長も、それを狙って板倉を派遣してきているのが目に見えるだけに、仰木たちの怒りは収まらない。


「勝ったら相手の領事館に行って誰かが腹を詰めなあかんとなったら、代表選手なん何人おっても足らへんやろ。そこんとこ連盟はちゃんとわかっとんの?」


 その岡田の指摘は実は板倉が最初に指摘した事ではあった。

 板倉は胃を押さえながら無言でため息をついた。



 領事館に到着すると、屈強な軍人に銃底で突かれながら領事館の中へ入るように促された。

 掛布がそれに反発すると、軍人は無言で銃口を掛布に向け顎で入館を促してきた。


「なんやこれは? こちとら友好国の一市民やぞ? こんなんして良えと思っとんのか? 友好国やったら銃口やなく握手で迎え入れるもんとちゃうんか!」


 そう掛布が啖呵を切ると、軍人たちは一斉に荒木たちを取り囲み銃口を向けた。


「撃てよ! おら、撃ってみ! 撃ったらてめえらは終いや! 明日からお前らの事を国際社会は『未開の蛮族』いう扱いをするだけや。それを望むんやったら、ほら、撃ってみいや!」


 何を言っているか言葉はわからないながらも仰木の剣幕に軍人は怯んだ。


 どうやら外で大声で揉めている人がいるという事が周辺の大使館にも知られたらしい。隣近所の大使館から一斉に人が顔を出した。

 そこで軍人に銃口を向けられている市民の姿を見てぎょっとし、大使館から何人か人がやってきた。

 この時に来たのはブリタニス、テエウェルチェ、バターフの各大使館員。


 ブリタニスの大使館員が「穏やかじゃないが何の騒ぎだ?」と瑞穂語でたずねた。

 仰木も掛布も完全に頭に血が上っている。そのため、板倉を差し置いて荒木が事情を説明した。


 するとブリタニスの大使館員は、ここで待つようにと言って大使館へ一旦戻った。


 バターフの大使館員は軍人に向かって「ここに呼んだ時点で彼らは国賓であり、国賓に銃口を向けるのは国際条約違反だ」と言って、銃口を下げるように命じた。

 それでも銃口を下げないククルカンの軍人を見て「そっちがその気ならこちらにも考えがある」と言って、その場で携帯電話でどこかに連絡を入れた。


 そこから暫くその状態で睨みあいが続いたのだが、先にバターフの大使館員が呼んだ人物が到着した。

 来て早々に、大使館の外から写真機で何枚もの写真を撮影。


「今日中にこの事は我が国の報道によって世界中にばらまかれるだろう」


 バターフの大使館員はククルカンの軍人にそう通告した。


 そうこうしているうちにククルカン大使館前は各国の大使館員が集まって来てしまい大騒動に発展してしまっている。

 どう考えても異常事態。

 しかもククルカン大使館員の国際条約違反によって。


 すると事が大ごとになったのを気にしたククルカン大使が大使館から姿を現した。

 普通大使といえば背広か民族衣装と相場は決まっている。

 ところがククルカン大使が着ているのは軍服であった。


「何をしている! さっさと中に入らんか!」


 実に高圧的にククルカン大使は荒木たちに命じた。

 それに仰木が激怒。


「断る! 用があるんやったらここで言うてもらいたい! この各国の大使館の方々の前でや!」


 ククルカン大使と仰木が睨みあう。

 そこに別の人物が到着した。


「チェレス駐瑞大使、これは本当に本国からの指示なのですかな? もしそうだとするなら、私はブリタニス大使としては貴国との関係の一時停止を本国に進言しないといけなくなりますが?」


 到着したのはブリタニスの駐瑞大使スタンリーであった。

 スタンリーの指摘にククルカン大使のチェレスは歯噛みした。

 今度は普通の口調で大使館の中に入るように促したのだが、それでも仰木は拒否。


「ここに机と椅子を持ってくれば良いだけの話ではないか。何もやましい事が無いのなら問題はあるまい?」


 スタンリーの提案に、チェレスは渋々了承したのだった。

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