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竜杖球 ~騎手になれなかった少年が栄光を手にするまで~  作者: 敷知遠江守
第四章 騒動 ~代表時代(前編)~
201/282

第20話 一次予選開幕

 いよいよ代表戦の初戦を迎えた。場所は皇都国立競技場。


 控室では選手たちが各々竜杖を布で磨いたり、靴を磨いたりして心を落ちつかせている。

 伊東と秋山のように、世間話をする事で気を紛らせている人たちもいる。


 こういう時の荒木は、荷物棚の方を向いて、竜杖を手の平に乗せて均衡を取り続けるという遊びをするようにしている。

 これは高校時代からの癖のようなもので、たまに均衡を崩して床に落として大きな音を立ててしまう事もある。どういうわけか、そういう時には試合に出場できない。

 今回はなんとか監督が来るまで均衡を取り続ける事ができた。


 仰木監督が入室してくると、それまで椅子に腰かけていた選手たちが一斉に立ち上がった。

 そんな選手たちを仰木はじっくりと見回していく。


「今日は大事な初戦だ。なんとしてでもここを落とすわけにはいかない。そこでまずは勝ちに行く事を優先させようと思う」


 そう言って、仰木はポケットから紙片を取り出した。

 それを選手の表情を確認しながら読み上げていく。


 守衛が石嶺、後衛が秋山と島田、中盤が高橋、原、掛布、先鋒が村田。


 先発に秋山の名が挙がった事で、選手たちは一様に驚いた顔をした。

 昨年の今頃はまだ太宰府の無名選手だった秋山が、まさかの開幕初戦の先発だなんて。


 補欠席でも話題は秋山の事で持ち切りであった。

 「新聞が宣伝記事を書いたから使わざるを得なかったんじゃないか」と落合が毒づいた。

 「秋山は見栄えの良い顔をしているから資金提供してくれている企業が出せと言って来たのかもしれない」と新井も毒づいた。


 同じ球団である伊東は、そんな言いたい放題の先輩たちにかなり不満顔であった。

 実際にすぐ後ろで秋山を見続けて来た伊東が、この中では最も秋山という選手を理解していただろう。



 相変わらずククルカンの選手は行動が荒く、試合開始から数分で掛布が竜から突き落とされ、相手に注意の黄札が提示された。

 その数分後にも別の選手が今度は高橋を突き飛ばして落竜させた。審判はこれにも注意の黄色札を出した。


 その試合の審判が誰になるかというのは、試合前日に発表となる。

 元々何人かの国際審判員という人たちがいて、その人たちを国際竜杖球連盟の太平洋・瓢箪大陸本部が派遣している。

 対戦する両国からは審判は選ばれず、第三国から選ばれる事になっている。通常、予選は二班に別れて行われるので、別の班の国の審判が選ばれる事になる。

 今回の審判団はタノイ連邦の審判団であった。


 タノイ連邦の審判団はククルカンの選手たちが違反を繰り返しているとは感じながらも、自分の裁定によって試合を壊してはいけないと考えているらしい。そのせいで黄札を出してはいるものの、明らかに裁定がククルカン寄りになってしまっていた。


 補欠席で見ている限りだと、瑞穂の選手たちの速度にククルカンの選手たちが対応できていないように感じる。それをククルカンの選手たちは反則行為で止めに来ている。

 だが、審判はそれを見て見ぬふりをしている。



 前半十五分を過ぎた。

 掛布が原の前方に球を打ち出し、原が相手選手を振り切った事でかなりの好機となった。

 原はそのまま敵陣深くに球を持ち込んで行き、中央の村田に球を渡した。


 三八歳と選手としてはかなり山を越えた感のある村田だが、竜を速く走らせるという点においては、まだまだ若い者には負けていない。

 あっさりと敵の後衛二人を振り切り、村田は竜杖を振りかぶった。

 ところが相手の後衛はその村田を竜杖で薙ぎ払った。

 竜杖の頭部分が村田の脇腹、防具と防具の隙間にめり込み、村田は悶絶して竜から落ちた。


 審判は笛を吹き、後衛選手に注意の黄札を提示。

 ニヤニヤしながら審判を見るククルカンの選手に、審判はしまったという顔をした。故意であれば、ここは注意では無く、警告の赤札じゃなければいけないところであった。


 落竜によるものなのか、他に何か負傷したのか、村田は悶絶しながら口から血を垂らしている。

 審判は試合を止め担架を要請。

 担架に乗せた際に村田は咳込み、口から血が吐き出た。


 救護班は村田の状態を見て、大会本部の方に合図し救急車を要請。

 そっと村田を競技場から運び出した。



 瑞穂の選手たちが睨むような目で審判を見ている。

 ククルカンの選手たちはしてやったりという顔で歓談している。

 この対照的な光景で審判は自分の裁定が誤っていた事を実感した。



 奥に運び込まれた村田を見送った仰木は、西崎と荒木を見比べた。

 実に悩ましい所だった。


 すると、その視線に気づいた荒木は、仰木に向かって自分を親指で指差した。

 自信のありそうな顔をする荒木に、何か策のようなものがあるのだろうと感じ、仰木は頷いた。


 相手の反則による負傷交代の為、この交代は交代枠には含まれない。


「荒木、球だけじゃなく相手の竜杖にも気を付けろ。やつらお構いなしで殴ってきやがるぞ」


 竜に跨り競技場に竜を乗り入れると、すぐに高橋が竜を寄せて来てそう助言をした。


「わかってます。俺そういう奴らと何度も当たって来てるんで、なんか予感みたいなのが働くんすよ」


 荒木がにっと白い歯を高橋に向ける。

 掛布もやって来て同じ事を言ってきた。


「俺、二軍で殺されかけてから古武術を習ってるんですよ。もし同じような事をして来たら返り討ちにしてやりますよ」


 妙に心躍っている荒木に、掛布もそれ以上の言葉が見つからなかった。

 「とにかく気を付けろ」と声をかけただけであった。



 試合は村田が落竜させられた場所からの打ち出しで試合開始となった。

 少し下がった場所から掛布が竜を走らせて篭に向けて球を打ち出す。

 掛布の打った打球は相手の守衛の竜杖に弾かれてわずかに篭から外れた。



 相手の守衛の打ち出しで試合開始となった。

 相手の中盤の選手が球を小さく打ち出しながらじっくりと攻め込んで来る。


 ククルカンの選手たちは反則ばかりしてはくるのだが、それを差し引いてもそれなりに技術は高い。

 掛布の守備をすり抜け、球を右翼の選手に渡す。


 だが、高橋が持ち前の速さでその前に球を奪ってしまった。

 相手の選手はすでに一度黄札を受けており、反則ができない。そのため、高橋は悠々とそれを後方の秋山に渡す事ができた。


 秋山がゆっくりと球を打ちながら攻め込んで行く。

 まるで反則をしてこいとばかりに。


 ある程度攻め込んだところで秋山は掛布に球を渡した。

 掛布はすぐにその球を荒木と敵の後衛の先に大きく打ち出した。


 荒木が球を追う。

 敵の後衛二人も追う。

 荒木はわざと、先ほど村田を竜杖で殴りつけた後衛の方に竜を寄せながら球を追った。

 徐々に後衛二人が荒木から遅れる。


 するともう一人の後衛が荒木の竜を竜杖で殴りつけようとした。

 荒木はそれを確認もせずに竜杖を真後ろに振る。


 ガキンッ!


 派手な音を気にも留めず、荒木は再度振りかぶって、球を打ち出す。

 その打球は敵の篭の左隅に飛び込んで行った。

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