第97話 強力な協力者・2
2人を迎え入れてテーブルを4人で囲おうとすると『狭いの嫌だから』とソフィアだけベッドに腰掛ける。
「ネーヴェ……本当に協力してくれるの?」
ニコニコの優里に反して肝心のネーヴェが無表情なので改めて確認する。
「アスカ達の邪魔をしたらダンビュライト侯が死にますから……放っておくよりは協力した方が状況を把握しやすい、という皇家の判断です」
「協力してくれるのはありがたいけど……呼んだばかりのツヴェルフ4人のうち3人も帰しちゃって大丈夫なの?」
数年おきならまだしも十数年おきにしか召喚できないツヴェルフを手放す事は皇家にも有力貴族達にも大きな損失になるはずだけど――
「……大丈夫ではありません。ですが、幸いまた新たなツヴェルフが召喚できるのは10年後……その頃、今の公爵家の嫡子はまだ適齢期です。今、ダンビュライト侯に命を絶たれる事の方が大丈夫ではないのです」
なるほど、消去法で味方してくれる訳ね。
それだけ皇家にとってラインヴァイスが何処かに消える事と純白の魔力が途絶える事は避けたいらしい。
「しかし他の貴族達の手前、表立った協力はできません……僕達が協力するのはあくまでもル・ターシュへの転送だけです」
淡々と話すネーヴェの言い方からしぶしぶ協力せざるをえない、という様子が感じ取れた。
だけど地球に帰るにあたっての一番の課題はこれでクリアできた事になる。
「それだけで十分よ。ありがとう。それで……優里はネーヴェにどこまで話したの?」
「私が分かってる事は全部話しました」
という事はこのまま話を進めてよさそうだ。もし分からない点があればネーヴェから優里に聞くだろうし。
「じゃあ、私が持ってる追加情報から話していくわね。ル・ターシュの次の周期が1ヶ月後……緑の節の5日って事と、以前のツヴェルフの転送は今の神官長がやった事だってクラウスが調べてくれたわ。」
ソフィアは既に話してる事もあって平然としてるけど、優里が驚いたように目を見開く。そんな中でネーヴェがポツリと呟いた。
「……ダンビュライト侯は本気で貴方達を地球に帰そうとしてるみたいですね」
「あら、もしかして1ヶ月後の事を誤魔化して3年後に引き延ばす予定だった? 3年の間にあれこれ説得すれば子ども2人位産んでくれるかもしれないものね?」
ソフィアの鋭い指摘に、ネーヴェは何の感情も見えない表情でソフィアを見つめる。
だけどもうその表情を見慣れてる事もあってか、今ネーヴェがちょっと歯を食いしばってるのが分かる。
好意的ではない人間の協力を仰ぐと言うのはスリルがあるというか、いつこっちに刃が飛んでくるか分からない……といって使わない訳にもいかないんだけど。
何だかちゃんとメンテナンスされてないチェーンソーの電源を入れたような気分だ。チェーンソーなんて触った事無いけど。
「ソフィア、優里も揃った事だしコッパー家で聞いた話、教えてくれる?」
ネーヴェから視線をソフィアに移す。朝は聞けなかったけど3人揃った今なら教えてくれるだろう。
「ネーヴェの前で話しても大丈夫なのかしら?」
ソフィアも先程のやりとりに不信感を抱いたのだろう。少し怪訝な眼差しでネーヴェを見据える。
私もいつ手の平を返すか分からない人間相手に手の内を全て明かすのは危険だと思う。
「そう思うなら、今話せる範囲で構わないわ」
そう促すとソフィアは小さくため息をついて話しだした。
「……40年前に、ユミって名前のツヴェルフがいたのは間違いなかった。彼女は、当時の皇太子……今の皇帝の子どもを産んだ後、ル・ターシュに飛んだそうよ」
「有力貴族じゃなくて、皇族と……?」
由美さんがこの世界に来たのは間違いないと思っていたけど、まさか、相手が皇帝とは予想外が過ぎる。
「そう。皇帝は<恋愛>と<子づくり>が別の人みたいで……その時召喚された中で一番器が大きかったユミに子ども産ませて少し経った頃に別の女と恋愛結婚して、次は神官長の子どもを産みに行けって命令したそうよ」
「うっわ、皇帝、最低じゃない……?」
皇帝――パーティーで一目見ただけだけど、あの温厚な感じは嘘の姿だったのだろうか?
「ね、控えめに言ってもクズでしょ?」
「ええ、もうそりゃ地球に帰りたくなるわ。いくら豪華な生活を約束されてようと愛人囲われて家追い出されたらその勢いで帰りたくなるわ」
ソフィアの言葉に大きく頷く。何処かで聞いたような展開にチラ、とネーヴェを見やると何故か顔を俯かせている。
「そ、それで、その後どうなったんですか?」
優里がちょっと気まずそうに先を急かす。
「ユミが神官長とセン・チュールで暮らし始めた頃、ル・ターシュのお姫様が反旗を翻して複数人のツヴェルフと一緒にあの塔に立てこもったんですって。ユミが巻き込まれたのか自ら進んでお姫様の所に行ったのかは知らないって。ただ、皇帝はともかく神官長はユミの事が本当に好きだったんじゃないか? って言ってたわ」
「じゃあ、神官長は好きな女が地球に帰りたいって言うから皆まとめて転送した……って事?」
言ってはみたものの、好きな女一人返すために他のツヴェルフ達もまとめて転送――というのはかなり考えづらい。
だってそんな事をしたら絶対他の貴族達に恨まれる。皇家は絶対的な存在ではないとクラウスも言っていた。
「さあ……神官長が転送した理由まではハッキリ分からないって。で、この事件以降皇家がツヴェルフの待遇改善に動き出したらしいわ。私が聞いたのはこれだけよ。あまり大した情報を得られなくてごめんなさいね」
ソフィアはそう言うと両手をマットレスについて天井を見上げる。
「全然。当時の事情や状況が聞けたのは大きな収穫だわ。由美さんが地球に帰った理由も分かったし……ソフィアも無事に帰ってきてくれたし。ね、優里?」
「はい。今のソフィアさんの情報で皇太子が伯父さんだって確証が得られました。皇太子の名前が日記にあった伯父さんの名前と同じだったから、もしかしたらと思っていたんですが確証が得られなかったので……」
「……え?」
優里の発言に思わず声が上がるが、確かに、由美さんが皇帝の子を産んだなら優里の伯父さんは皇太子、という事になるのか。それにしても……
「優里、皇太子の名前なんていつ知ったの?」
「アシュレーさんが皇帝に確認しに行って来いって言った時にお会いして、その時に」
優里にそう言われてアンナが倒れた時の事を思い出す。
そう言えばネーヴェが確認しに動いた時、私はアシュレーに引き留められた結果アンナの所に行ったけれど、優里はそのままネーヴェに着いていったんだった。ただ――
「……アシュレーそんな事言ってたっけ? 神官長とリアルガー公に確認してこい、みたいな言い方してなかった?」
『さっさとお前の爺ちゃんや親父に俺がアンナを家に連れて行っていいか確認してこいよ――』確か、こんな風な言い方だったはず。
「……神官長は、僕の大叔父です」
「え……?」
ネーヴェの抑揚のない言葉に、思わず耳を疑う。祖父じゃなくて、大叔父? 大叔父って確か、親の叔父だっけ? という事は――
「僕の祖父は、今の皇帝です」
私が答えを弾き出すより少し早くもたらされた事実に返す言葉を失う。
そして先程思いっきり皇帝を最低呼ばわりした挙句、そりゃ由美さんも地球に帰りたくなるわと痛烈に批判した事を――ちょっとだけ――反省した。




