第31話 授業・魔物と魔法
「なお、通常はツヴェルフが歓迎パーティーで出会った方や数日過ごした中で良いと思った人に狩りの招待状を送り、狩りの後で最初の伴侶を決めて頂くのですが……」
天井を見上げてる間にまたメアリーが話し出したので、再び視線を教壇の方に向ける。
<最初の伴侶>という言い方が引っかかったけど、きっと言葉の通り最初の夫を誰にするかという意味なんだろう。
パーティーで多くの人と接し、気になった人達に狩りの招待状を送って少人数の中でパートナーを見極めさせるやり方は、客観的に見ればとても合理的だ。
貴族達だって狩りに誘われた時点でツヴェルフに良い印象を持ってもらえてるって思うだろうし、狩りで活躍すれば最初の伴侶に選んでもらえるかもしれない。
そうでなくても1人目の子どもが産まれた後、自分の求婚に応えてくれる可能性が高い――侯爵家が狩りの為にわざわざ1週間も皇城で待機するのも分かる。
(……あくまでも、ツヴェルフの恋愛感情を抜きにして考えれば、の話だけど)
弱き者は強い者に従う、というル・ジェルトのツヴェルフが自分より強い人間の言葉に従って複数の異性と子どもを作るのはまあまあ理解できる。
だけど、他の異世界のツヴェルフは? 過去の地球のツヴェルフは?
何を思い、複数の男を渡り歩いて彼らの子を産んだんだろう?
アシュレーやリチャードを見る限り、この世界の人はツヴェルフに恋をしない訳でもなさそうだ。だから愛があるケースもあるだろう。
だけど、恋も愛も無いケースも少なくない気がする。
一妻多夫と言えば聞こえはいいけど、跡継ぎを作る為の道具を皆で共有してるだけ――そう思うと、どうしようもない虚しさが襲ってくる。
「……ので、私の授業を全て終えた時点で、誰と婚約するか決めて頂きます」
「そこで誰も決めなかったらどうなるんです……?」
メアリーの言葉を若干聞き流してしまった事に気づいた時には、アンナの質問が室内に響いていた。
「そのまま皇城に保護されます。しかし皇家が<このツヴェルフは貴族達と結婚する意志が見られない>と判断した場合、皇城を出て自活して頂く事になります」
なるほど。1週間の間にあれやこれやと色んな貴族と出会わせたり強さを見せつけたりして、それでもツヴェルフが靡かなかったら突き放して泣きついてくるのを待つ――って訳か。
「出ていく時、魔護具は全て返さなきゃいけないんですか?」
自活を視野に入れているのか、優里が確認する。
相手が話す言葉と自分が話す言葉を翻訳してくれるイヤリングやチョーカーを返さなければならないとなると、自活はかなり厳しい。
「魔護具はそのまま差し上げます。それらが無いとツヴェルフはこの世界で自活すらできないでしょうから」
メアリーの返答にほっとしたものの、泣きつかせたいなら魔護具も回収すればいいのになぜそうしないのだろう?
ツヴェルフの意思を尊重する手前? せめてもの慈悲?
中途半端な優しさに違和感を覚える。
「では、そこで婚約が決まったらどうなるんですか?」
「婚約後はメイドを連れて婚約者のお屋敷にお引越しする事になります。既に婚約されているアスカ様は狩りと私の授業が終わり次第、セレンディバイト家に移動して頂きます。狩りや授業を不参加にして、今日にでも移動して頂いても構いませんが……」
メアリーがアンナの質問に答えながら私を見据える。
これからソフィアに地球に帰る為の情報を手に入れてきてもらうのに、わざわざ移動する理由はない。
「私はメアリーの授業、最後まで受けたいです」
「……分かりました」
メアリーの目をハッキリ見て答えると彼女はちょっと咳払いをしてそう答えた。
頬がほんのり頬が赤いがする――もしかして『授業受けたい』と言われたのが嬉しかったんだろうか?
(ここにきてメアリーのツンテレ疑惑が浮上するとは……って、そんな事よりちょっと雲行きが怪しくなってきたわね……)
明日その狩りがあって、明後日ソフィアがコッパー家に出発するとして――戻って来るまで私はここに居続けられるだろうか?
行って話を聞いて帰ってくる――そんな単純な話なら良かったけど、実際は相手からおもてなしされたりするだろうし、また相手が素直にソフィアを皇都に帰してくれるかどうか――道中でトラブルがあるかも知れないし。
ソフィアの帰って来る日によっては、既に私はダグラスさんの屋敷に――なんて事になってもおかしくない。
それに仮にソフィアが間に合ったとしても、それ以降は3人で集まる事がかなり難しい状況になりそうだ。
あの人や他の有力貴族が毎日毎日ソフィアや優里と会わせてくれるとは思えない。
このままソフィアをアーサーの家に行かせていいものか、今後どんな風に打合せするのか――その辺りの事も今日の夜、話し合わないと。
「狩りについての説明は以上です。それでは招待状の話に戻りますが、ソフィア様……もう一人はこちらで選別させて頂いて宜しいですか?」
「……待って。彼の弟のリチャードを招待するわ」
「リチャード……? 近衛騎士のリチャードですか? 彼は……」
困惑の表情を浮かべたメアリーにソフィアは更に言葉を重ねる。
「何? リチャードを連れていったら何か問題なのかしら?」
「……いいえ。アーサー様の補助としてなら異母弟である彼は適任でしょう。分かりました」
不機嫌なソフィアの追及にメアリーは首を横に振って呟くように答える。
何だか含みのある言い方が気になったけど、そこを追及する前にメアリーは標的を変えた。
「次にアンナ様……リアルガー家のアシュレー様以外に招待したい人はいらっしゃいますか?」
「え、えっと……いません……」
パーティーで騒ぎを起こした原因の名前がここで出る、という事はメアリーにも昨日のアシュレーとアンナのやり取りが伝わっているようだ。
アンナも顔を赤くしながらもアシュレーを呼ぶ事は拒否していないあたり、まんざらでもないんだろう。
「では、こちらでもう1人手配します。最後に、ユーリ様は……? 現時点ではまだ懇意にされている方はいらっしゃらないようですが……」
「えっ!? わ、私は……」
最後の標的となった優里は戸惑うばかりで誰の名前も出せずオロオロしている。
そういえば優里は声をかけられても控えめに受け答えするだけで、仲が良い人ができたようには見えない。
「もし誘いたい方がいないのであれば、こちらで2人、ユーリ様に合いそうな方を手配いたしますが……」
優里が目に見えて慌てているのが分かる。
ただでさえ怖い状況なのに、見知らぬ人と魔物退治に挑む事になったら慌てもするだろう。
「あ、じゃあ………えっと、レ、レオナルド様と、ネーヴェ君でお願いしますっっ!!」
「承知しました。リビアングラス家の嫡男であられるレオナルド様と……ネーヴェ様、ですか……?」
優里から知らない名前と意外な名前が飛び出た。
意外だと思ったのは私だけではなかったようで、メアリーが片眼鏡に手を添えて再確認する。
「え、あ……ネーヴェ君は駄目ですか?」
一緒に行きたい、というよりは咄嗟に知ってる名前を言ってしまったんだろう。
優里が遠慮がちに質問すると、メアリーは口に指を当てて考え込む。
「いえ……駄目という訳ではありませんが、年齢的にどうかと……まあ招待状を受け取った上で参加されるかどうかは当人の意思次第ですし、出す分には問題ないでしょう」
メアリーの言葉に、優里はほっと胸をなでおろす。
「それでは、皆さん招待状を出す相手が決まりましたので授業を始めます。この世界の魔物について――」
その言葉と同時にメアリーが勢いよく黒板に文字を書き出したので、慌てて眼鏡をかけて説明を聞きながら書き留めていく。
スライム、ゴブリン、オーク、リザードマン、インプ、ゴースト…魔物は名前や形状はゲームや漫画に出てくる魔物とそう変わりなかった。
ただ、この世界の魔物は人と同じように魔力に色がついていて、同じ種族でもそれぞれ弱点の属性が異なる事も珍しくないらしい。
火を纏った魔物は暖色系の魔力が多くて、青や緑の魔力を持っているなんてケースは滅多に無いけど、そういう属性が無いゴブリンの場合、暗い赤だったり、暗い青だったりとバラバラだとか――戦略とか立てづらそうだな、と思った。
魔物全体の傾向として魔力の色はやや暗い色のようだ。
暗く濃い程、その力を増していく。
魔物とは別の存在に区分けされる精霊や妖精はこのルールには当てはまらないらしい。
次に、魔法について。
魔力に色があるように、魔法には属性がある。
それはファンタジーでお馴染みの地水火風と聖闇を主軸に毒や雷、氷など様々な属性が付随する。
魔法は大きく3つの方法に別れる。魔力で作り出した魔法陣から魔法を発動する<陣術>、手で印を結んで発動する<印術>、呪文を唱える事で発動する<唱術>――その他、魔法を特別な紙や石に込めて発動する<符術>や媒体を組み合わせて発動させる<呪術>など、特殊な魔法もあるらしい。
それぞれ強力になっていくにつれて魔法陣が大きくなったり、印の結び方が複雑になったり、呪文が長くなったりするらしい。
また、魔法と魔力の色には相性があり、得手不得手に留まらず発動までの時間や威力にも影響し、中にはどれだけ頑張っても使用不能な魔法も存在するとのこと。
また、それぞれを組み合わせる事でより強力で複雑な魔法が使えるけど、それらは適性のある人間にしか使えないらしい。
「神官長が貴方達を召喚する際に使用した魔法は最高難度の陣術、印術、唱術を組み合わせないと発動できない、最大最高の魔法と言われているのです……!」
メアリーが感動しながら説明してくれたと同時に、お昼を知らせる鐘が鳴り響いた。




