059 銀のスプーン
仁「こんにちは、魔法工学師の二堂仁です」
礼子「お父さまに作っていただいた自動人形でアシスタントの礼子です」
仁「作者が実際に作ったあれやこれやを、俺の解説で紹介するっていう企画の第59弾です」
礼子「銀のスプーンですか」
仁「まだ銀が(貴金属が)安かった頃に買った銀板を生かして作るそうだ」
礼子「当時は線材や板材が1グラムあたり40円くらいだったようですね」
仁「金だってグラム1500円くらいだったようだぞ」
礼子「その時に買いだめしておけばよかったのに」
仁「みんなそう思ってるだろうな……」
* * *
仁「まずはお手本と、それを元に作った型紙」お手本はステンレス製だが
礼子「面白いデザインですね」
仁「うん。これも『マドラースプーン』と言っていいのかもな」あるいはコーヒースプーン
礼子「さじ部分が小さめですね」
仁「ねじってあるのがマドラーっぽいよな」3つか4つ、取っ手の色違いがあったはずが今となってはこれ1つだそうな
仁「で、素材だ」925銀
礼子「スターリングシルバー、というやつですね」
仁「そうともいえない」
礼子「?」
仁「スターリングシルバーというのは組成が決まっていて、銀が92.5パーセント、残り(7.5パーセント)が銅、と決まっているんだ」
礼子「ああ、925銀の場合は銀が92.5パーセントで、あとの組成は決まっていないんですね」
仁「そうそう。だから、融点を下げるために亜鉛が入っていたりもする」
礼子「わかりました」
仁「まあ普通はスターリングシルバーだと思うけどな」
仁「けがく」というかマジックで型紙をなぞります
礼子「2つ作るんですか?」
仁「一応なぞってみたんだ」
仁「で、カット」作者はバンドソーです
礼子「糸鋸でも切れますね」
仁「周囲を削る準備だ」
礼子「削りくずの受け皿ですね」
仁「缶の蓋だけどな」静電気が起きにくいからくっつかないんだ
礼子「くっつくと綺麗に取れませんからね」
仁「で、万力に挟んで端面を削っていく」
礼子「傷がつかないように古ハガキを挟んでいます」
仁「で、これが削ったクズだ」といっても銀粉です
礼子「ちゃんと集めておくんですよね」
仁「うん。後で溶かして固めればちゃんと銀塊になる」磁石で鉄粉は取り除けるから、炭素鋼のヤスリを使うのがいいです
礼子「セラミックやダイヤモンドのヤスリはだめですね」欠片が混じったら厄介です
仁「ダイヤモンドは燃えるかもしれないがな」
仁「成形終了だ」
礼子「少し柄が太いですね」
仁「銀だから強度不足を心配したようだ」お手本は18−8ステンレスだから
仁「で、端面を研磨する」さっきのは成形なので研削
礼子「要するにツルピカにするんですね」
仁「表面も研磨する」大きな傷取りレベルです
礼子「スポンジヤスリですね」
仁「使いやすかったからな」サンドペーパーなら1000番くらいです
仁「さて、焼きなましの準備だ」
礼子「電気炉ですか」よく持ってましたね
仁「伯母さんが七宝焼の教室に通っていた時に買ったものだ」ほとんど使わなかったけど
礼子「あまり大きいものは入りませんね」
仁「今回のスプーンが限界だな」おおよそ長さで130ミリ
仁「温度設定だ」
礼子「銀の焼きなまし温度はこのくらいですか」
仁「うん。摂氏700度で5分保持し、水に入れて急冷する」そうすると軟らかくなって変形させやすくなります
礼子「デジタル制御だからやりやすいですね」
仁「バーナーとかコンロで炙ってもいいけどな」薄赤くなったら急冷です
礼子「銀は赤橙色を過ぎると溶けますので要注意です」
礼子「925銀は純粋な銀よりも融点が低いからなあ」銀は摂氏960度くらいで925銀は摂氏915度くらい
仁「熱処理をするとこうなる」
礼子「黒くなりましたね」
仁「おそらく酸化銀だ」磨けばすぐ落ちます
仁「まずはひねる準備だ」
礼子「ひねる箇所をマーキングですね」
仁「それ以外がねじれたら困るからな」
仁「で、印をつけた場所をフリーにして万力に固定し、プライヤーで挟んでねじる」
礼子「傷をつけないよう紙を当ててますね」
仁「あと、少し引っ張りながらねじるといいみたいだ」
仁「ねじり終わった」
礼子「少しよれてますね」
仁「それは十分修正できるから大丈夫だ」
仁「さて、さじ部を凹ませるわけだが、準備が必要でな」
礼子「プレス型を作るんですね」
仁「プレスというのか……まあ、鍛金用の型だな」まずは雌型から
礼子「ケヤキの厚板ですね」他にもいろいろな凹みがあります
仁「堅いからもってこいだ」木製スプーンを作った時の彫刻ノミで彫っていく
礼子「ときどきお手本のスプーンを当ててみれば見当がつきます」
仁「で、雄型づくり」こっちは多分松材
礼子「カンナでおおよその形を作ってしまいます」
仁「まずは平面形を合わせ、それから先を丸めていく」ひたすら削ります
礼子「こちらも、ときどきお手本のスプーンに当ててみれば見当がつきます」
仁「できあがり」
礼子「なんとも言えない雰囲気が」
仁「……」
仁「で、雌型に素材を当てがって、雄型を当て、木槌で叩くと簡単にこういう形になる」
礼子「型ができていれば楽ですね」
仁「量産したくなるな」銀は高いけど
礼子「2026年4月下旬時点で925銀はグラムあたり350円から380円です」作者さんが買った時はグラム42円くらいだったとか
仁「で、こんな感じだな」
礼子「だいぶ形になりましたね」
仁「まだ軟らかいから、形を整えるには向いているな」
仁「首元、というのかな? さじ部の曲がり方を調整だ」
礼子「指輪を作った時の当て革が付いたやっとこですね」
仁「傷を付けたくないからな」
仁「熱処理をして硬くする」
礼子「950銀や純銀と違って熱硬化できるんですよね」
仁「それが925銀の長所だな」
礼子「温度設定は?」
仁「いろいろ説があってな……」摂氏250度から300度で30分から2時間保持し、徐冷する(ゆっくり冷ますこと)とか
礼子「作者さんは摂氏290度30分ですか」
仁「熱処理後だ」
礼子「更に黒くなりましたね」
仁「で、あとはひたすら研磨だ」作者はリューターも使っています
礼子「凸面はともかく、凹面の研磨がやりにくいですね」
仁「そうだな。スポンジヤスリは凹面研磨に向いていると思う」
仁「研磨終了」
礼子「きれいになりましたね」
仁「ちゃんとした写真は後でな」
仁「で、取っ手を作るんだが、いろいろ考えた末、竹の根(実際には地下茎)を使うことにした」
礼子「こんな素材もあるんですね」
仁「竹藪があるなら掘ってみると出てくるぞ」勝手に掘ると怒られますのでご注意ください
礼子「作者さんはその昔、新木場の材木屋さんで買ったんでしたっけ」ですのでよく乾燥してます
仁「うん、フォークの柄にしたり箸置きを作るのもいいかもな」
仁「カットした」
礼子「2つあるのは失敗したときの予備ですね」
仁「そうそう」
礼子「作者さんはバンドソーですが、竹の根は比較的簡単に切れますので糸鋸や普通のノコギリでも大丈夫です」
仁「穴あけだ」
礼子「まずキリで下穴をあけ、2ミリドリル、3.6ミリドリルの順に穴を広げています」
仁「いきなりやると曲がるのが怖かったのです」
礼子「竹の根は比較的加工しやすかったですね」
仁「そうだな。粘りもないし、堅さもほどほどだったし」
仁「差し込んでみた」
礼子「大丈夫そうですね」
仁「この段階でスプーンの柄は少しだけ細くし、接着が効きやすいようギザギザをヤスリで付けています」
仁「接着は2液型エポキシ接着剤だ」
礼子「お気に入りの2分型ですね」
仁「スプーン側の油分を落とし、穴の中とスプーン両方に接着剤を塗り、差し込む」硬化するまで放置します
礼子「はみ出した接着剤はすぐに拭き取ってください」
仁「接着剤が硬化したら、竹の根にウレタンを含浸させる」いつもの木固め
礼子「食品衛生法上もOKな塗料です」
仁「たっぷり染み込ませます」これで水を吸わなくなり、腐りにくくなります
仁「で、ウレタンが乾いたら、全体を食器用洗剤で洗って乾かせば完成」
礼子「銀の輝きですね」
仁「綺麗だよな」
仁「もう1枚」
礼子「クロススクリーンというフィルタをレンズに装着しているので十字型の光芒が出やすくなっています」
仁「金属や宝石の輝きを表現するにはもってこいだよな」
* * *
仁「ということで今回は『銀のスプーン』でした」
礼子「お疲れ様でした」
仁「作業時の怪我にはご注意ください」
礼子「塗装時には換気にもご注意くださいね」マスクもあったほうがいいです
仁「手を切ったら流水で洗い流しましょう」
礼子「汚れが傷口に残らないよう注意です」
仁「シンナーの取り扱いにもご注意ください」
礼子「あやまって飲み込まないように」
仁「趣味は楽しく、安全に」
仁・礼子「「それでは皆様、ごきげんよう」」
ごらんいただきありがとうございました。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。




