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世間知らずのお姫様と二人の罪人の逃亡記  作者: 近江 由
二人の罪人~ライラック王国編~
83/353

庇いたい王子様

ファンタジー色強くなりました。

 


 マルコムに先導されるがままミナミたちは外に出た。


 外には、小屋を囲んでいた騎士たちが倒れている。

 呻いているところから殺されてはいないようだ。そして、それをやったのはマルコムのようだ。



 マルコムが倒し、馬によって妨害しているお陰で、囲んでいる騎士たちは切り抜けたが、反対方向にいた騎士たちが追いかけてきている。


 マルコムが放した馬の暴走のお陰で、帝国騎士たちが抑えていた馬も暴れて使い物にならないようだ。その証拠に追いかけて来る騎士たちは走っている。


「マルコム!!」

 怒声のような叫び声が後ろから響いた。


 リランを先頭にして、帝国騎士たちが追いかけて来る。

 集団というほどではないが、マルコムの後ろには彼と同じように怒りを表したエミールがいた。

 そして、二人だけでなく他の騎士たちもマルコムに対して怒りを感じているようだ。


「ブヒヒイン!!」

 ほとんど暴れて使い物になる状況ではないはずなのに、リランの横には馬が一頭いた。

 まるで、リランが走るのに並走するようだ。


 リランがエミールの腕を引いて馬に乗った。

 他の団員は知らないが、どうやら二人がかりで追うべきだと判断したようだ。


 圧倒的に馬の方が速い。


「クソ!!愛馬連れて来ていたのかよ…」

 マルコムは後ろの様子を見て、舌打ちをした。


 そしてマルコムは立ち止った。彼は帝国騎士団がいる方向を向いて土に手を当てた。

 その様子を見て騎士たちは慌てた。


 地面が勢いよく隆起し、騎士たちの往く道を阻むように動き始めた。

 いくら帝国騎士とは言え、急に揺れる地面には対応できなかったようだ。


 騎士たちが慌てる声と、馬が啼く声が聞こえる。


 だが、そのまま逃げられるはずもなく、マルコムに勢いよく雷が向かってきた。

 幸い隆起させている地面が阻んだが、マルコムは舌打ちをした。


 彼の視線の先には宙に浮いたリランがいた。

 赤い髪を靡かせ、彼は浮いている。

 そして腕は雷の魔力を纏っているのか、パチパチと弾ける光を纏っている。


「本領発揮か」

 シューラは舌打ち混じりに言うとミナミたちに走るように促した。


「風と雷…」

 ルーイがリランの様子を見て呟いているようだ。

 確かに使える魔力は手の内だから確認するのは大事だろう。


「それだけじゃないから厄介なんだよ」

 ルーイにシューラが苛立たし気に言った。


 しかし、それを追及する余裕はない。


「ひっくり返す。とにかく走って」

 マルコムはミナミがよくやってしまうように自身を魔力で光らせるほど魔力を滾らせていた。


 彼の言う通りミナミたちは走り出した。


 少し離れた位置に着いたことを確認するとマルコムは宣言通り地面を大きくひっくり返した。

 轟音があたりに響き、地面も大きく揺れる。

 予測していないとこれは立つことすら厳しい。


 ただ、ミナミは走る事も難しかったので、ルーイに半ば抱え上げられていた。


 空に浮いているリランは影響を受けないようだが、地面を走る他の騎士は違う。


 しかし、リランはマルコムの傍に雷を放った。

「…死神は伊達じゃないね…」

 舌打ち混じりに言うと、マルコムはその場を離れ走り出した。


 そして今度は地面ではなくリランの浮いている空に手を向けた。


 彼の手から風の魔力が放たれる。

 どうやら浮いているリランを足止めするためのようだ。


 リランはそれに対し、同じように風を向けた。

 そして二人の放った風はぶつかった。


 ミナミはそんな戦いが気になりながらも見る余裕もなかった。

 それは他の者たちもだった。


 ルーイはミナミを支えながら走り、オリオンもバランスを崩しかけながらも走り、アロウやシューラが先導していた。


 マルコムも走りながらリランに対抗し続けている。


 ただ、町中ではできない芸当なので、ここが農地で建物が密集していないことに安心していた。

 おそらく帝国騎士の方も同じだろう。


「バケモンかよ」

 ルーイが呆れたように呟いていた。

 それはマルコムとリランに向けてだ。


「今更だね」

 シューラは愉快そうに笑っていた。

 そして、彼もマルコムと同じようにリランに手を向けた。


「こっちは二人だよ。死神」

 と呟き、マルコムと同じように風の魔力を放った。


 三方向からの風がぶつかり、辺りは木々を揺らし砂埃を巻き上げた。


「目くらましにもなったね。」

 シューラは顎で招くように言うと少し方向転換した。


 安定した地面ではなく、木々が茂っている場所に飛び込み、少しでも見つからないようにするようだ。

「とにかく進むよ」

 気が付くとすぐ後ろについていたマルコムが言った。


 どうやら魔力を使っての大掛かりな時間稼ぎは、これ以上は難しいと判断したようだ。


 それに、砂埃はまだ舞っており、視界は悪いのでここで下手に魔力を使った芸当をして見つかる方が良くないのだ。


「どう進むんだ?」

 ルーイは予定が大幅に変更になっている逃走ルートに不安を覚えていた。

 それはミナミとアロウもだ。


 目的の小屋までまだ少しかかるうえに、準備の時間も得られそうにない。

 遠回りして逃げるにしても、あのリランの様子を見ると、時間がかかるほど逃げる方が不利になりそうだ。


「そのために俺がいる。」

 オリオンは落ち着いた声色で言った。


「オリオン王子…」

 アロウは悲痛な顔でオリオンを見た。


「あんまり遅く走らないで。…僕でも守りにくいから…」

 アロウの警護に付いているシューラが、速度を落としたアロウに注意するように言った。


「オリオン王子は…昔のタレスに…似ているんだ…」

 アロウは首を振って言った。


 タレス…それはミナミとオリオンの父親である前国王の名だ。


「友人の子供に懐かしくなってもいいけど、ほどほどに…」


「私はタレスを尊敬していた。」

 シューラの軽口にアロウが真剣に口答えした。


 シューラは目を丸くしていた。


「恋愛などの感情には負けないものが…私たちにはあった。尊敬と友情と…それはとても貴重なものだ。」

 アロウはシューラに力説していた。


 シューラは眉を寄せて口を歪めた。


「…分からない…なんだよ…それ…」

 シューラは気まずそうにアロウから視線を外した。


「…尊敬…」

 シューラとは対照的に、マルコムは考え込むように呟いていた。


 先頭をマルコム、その後ろにルーイに手を引かれたミナミ、シューラとアロウ、そして後ろの様子を見ているオリオンの順で走っていた。


 帝国騎士たちが今どう動いているかわからないが、目くらましが効いているのならばまだ余裕はある。

 リランが愛馬を連れてきていると言っていたので、馬の追跡がまだされる可能性を考え木が生い茂った道を選び、足場の悪い場所を走った。


 雨がぽつりと降ってきた。

 足場が悪くなるから少し嫌だなミナミは思った。

 ルーイも雨を鬱陶しそうにしている。


 だが、マルコムは盛大に舌打ちをした。

 雨は不自然に強くなった。

 まるで何かを洗い流すように。


 そういえば、姉のアズミが言っていた。

 雨上がりの空はとても澄んでいて綺麗だと…


 馬の走る音が聞こえる。


 ミナミはその方向を見た。

 隣のルーイもだ。


 そこには馬に乗ったリランとエミールがいた。

 そして二人の上には雨が降っていない。


「嘘だろ…」

 ルーイが震えながら呟いた。


「彼は一体…」

 アロウも動揺している。


「馬に乗っているなら好都合だ」

 全員の不安を振り払うようにオリオンが言った。


「マルコム」

 オリオンは険しい顔をしているマルコムに話しかけた。


「なんだい?」


「リランの気を引いてくれ。」

 オリオンは走る速度を落としながら言った。


 その言葉を聞いてマルコムは目を丸くした。


 だが、すぐに頷いた。


 オリオンは自ら盾になる絶好のタイミング得るため、マルコムにリランの気を引かせることを頼んだのだ。

 出来るだけひきつけて、彼の意識をマルコムに集中させることが大事だ。


 もうすぐ木の生い茂った地点を超える時、オリオンが一瞬だけ走るスピードを上げミナミの横に並んだ。


「じゃあ、またな。」

 オリオンは笑顔で言うと、直ぐに速度を落とした。


「お兄様!!」

 ミナミは手を伸ばしたが、ルーイに腕を引かれた。



 オリオンは、後ろの風景に吸い込まれるようにミナミの視界から消えた。


 彼は、後ろを走る馬が対応できないような妨害をするつもりだった。


 まあ、命に関わらないように気を付けようと、オリオンは走り出した。


 オリオンが走り出したのを見て、マルコムは片手をあげて、鋭くリラン達が乗る馬の鼻先に風を放った。

 リランはそれを察知し、すぐに馬を守るように風を纏わせた。


 だが、その瞬間オリオンが飛び出した。


「…!?オリオン!!」

 オリオンの動きにリランが戸惑う声が響いた。


 オリオンの目の前にリランとエミールを乗せた馬が迫っった。


 そして


 ドザン…


「ヒヒーン!!」

 何かが地面に転がった音と、馬の鳴き声が響いた。


 オリオンは息を切らせて呆然と立っていた。


「リラン殿!!」

 後ろで帝国騎士たちが騒ぐのが聞こえる。


 だが、パカッパカッパカッ…と馬の足音は聞こえ続けている。


 若干速度が落ちたが、馬は走っていた。

 ただ、乗っている人物に変化があったのだ。


 オリオンの目の前に広がる光景は、彼が予想したものと全く違った。


「…はあ…はあ…」

 オリオンは、走り疲れたことと緊張の糸が切れたせいか、汗を必要以上にかいた。


 オリオンは自分の身体に怪我がないこと、何も無いことを確認した。

 一体何があったのか…と


 オリオンは、近くで蠢く人影に目を向けた。

「…ぐ…」

 そこには、オリオンとは対照的に、リランがわき腹を抱えて地面にうずくまっている。


 どうやら妨害をしたオリオンを避けるために、リランは落馬したのだ。

 幸い受け身を取れたようだが、衝撃は重いため直ぐに動き出せるものではない。


 そんなリランの様子と、ミナミたちの上に降っていた雨は止んでいることを見てオリオンは自分の判断は正しかったと思った。


 だが、変わらず聞こえる馬の足音は、エミールが一人で乗っていることを示している。


「お前…下手したら…死ぬぞ…」

 リランは痛みに顔を歪めながらオリオンを見て言った。


 不敵な笑顔を浮かべることが多い彼のその表情を見て、オリオンは今の彼からなら逃げられると察した。


 オリオンはリランに返事をせず、彼が動けないこと、また、走って向かって来ている騎士たちの到着まで時間がかかると見たのか、また走り出した。


「何をしたのか…わかっているのか!!?」

 リランが走り出したオリオンに怒鳴った。

 ただ、その声は掠れていて、少し弱っている。


「わかっている。」

 オリオンは足を止めた。


「お前がやっていることは…空回りだ…」

 リランはよろめきながら立ち上がった。


「家族が危ないのに…動かずにいられるか?」

 オリオンは問いかけるようにリランに言うと、また走り出した。


「お前は父親が…国王陛下が何を思って俺と会ったのか知っているのか!?」

 リランは絞り出すような声で叫んだ。


「…知っている。」

 オリオンはリランに聞こえるかわからないくらいの声で静かに呟いた。


 よろめくリランは呼吸を整えるので精一杯だったようで、走っていくオリオンの背中を見送る事しかできなかった。





マルコム(マルコム・トリ・デ・ブロック):

主人公。茶色の髪と瞳をしている。整った顔立ちで人目を引くが、右頬に深い切り傷のあとがある。槍使いで顔に似合わず怪力。身体能力が高く、武器を使わなくても強い。

追われている身であるため「モニエル」と名乗り、本名は伏せている。


シューラ(シューラ・エカ):

主人公。白い髪と赤い目、牙のような八重歯が特徴的。日の光に弱く、フードを被っていることが多い。長い刀を使う。マルコムよりも繊細な戦い方をする。

追われている身であるため「イシュ」と名乗り、本名は伏せている。マルコムと二人の時だけ本名で呼び合う。


ミナミ:

たぶんヒロイン。ライラック王国王家の末っ子。王に溺愛されている。国王殺害を目撃してしまい、追われる身になる。好奇心旺盛で天真爛漫。お転婆と名高い。汚いものを知らずに生きてきた。



フロレンス(リラン・ブロック・デ・フロレンス):

実質帝国のトップに立っているフロレンス家の若い青年。赤い長髪を一つに束ねており、帝国の赤い死神と呼ばれる。まだ若いが、ライラック王国の対応の頭。ミナミの逃亡を助ける。


オリオン:

ライラック王国第一王子。ミナミの兄。王位継承権第一位。ミナミの逃亡の手助けをルーイに命ずる。四兄妹で一人だけ母親が違うが、早くに母親を亡くしているため誰よりも家族思い。


ルーイ:

ライラック王国の兵士。ミナミの幼馴染。市民階級であるが、いつかミナミと並ぶために将軍を目指し剣や勉強に励んでいる。オリオンの命と自らの意志により、ミナミの逃亡の手助けをする。


アロウ:

ライラック王国で表では武器屋、裏では宿屋を営業する男。裏の情報を城に流していた。国王の古い友人でマルコムとシューラの雇い主。


エミール:

帝国騎士団副団長。リランの付き人。茶髪で穏やかそうな外見をして居る。リランよりもかなり年上だが、あまり年齢を感じない。帝国騎士団団長のフロレンス公爵に心酔しており、帝国勢力拡大にはリラン以上に積極的で攻撃的。


ホクト:

ライラック王国第二王子。ミナミの兄。王位継承権第二位。父である国王を手にかける。


アズミ(アズミ・リラ・ハーティス):

ミナミの姉でオリオンとホクトの妹。隣国のロートス王国の公爵家に嫁いでいる。面倒見がよくて明るい女性。



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