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女王と無限の武器  作者: アベワールド
第2章 異星のマリオネット
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第一七話「ファーストコンタクト」

 イザヨさんが来る!

 小夜に直感が走った。

 その時――小夜の目には二人のイザヨが映っていた。

 懐深くにいきなり出現したイザヨと、元の場所で微動だにしないイザヨだ。

 ……まるで雑誌のプレゼントコーナーに掲載された間違い探しの様だった。

 幻覚……なの!?

 とにかく今対処すべきは懐深くにいるイザヨさんだ!

 小夜はエイリアン・百眼男の能力である強力な脚力で、大きく後方へと飛び退こうとした。

 地面を蹴ろうと両足に力を入れる。

 ……ひとまず距離を取ろう。

 そう思った矢先、小夜はいきなり両肩を掴まれていた。

 そのまま凄まじいスピードで地面へと引き倒される。

 ド――――――――ン!!

 訓練室にまるで重金属が落下したかの様な轟音が轟いた。

 小夜が高質化した両腕で受け身を取ったのだ。

 そのまま両腕に力を込める。

 ……グランドに寝ているのはまずい! 非常にまずい! 色々とまずい!

 小夜は寝技の勝負で一度たりともイザヨに勝てた試しがないのだ……それに故意か偶然かは分からないけれど、いつも変な所を触って来るし……

 小夜は一瞬の身震いの後、勢いを付けて立ち上がった。

 両腕の力だけで空中一〇メートルまで舞い上がる!

 重力を完全に無視したかの様な浮遊感。

 宙でくるりと前転を決めてそのまま地面へと着地する。

 ……それにしても今のは一体何だったのだろう!?

 幻覚なの!?

 “告白”に続き又しても精神攻撃を受けたのかな!?

 小夜は未だ混乱の最中にあった。

 ……イザヨさんが二人に分裂して、懐深くに現れたイザヨさんに対処しようと思ったら、今度は背中を掴まれて……つまり……考えたくはないけれど……絶対に止めて欲しいけど……イザヨさんは三人いる!?

 ――イザヨ三姉妹。

 小夜は三人組のイザヨに、上気した顔とハートマークの目で見つめられている所を想像し、ブンブンと大きく首を振った……小夜にとっては悪夢以外の何物でもなかった……

 一方のイザヨは相変わらずのハートマークの目で、ゼーハーゼーハーという荒い息遣いと共に小夜を見つめている。口からは涎が垂れていた。

 今目の前にいるイザヨさんは一人だ……

 これが……これが……ミュータントとの……ひいてはエイリアンとの戦いなの!?

 相手がどんな能力を持っているのかが分からない。

 ……戦い方が分からない! 自分の物差しなんて一切通用しない! 一体どうすればいいの??? お姉ちゃん達はいつもこんなことをしているの!?

 小夜の額を冷や汗が伝った。

 深呼吸を繰り返す……

 戦い方は戦いの中で掴み取るしかないのだ……


 ――小夜の前で再びイザヨが三体に分裂した!

 イザヨ三姉妹!?

 合計六つのハートマークの目が、小夜をねっとりとした目で見つめている……ゼーハーゼーハーという荒い呼吸音のおまけ付きで……

 小夜は勝手に長女と名付けた中央のイザヨと目を合わせた。

 イザヨ(長女)が小夜のことを見つめ返しながらニッコリと微笑み返した……三つの口の口角が同時に上へと上がる……全く同じタイミングで……全く同じ角度で……

 小夜の脳裏に閃きが走った。

 その直後イザヨが又しても懐深くに現れた……背後にいる二人のイザヨを後方へと置き去りにして……

 イザヨのジャブ、ストレートが小夜の顎を狙う!

 バックステップを刻み、顔面へと飛んで来るパンチをかろうじてかわす。

 しかし、それは囮でしかなかったのだ……

「うっ!」

 気付いた時にはイザヨのボディーブローが鳩尾深くに減り込んでいた。

 思わず膝をつきそうになるのを歯を食い縛り必死に堪える……膝を付いた時点でこの戦いは終わりだ……

 しかし、余りの痛みに小夜のガードは崩れていた。

 身体に力が入らない……

 その時、力の抜けた左腕に向けて、イザヨは全身で跳び付いていた!


 ……左腕一本にイザヨの全体重がのしかかる。

 腕が下方へと……グラウンドに向けて引っ張られて行く……

 ミュータントの力を開放し、筋力は人外にパワーアップしているが、それは相手とて同じことだ。

 重い!

 重すぎるっ!

 もし口に出したら最後……小夜は禁断の言葉をかろうじて喉元でこらえていた……

 それは明らかに人間の女性の体重とはかけ離れたものだった……爆発的な身体能力を発現するミュータント・イザヨの筋肉の重さだったのだ。

 何を食べたらこんなに重くなるんですか!? イザヨさん!

 ……絶対に言えないけど!

「うわあああああああああっ」

 小夜はPSE(psycho energy)を開放した。

 左腕一本でイザヨを何とか持ち上げる。

 ……イザヨさんは寝技に持ち込んで、このまま腕関節を極めるつもりだ。倒れる訳には行かない! でも……このまま力の流れに逆らったら、腕が折れるかもしれない!

 しかしだ……このまま無様に負ければ、私は一生捜査官には成れない……つまりお母さんを今助けられない……そして二階席では先輩捜査官の紫田カオルさんが見ているのだ。

 次の瞬間小夜の額が縦方向に割れた……


 ――三つ目開放!

 小夜の中に眠る百眼男の力が全開放された。

 少女の身体から発散されたピンク色のオーラが訓練室を隙間なく照らして行く。それはミュータント・早見小夜のポテンシャルの大きさを物語っていた。

 小夜はイザヨのしがみ付く左腕を、いとも容易く天高くへと掲げていた。

 猶予は無い! 

 ……空中で関節技を極められる可能性もあるのだ。

 小夜は左腕にしがみ付くイザヨを豪快に地面へと叩きつけた!

 ゴキイイイイイイイイイッッ!

 痛ましい音が訓練室に響いた。

 同時にイザヨの表情が苦悶に満ちたものへと激変する……極めようとしていた左腕を即座に離し、一気に小夜との距離を取る……イザヨは右肩を押さえ、大きく口で息を繰り返していた。

 小夜は全開放した百眼男の腕力で、イザヨを訓練室の床へと叩き付けたのだ。

 恐らく肩関節が脱臼したに違いない。

 ……戦況は変わった……あの腕では得意の寝技にはもう行けない筈……なんだけど……

 イザヨは相変わらずのハートマークの瞳で、こちらも変わらず変質者さながらの……否、変質者そのものの、ゼーハーゼーハーという荒い呼吸を繰り返していた。

 んっ!?

 何かさっきよりも、瞳に宿るハートマークが大きくなった気がするけど……気のせいかな!?

 小夜はイザヨの動向を気にしてはいたが、今はそれどころではなかった。

 小夜は三つ目を開放した自分自身のことを何よりも恐れていたのだ……


 ――能力を開放した或る日のことだ。

 小夜は激情に呑まれ、危うく苛めっ子のクラスメートを殺してしまいそうになったのだ……小夜の最高の宝物……お母さんの作ったポシェットを目の前で引き千切られて壊されたからだった……

 それ以来、能力を開放するのが怖くなったのだ……私はいつか人を殺してしまうんじゃないか? 私をミュータントにした、あの人殺しを愛する怪物の様に……

 小夜は深呼吸を繰り返していた。

 パニックの波が襲って来たのだ……

 大丈夫……今は大丈夫……私は大丈夫……小夜は心の中で同じ言葉を繰り返していた。

 大丈夫だ!!!

 私は早見小夜!

 私は人殺しを楽しむエイリアンなんかじゃない!

 そう……そうだ……亜里沙お姉ちゃんにはこう言われていたんだ……

 もし自分の心が百眼男に支配されそうになったら、その時は人との繋がりを思い出しなさいと……

 私は怪物なんかじゃない!

 ――私は人間のお母さんの娘だ!

 小夜は確信と共に思いを言葉にした。

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