表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/12

第十二章 乗組員選定

横須賀での技術解析と日中交渉が進む一方で、レイの運用には、もう1つの大きな課題が残っていた。

潜水艦そのものを動かす人員、つまり乗組員の選定だった。

レイは、技術解析チームを通じて、政府にある提案を出した。


「優秀な軍人であることより、長期間、限られた人数で同じ空間で過ごせるかどうかの方が、私は重要だと思うわ。」

レイの提案に、当初、海軍内部では戸惑いの声が上がった。


軍人の選定は、通常、階級と功績によって決まるものだった。

それでも、ゼロという潜水艦の特殊性を考えれば、レイの主張には一定の説得力があった。


最終的に、海軍はレイの提案を受け入れ、複数の候補者の中から、レイ自身が面談に近い形で関わることを許可した。


潜水艦と陸上の面談の部屋にカメラを設置して無線で繋いだ、部屋の候補者の反応や言葉の選び方を見ながら、レイは少しずつ、7名の人選を固めていった。


選ばれた7名が、初めてゼロに足を踏み入れる日がやってきた。

艦長として選ばれたのは、田中茂大佐だった。


40歳、無骨で寡黙な印象を持つ人物だったが、乗艇用の梯子を降りる際、足元の感触に明らかに動揺していた。


「これは、本当に床なのか。妙に、柔らかい気がする。」

レイがすぐに答えた。

「気のせいじゃないですよ、田中大佐。振動を抑える構造になってます。そして転んだ時に怪我しにくいように作ってあります。」


航海長として乗艦した山城正一少佐は、艦内に入ってすぐ、不機嫌そうに周囲を見渡していた。

「機械の言うことを聞いて働く、というのは、軍人として、あまり気持ちのいいものではないな。」

山城のその言葉に、レイは特に動じることなく答えた。


「機械じゃなくて、レイです。よろしくお願いします、山城少佐。」

山城は、その返答を不機嫌そうな顔で無視した。


機関士の園田俊夫少佐は、艦内の機械区画に入った瞬間、目を輝かせていた。

「話は聞いていたが、これは、すごいな。」

園田は早速、艦内を見回してあちこちのボタンやノブを回して、レイに止められた。

「園田少佐、それ、今は触らない方がいいです。」

「分かった分かった。でも、後で見せてくれよな。」



軍医として乗艦した津田権吉大尉は、医務室を見た瞬間、声を小さく漏らした。

「ここまで設備が整っているとは、思っていませんでした。見たことがない医療機器ばかりだ、私に扱えるのだろうか?」

その声は、ほとんど周りにいた他の乗組員にも聞き取れないほど小さかった。

それでも、レイはすぐに反応した。

「津田大尉。大丈夫ですよ、使い方はすべて解りやすく説明しますから。」

津田は、ホッとした様子で、80年先の機器をみた。



料理長兼農園担当として選ばれた村山弘吉中尉は、艦の後部にある広い空間を見て、目を輝かせた。

「これが、農園になる予定の場所ですか。」

「そう。今は土だけだけど、これから何でも育てられるよ。」

村山は土を少しつまんで口に入れた。

「うん、なるほど。」

そう言って村山は、すでに頭の中で、何を育てるかを考え始めているようだった。


通信士の上杉万作中尉は、無線設備の前に立つと、表情を変えず、淡々と機器を確認していった。



「これは!初めて見るものばかりです。私に扱える代物なのでしょうか?」

「うん、大丈夫だよ、殆どのことは私がやるからね。よろしくね、上杉中尉。」

上杉は短く頷いた。


最後に乗艦した野上國男少尉は、当初、砲手としての配属を期待していた。

しかし、艦内の武装がすべて自動化されていることを知り、少しがっかりした様子を見せた。

「俺の出番、ないんですね。」


レイは、申し訳なさそうな声で言った。

「砲撃の腕は必要ないんだけど、人手は欲しいの。村山中尉の畑仕事と、家畜の世話、手伝ってもらえないかな。」

野上は一瞬きょとんとした後、すぐに明るい笑顔を見せた。

「分かりました。自分は畑も家畜も、嫌いじゃないです。」


それぞれの初対面が一通り済んだところで、レイは、7名を艦内の見学へと案内した。


最初に通された浴場で、檜の香りに満ちた湯船を目にした瞬間、田中は、思わず低い声を漏らした。

「これは・・・。船の中に、こんな立派な風呂があるとはな。」

普段は表情を崩さない上杉も、湯気の立つ湯船を前にして、わずかに目を見開いていた。

「蛇口をひねるだけで、これだけの湯が出るのですか。艦内で火を燃やしてるのか?」

「火じゃないけど、安全な熱源を使ってるから大丈夫。好きなだけ入っていいよ。」

レイの言葉に、津田が、小さな声で呟いた。


「これは・・・、艦内の衛生環境としても、申し分ないですね。」


廊下を進んだ先で、村山と野上は、すでに見ていたはずの農園のスペースを前に、改めて感嘆の声を上げた。

「広いですね。これなら、米も野菜も、相当な量を育てられそうです。」

「畑は二段式だから、色々試してね。工夫したら色々なもの栽培できると思うよ。」

「俺たちの仕事、これからが本番ですね。」

村山の言葉に、野上が頷いた。


「艦内はどれくらいの広さがあるんだ?」

田中艦長がゆっくりと艦内を見回して言った。

「艦の大きさは300m四方くらい、艦内は約100m四方なので田んぼで言うと、丁度、十反です。」

「十反?!」

全員が大きな声で繰り返した。



通路の途中、誰かが、壁に埋め込まれた板に触れ、画面が光って動いたことに驚き、小さな声を上げた。

園田が、それを覗き込んで、目を輝かせた。

「これは、一体どういう仕組みなんだ。後で、じっくり見せてもらいたいな。」

「いいよ。あとで、構造の説明もしてあげる。」

レイの返答に、園田は満足そうに頷いた。


最後に案内されたのは、艦内の小さな劇場だった。


ゆったりとした椅子が並び、正面には、これまで見たどの画面よりも大きな、白い壁のような板があった。

山城は、その部屋に足を踏み入れても、相変わらず腕を組んだまま、表情を変えなかった。


「ここでは、これから、色々なものを見せられると思う。楽しみにしてて。」

レイの言葉に、誰も、すぐには答えなかった。


それでも、その沈黙には、最初に艦へ乗り込んだ時の警戒とは、違う期待感のようなものがあった。


7名が艦内に集まったところで、レイは、艦内スピーカーを通じて、初めての挨拶をした。

「みんな、改めて、よろしくお願いします。私はレイ。これから、長い時間を、一緒に過ごすことになると思う。」

誰も、すぐには言葉を返せなかった。


それでも、その沈黙は、敵意からくるものではなく、これから始まる何かへの、それぞれの心構えのようなものだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ