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エピローグ 番でも番でなくても


同じ頃。


重要機密はもちろん、夫からそんな風に惚気られているなど微塵も知らないヘレナは、王城の一室で王妃たちとお茶を飲んでいた。



「もう~、4日も寝室に篭もるなんて、ユスくんたらやるじゃない」


「アレですわ、遅い初恋が遂に叶って、ストッパーが吹っ飛んでしまったというやつですわ」



散々ユスターシュに愛され、午前中いっぱい起きられなかったヘレナは、午後になってやっと動けるようになると、お世話になったご挨拶にと城に向かった。


そこでご夫人がたにお茶に誘われ、ラブラブぶりを祝福されている(?)ところである。



「・・・でも本当、へーちゃんがユスくんのお嫁さんになってくれて良かったわ。お陰で、わたくしたちもユスくんにどう接したらいいのか正解が分かった気がするの」


「え?」


「そうそう。心を読まれる事を心配したり取り繕ったりするより、いっそ素直に読ませて、驚かせたり笑わせたりする方がよほど面白・・・コホン、良いって気付いたものね」


「え? ええ?」



ヘレナは、王妃、そして宰相夫人の言葉に目を丸くする。



「ふふ、へーちゃんといる時の、ユスくんのあの表情の豊かさといったら、もう見ていて癖になりそうよ」


「分かりますわ。あれを見ると、わたくしもへーちゃんの様に、夫を翻弄できるように頑張らないといけないと身が引き締まりますの」


「えええ?」



ヘレナはユスターシュを翻弄などしたつもりはない。だいぶ笑われた記憶ならあるが。



「まあ、自覚がないところがまた良いのよ。わたくしたちでは十年かかっても辿りつけない境地でしょうよ」



本人が全然納得できない所で褒められ、感心されたが、その後に続いた言葉には完全同意する事になる。



「それにしても、思った通り、2人には立派な馴れ初めがあったわね。やっぱりユスくんとヘーちゃんは結ばれるべき運命の相手だったって改めて思ったわ」


「そういう意味では、ユスくんの『番』宣言も、全くのでっち上げとは言えないわよね」



「あ、ありがとうございます」



ユスターシュの『番』宣言は、全くのでっち上げでもないーーーそう言ってもらえて、ヘレナも心から嬉しく思う。



たぶん、あのとんでもない宣言がなかったら、ヘレナは裁定者との結婚などという大舞台に上がれなかっただろう。



貧乏子爵家の平凡な娘。体は丈夫で健康だが、他に政略結婚で売りになる様な要素はない。


本好きで空想好き、そんな所を喜んでくれるのはユスターシュくらいだ。


そう、心を覗く力を持つユスターシュくらい。



だからきっと、何もなかったら、幼い頃の刷り込みでヘレナへの求婚を続けていたロクタンのもとに嫁ぐ事になっただろう。



たぶんラムダロス夫人からは毎日チクチク嫌味を言われただろうし、ロクタンの知られざる能力も日の目を見なかった。



夫人にイビられ、ボロボロの服を着て、しくしく泣きながら床を雑巾で磨く自分が見える気がした。


そして父や母や弟たちが「あのロクでなしのロクタンめ~~~っ!」と地団駄を踏む姿も。



ヘレナは胸に手を当て、噛み締める様に言う。



「・・・私、ユスさまに番だって嘘を吐いてもらえて良かったです。だって今、とってもとっても幸せだもの」



ジュストとして会っていた時から、素敵な人だと思っていた。

番だと言われて引き合わされても、素直にそうだと信じられるくらい、側にいて気持ちが安らぐ人だった。


自分だけでなく、家族も大事にしてくれて、色々と助けてくれて。


言葉で、行動で、大好きだと告げてくれる。


そして、大勢の人たちの中から、ヘレナを見つけ、選んでくれたひと。



「番でも番でなくても、私、ユスさまが大好きみたいです」



そう言って、ヘレナは笑った。








さて。


この言葉は、王妃たちを通して帰城したユスターシュにチクられ(ちょっと違う)、実はこの日の夜もまた凄い事になるのだけれど。



この時のヘレナは、ただうっとりとユスターシュへの愛を語り続けるのだ。


ーーーそう、今夜のベッドの上でのユスターシュのフィーバーなど予想だにせず。







ーーー完






ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。

皆さまの応援のお陰で、無事に完結まで書き終えることが出来ました。


さて、ここから宣伝になりますが『私に必要なのは恋の妙薬』というお話を2月1日から掲載始めました。


王太子との婚約を解消された公爵令嬢が、他国の20歳以上年上の国王(しかも4人の子持ち)の側妃として嫁ぐ話が持ち上がり、覚悟を決めて向かってみると・・・?というお話です。


良かったらこちらも読んでみてくださいね。

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