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紹介します



外側から見るよりずっと広い室内は、部屋が3つ、寝室と居間と台所があった。


居間に通され、ソファにユスターシュとネクトゥス、そしてアベルが腰掛ける。


そして何故か一緒に招き入れられたジェンキンス、ナリス夫妻が、扉近くに所在なさげに立っていた。



テーブルを挟んで向かい側に椅子を置き、管理人夫婦がそれぞれ座る。



下働きの者だろうか、使用人の服を着た女性がお茶を淹れ、それぞれの前に置く。

その後、使用人はすぐに部屋から下がった。



「・・・さて」



管理者夫妻の夫の方が口を開く。



「ユスターシュ・・・いや、ユス。手紙は受け取ったけど、まさか本当にここに連れて来るとは思わなかったよ」



王族、しかもこの国唯一の裁定者であるユスターシュへの親しげな言葉遣いに、管理者の妻とユスターシュ本人以外の全員が、ギョッとした顔をする。



「ナリスたちをここに送り込んだのにも驚いたが、何故この部屋にまで? プルフトスの方々だけでなく、その2人にも話すつもりなのか?」


「え? 私? 私どもでございますか?」



管理者からの当然の名指しに、壁際に立っていたナリスとジェンキンスが目を見開く。


だがユスターシュはそれに構う事なく話を続ける。



「この事は陛下もご存知だから問題ないよ。だから、もうそろそろ紹介に移ってもいいかな。ああそうだ、その前に2人ともその眼鏡を外してもらわないと」


「・・・分かったよ」



何故か溜息を吐いた男が、ゆっくりと眼鏡を外す。続いて妻の方も。


すると、ユスターシュ以外の全員が驚きの表情を浮かべた。



一瞬で容姿が変化したからだ。


男の茶色の髪と目は、どちらとも王家の色である銀色に。


女の茶色の髪と目は、紫の髪と薄緑の目に。


だが、中でも一番に驚いたのはナリスだった。



「・・・っ、お、嬢・・・さま?」



ぽかんと口を開けたネクトゥスらの後ろで、ナリスは震える声で呟きを漏らした。



「お嬢、さま、え? まさか・・・?」



髪と目の色が変化した女は、呆然とするナリスに向かって困ったように笑った。



「ええ、私よ、ナリス。ラルファよ」


「そんな・・・本当に? 本当に、こんな事が・・・?」


「本物よ。幽霊じゃないわ。この眼鏡で、見た目の印象を変えていただけ」


「っ、ああ、お嬢さま・・・っ!」



ナリスはラルファのもとに駆け寄り、その足元に跪く。そしてポロポロと涙を流す。ジェンキンスもまた、その後からおずおずと近づいた。



「生きて・・・っ、生きておられたのですね・・・っ!」



ラルファはナリスの肩に手を置き、慰める様に何度か摩った。



「ええ。名前は捨てたけれど、この通り愛する人と結婚して幸せに暮らしているの」


「・・・っでは、私は、私はユスターシュさまとヘレナさまに、なんと酷い八つ当たりを・・・」


「そうね。私を思っての事なのは分かるけれど、決して許される行いではないわ。だから下された刑罰に従い、私の側で孤児院の子どもたちを懸命に世話してちょうだい。生涯の無償奉仕としてね」


「ラルファお嬢さまの・・・お側で」


「そうよ。私の側で、ずっと私の仕事を助けるの。でもナリス、私はもうラルファではないわ。これからはラリーと呼ぶのよ。それからお嬢さま呼びもなし」


「はい・・・はい、ラリーさま。私、頑張りますね・・・」



これまでの緊張が一気に解けたのか、それとも安堵か、ナリスの涙が止まらない。

ジェンキンスが背中を摩り、ラルファが肩を優しく叩き宥める、そんな光景を眺めていたのは、プルフトス国の王太子ネクトゥスと大公子息のアベルであった。



先ほどユスターシュから簡単に事情の説明を受けてはいたが、詳しい事情は知らない2人は、この辺りになって、漸く状況が分かってきたらしい。



管理者の妻が、ナリスが乳母として世話をしていた令嬢、即ちイズミル第二王子の婚約者だった。


修道院に行き、その後亡くなったとされる女性は、今もここで生きていた。



ならば、幽閉されたという第二王子は。

もしや、この管理者なる男性は。



「ネクトゥス王太子殿下、アベル公子」



2人がそこまで考えた時、ユスターシュが言った。



「紹介します。私の兄、イズミルです」







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