皆さん、心配性でお節介
(不発の)初夜が明け、王城で王家一家と共に遅めの朝食を取った時。
「コホン、いい朝だな」
「ええ、本当ですわねえ」
ーーーこれは未遂? 未遂か? ユスがくたびれた顔をして、へーちゃんがツヤピカなのは、どう読んだらいいんだ?
ーーーあらあらまあまあ、ユスくんたら、きっとお預けをくらって眠れなかったのね。ものすごいクマが出来てるわ
などという雑音(心の声)が聞こえてきたが、ユスターシュは長年鍛えたポーカーフェイスでやり過ごした。
二週間ぶりに屋敷に帰り、執事のテオに出迎えられた時も。
「ご結婚おめでとうございます。お帰りをお待ち申し上げておりました」
ーーーふむ、これは・・・まだ致しておられない、と見た
という雑音(心の声)が聞こえたが、なんとか無表情を貫いた。
「・・・コホン、え~と、テオ」
「はい。なんでございましょう、ユスターシュさま」
「今日のし、寝室の準備だけど、ええと、サイドテーブルに置く飲み物は全部、アルコール抜きにしてほしいんだ」
「・・・」
「・・・」
「・・・かしこまりました」
ーーーなるほど、アルコール摂取が昨夜致せなかった原因なんだな
・・・っ、致す致す言うな! しかも何だよ、その微妙な間は!
ーーーならばすぐにメイドたちに飲み物の種類変更を伝えなければ。
万が一にでも、置き忘れなどのうっかりミスで、今夜も未遂で終わる様な事があってはいけない。それではユスターシュさまが余りにもお気の毒だ
・・・気の毒、気の毒って。
まあ、確かに気の毒かもしれないけど!
「それでは、私はメイドたちに指示を出して参ります」
ーーーアルコール成分が入っていない飲み物で、色や香りなど、花嫁が喜びそうな飲み物を見繕わなくては。
今日こそ、おふたりの記念すべき初夜を迎えて頂かねばならない
遠ざかるテオの後ろ姿と共に、彼の心の声も少しずつ小さくなっていく。
昨夜の初夜不発の件に関して、テオの冷静な分析と対策を聞くのは神経を削られるが、それでも彼の自分への気遣いや忠義心には感謝すべきなのだろう。
そう思い、ユスターシュがちょっぴりしんみりした時だ。
ーーーしょっや~♪ ラララ、今夜は記念すべきしょっや~♪ しょやしょや~♪ あ~♪ 素敵なしょっや~♪
だいぶテオとの距離が離れ、彼の心の声も微かに聞こえるくらいにまでなった時、きっと油断したのだろう。テオが心の中で鼻歌を歌い出した。
そしてその歌は、流れ込んできたユスターシュの頭の中でも遠慮なく鳴り響いた。
ーーーしょっや~♪ ラララ、今夜は記念すべきしょっや~♪ しょやしょや~♪ あ~♪ 素敵なしょっや~♪
歌はテオの歩幅に合わせて、少しずつ少しずつ、フェードアウトしていく。
ーーーしょっや~・・・すて・・、なしょ・・・♪ ララ・・・こん・・・っや~♪ ・・・や~♪ ・・・~♪ ・・・♪
・・・いつも冷静沈着なテオがあんなに浮かれるなんて。
完全にテオの心の鼻歌が聞こえなくなった時、ユスターシュは思わずがくりと膝をついた。
国王はスキップしていた。
王妃はずっとニヨニヨしていた。
第一王子はまだ小さいから不思議そうな顔をしていたけれど。
宰相はすれ違い様にウインクしてきて、ハインリヒは黙礼。
そしてトドメがテオの鼻歌だ。(しかも心の中)
正直、王城からずっと、ものすごく、ものすご~く恥ずかしい。
けれど、皆がユスターシュの恋の成就を、自分の事の様に浮かれ、喜んだり心配したりしてくれているのは、ちょっと嬉しくもある。
「ユスさま~」
虎じろうとの久々の再会を果たし、満足顔のヘレナがユスターシュの所に戻ってきた。
「あのですね、なんだか今日の晩ご飯は、都合でいつもよりも早めになるそうですよ」
「ふ、ふ~ん、そうなんだ。いつもよりも・・・早く・・・」
・・・じゃあ、いつもよりも早く部屋に戻れるんだ。
ユスターシュは心の中でテオを始めとする使用人たちに感謝した。
そして、彼らの応援に応え、今夜こそ、ヘレナとめくるめく初夜を過ごそうと決意する。
そう心に決めたユスターシュは、その決意通り・・・
「え・・・うわ、はわわわ、そんな・・・ユスさま・・・」
「大丈夫、怖がらないで」
「は、はひ・・・ひゃっ、ふわっ」
「大好き・・・愛してるよ、ヘレナ」
「~~~! ☆△○●♡▽」
遂にめでたく、めくるめく初夜をヘレナと過ごしたそうな♡




