表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/110

それを知るのは


『それでは誓いの口づけを』



祭司のその言葉の後、ユスターシュの端正な顔がゆっくりとヘレナの上に落ちてくる。


それに応えて顎を上げ、唇を軽く突き出した、ちょっと間抜けなキス待ち顔のヘレナ。

そんな彼女の心の中は、やんややんやのお祭り状態だ。



ああ、昨日お預けになった初めてのちゅーが遂に・・・



なんて感動していると、くるっと場面が切り替わる。

式は終わり、ヘレナは広間に集まった参列者たちに手を振っていた。



祝福の声に応えるヘレナに、隣に立つユスターシュがそっと顔を寄せ、耳元で囁く。



『あのね、あそこ。あの人にも手を振って笑いかけてあげて?』



言われて視線を向けたのは、プルフトス王国からの使節団がいるところ。


けれどユスターシュが言ったのは使節団全体に対してではなく、その中にいる特定の個人。

しかもその人物は代表者の王太子ですらなく、一番後ろで控えめに立っているひとりの男性だった。



・・・どうしてかしら?



そうは思ったものの、他の王族の妻たちとは違い、政治的な役割を求められる事がないヘレナは、ここで深く考える必要はないだろうと判断し、素直ににっこり笑って手を振った。

それに合わせて、ユスターシュもまたその男性に向かって手を振る。


たぶん、傍から見たら、使節団に向かって挨拶しただけに見えただろう。


けれど、プルフトス国の王太子は何かに気づいた様だ。

僅かに顔を後ろに向け、2人の視線が向けられた先を確認すると、微妙な表情を浮かべ、軽く頭を下げた。

それに続いて、その一番後ろの男の人も。



・・・結局あれは誰だったのかな。

もしかして、国交が途絶えるきっかけになった大公家の関係者だったりして?





―――ヘレナは勘がいいね―――




・・・え?



ユスターシュの声が聞こえた気がした。



あれ? 今は式の最中で・・・


え? でも、披露宴まで無事に終わった後、お部屋に戻ってユスさまと2人でワインを飲んだ気が・・・




―――まだ朝も早いよ、ヘレナ。もう少し休むといい―――



・・・ええと、もう少し・・・?



―――そう、もう少し、ね。ほら、お休み―――



・・・は~い、お休みな、さ・・・




「・・・」




開きかけた瞼が再び閉じられ、すうすうという寝息だけが室内に聞こえる。



キングサイズのベッドで横になっているのは、昨日めでたく夫婦になったユスターシュとヘレナ。

だが、ワインの力に抗えず、あっさりと眠ってしまったヘレナのお陰(?)で、2人はまだ本当の意味では夫婦になっていない。


故に、ベッド上の彼らの間には微妙に距離が開いている。


ユスターシュはベッドに横になったまま、左手で頬杖をつき、妻の無防備な寝顔を眺めていた。



「・・・今夜は覚悟してね、ヘレナ」



そんなどこか不穏な言葉は、当然ヘレナの耳に届いていない。


今夜の主寝室にアルコール類は一切置かないように言っておかないと、なんてユスターシュが考えている事も、もちろん知らない。



「本当は一週間くらい寝室にこもりたいけど・・・ネクトゥス王太子をあそこ(・・・)に連れて行かないといけないからな。確か約束した日付は今日から五日後・・・あ、そうだ。昨日の()も一緒にって言っておかないと・・・」




ユスターシュはスケジュールの空きをなるべく長くひねり出すため、懸命に考え続ける。



その間に起きた重要案件は、取り敢えず任せられるものだけは任せちゃうとして。


そうだ、当人確認の案件ならロクタンに頼めばいい。


伝令の手配関連は、ハインリヒに一任して。



「・・・うん。なら、今夜から四日くらいなら・・・」



むふふな期待が膨れ上がり、ユスターシュはベッドの上で顔を赤くする。


口元に手を当て、ひとりニヤつくユスターシュの野望を、今も隣ですやすやと眠るヘレナは知らない。



たぶん知るのは、今夜。


しかも、本番直前になってだろう。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ