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三十四話 ニニナの必死の訴え、そして、良一の逆襲

前回のあらすじ:

二人の巫女との競技ゲームで、相手を罠にはめるような手を使った良一。その作戦は裏目に出た。対戦相手である『姉』は良一の手を見破り、逆に良一を追い詰める。あと一枚、『姉』が宣言を的中させると、姉の勝ちでゲームは終了する。そう思った良一は震えた。

 永遠とも思える一瞬の後、

「数字は『2』です。」

 彼女、『姉』は言った。


 僕の精神は打ちのめされた。

 彼女の手牌はただ一枚、『2』。

 彼女はそれを当てた。

 ゲームセットか。


 僕は負けたのか。

 全財産を失い、僕自身は奴隷身分に落とされ、ニニナとももう会えなくなる。

 あの不幸な追いはぎの少女を助けることも出来ずに、僕の人生は終わるのか。

 思わず頭を抱えた。

 その時。


「みなさん、聞いてください!」

 ニニナの大声が響いた。

 ニニナがあんな大声を出すのを初めて聞いた。

 見ると、ニニナは椅子から立ち上がり、両手を大きく広げて、周囲の村人に訴えかけている。

「ご主人さまは、とてもいい人なんです! 違う世界から来て、出会ったばかりの私に同情して、私のために戦ってくれて、わたしを助けてくれた人です。とても心が優しい人です! そんな人を、奴隷にしないでください!」


(ニニナ……!)

 ニニナが、僕のために、必死で村人たちに訴えかけていた。

 目頭が熱くなる。

 でも、そんなことをして効果があるだろうか?


「ご主人さまのようないい人が、奴隷になってはいけないんです! 奴隷身分でなければ、ご主人さまは会う人の心を明るくしてくれる、素晴らしい人です! 奴隷身分になってしまったら、それはできません、それは、もったいないことなんです!」


 ニニナは必死で、周りにいる人に懇願していた。

 僕は、半ば無意識に、立ち上がってニニナの方に一歩を踏み出す。

 周囲の村人たちは、怪訝な顔でお互いに顔を見合わせたりしているようだ。


「ただでとは言いません、皆さんを楽しませることを、提供できます。」

 ニニナがそんな事を言いだした。

 僕はニニナが何を言おうとしているのか分からずに立ち止まる。


「わたしを。わたしを処刑してください。どんなに苦しめてもらっても構いません。どんなに惨たらしく殺してくれても構いません。それを楽しんでください、その代わり、ご主人さまは、ご主人さまを許してください……。」

 ニニナは、ついにそんな事を言いだした。

 僕はショックを受け、ニニナを止めようとした。

 ニニナの提案を村人がどう受け止めるかは分からないが、そんな提案を通すわけには行かなかった。

 僕は殺されるわけではない。全財産を失って奴隷身分に落とされる、それだけのはずだ。

 奴隷身分に落とされるだけと言っても、それは人としての尊厳を破壊されるような厳しい調教を伴うと言う話だが、それでも殺されるわけではない。

 それを免れるだけのために、ニニナが殺されるなんてことは、あってはならない。

 僕はニニナを止めるつもりで、そちらに一歩を踏み出した。


 その足が、止まった。


(もしも、ニニナを止めないでいて、彼女の提案が通ったら、僕は助かる?)

 醜い考えが思い浮かんで、僕の足を止めた。

(駄目だ、僕は死ぬわけじゃない、どんな辛い目に合わされるか分からないが殺されるわけじゃないはずだ。それを防ぐために、彼女が殺されるなんてことはあっちゃいけない!)

(だから、ニニナを止めよう!)


 自分をそう叱咤したものの、僕の体は動かなかった。

(このままじっとしていれば、僕は助かるかも……?)

 その思いが、僕の体を縛り付けていた。


「あ……。」

 ニニナのか細い声が聞こえて、僕はそちらを見た。

 長老の補佐の男が、ニニナの細い腕を掴んでいた。

 ニニナは一瞬怯えたような表情になったが、すぐに強い意志を秘めた表情になり、男をまっすぐに見つめ返した。


「わたしはどうなっても構わないので……。」

「待て。」

 ニニナが必死に言いかけた言葉を、男は遮った。


競技ゲームは神聖な儀式である。娘よ、お前はそれを汚している。」

「でも! 聞いてください!」

「それに……考え違いをしてもいる。競技ゲームは、まだ終わってはいない。」


 ニニナの動きが止まった。

 それから、ゆっくりとこちらを振り向いた。

 不安そうな、それでいて喜びの色もある複雑な表情。

 しかし僕もどういうことなのか、理解できていない。

 つい、救いを求めるように、男の顔を見た。


「競技者よ。」

 男は厳しい表情で、淡々とつげた。

「まずは、競技ゲームを最後まで終わらせるが良い。」

 僕はよく理解できないながらも頷いた。

 それから、僕の戦場であるテーブルの上を見る。

 二人の巫女、『姉』と『妹』が、僕を無表情に見つめていた。

 そうか。

 最初の一人がすべての手牌をなくした時点で勝利、つまりゲームの終了かと思っていたが、そうではないのか。

 二人勝者が決定するまでやる――ということか。一位と二位を決める、と言う言い方もできる。

 二位に滑り込むことができれば、まだ僕の人生は破滅ではないのか?

 それを聞きたかったが、男のいかめしい表情を見ていると、問いに答えてくれそうではなかった。

 仕方ない。

 僕は黙って席につく。

 テーブル横に立つ幼い巫女が、手で僕を指して、僕の手番だということを示した。

 よし。

 精神状態を勝負モードに切り替える。

 ただ、競技ゲームを再開する前に、言っておかなければいけないことがあった。

「ありがとう、ニニナ」

 僕はテーブルの上の、自分からは裏面しか見えない自分の手牌だけを見ながら言った。

「君が見せてくれた心、一生忘れない。力をもらった。」

 視界の端で、ニニナがただ黙って頷いたのが見えたような気がした。

「お待たせした。」

 その言葉は、二人の対戦相手に。

「我、宣言す。その数字は……。」

 不思議と、今は心が冷静になっていた。

 頭の回転がスムーズだ。

 何を宣言するべきかの判断は揺るぎない。

「『5』である。」


 『姉』が5連続で宣言を当てたあの手番、彼女の最初の4つの宣言は『7』『7』『6』『6』だった。

 その次に『5』が来るのが普通なように思われたが、そこで彼女は『5』を飛ばして『4』を宣言した。

 なぜ『5』を飛ばしたか。

 シンプルに考えて、それは、僕の手牌に多めに『5』が含まれていると考えるしかない。

 3枚はある可能性が高い。2枚の可能性もあるか。1枚以下ということはないだろう。

 僕の手牌に『5』が多く見られたから、彼女は自分の手牌に『5』がもうないだろうと判断できたのだ。間違いない。


 果たして、幼い巫女が僕の手牌から一枚を引いて、表向きに置いた。やはり『5』はあった。

「続けて宣言する! さらに『5』である!」

 勝負を見守っている村人たちがざわめくのが聞こえた。

 幼い巫女が、再び僕の手牌から『5』を抜く。


「更に宣言する! 我は、三度『5』を宣言する!」

 村人のざわめきが大きくなる。歓声のような声も聞こえてくる。

 ここまで全く無表情でいた幼い巫女が、一瞬不愉快そうな表情を見せた気がした。

 が、とにかく、彼女は僕の手牌からまた一枚『5』を抜いた。

 村人たちの声は、ざわめきよりも歓声が大きくなる。

 僕の戦う姿が、村人たちを沸かせているのだ。

 悪くない気分だ。


「我が四度目の宣言を見よ! その数字は『7』である!」

 僕は叫ぶように言った。

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