三十三話 良一、考えていた作戦通り、乾坤一擲の賭けに出る
ここまでのあらすじ:
不幸な奴隷少女を救うために、負ければすべてを失うゲームに挑む良一。ゲーム開始直後、対戦相手の一人、『姉』の猛攻にあう。その不自然なほどの強さに、良一はイカサマを疑う。
自分からは見えないが、他の対戦相手からは見える、自分の手牌を特定すれば勝ちの競技。
思えばこれは、三人で対戦する場合、そのうちの二人が結託すれば簡単にイカサマが可能だ。
プレイヤーAの手牌を、プレイヤーBが見て、プレイヤーAに教えればいい。教える手段としては目配せや微妙な手振りなど、あらかじめ決めておく合図。
今の場合なら、『妹』の方が『姉』の手牌を見て、それを『姉』に合図で知らせる。この競技の牌は7種類しかないから、それほどたくさんの合図を決めておく必要もない。
(冗談じゃないぞ……。)
こっちは人生がかかってるんだ。
イカサマをされているなら、抗議しないと。
だがどのタイミングで?
今か?
もう一つ当てられて、『姉』の手牌が1枚になったときか?
それとも、もう二つ当てられて、ゲームが終わってから?
それ以前に、イカサマの証拠を掴まないと駄目か?
だがそんなことは可能だろうか。
表情などを観察していれば可能か?
だが、合図が、僕の座っている位置からは見えない、テーブルの下で行われていたら?
足のつま先で何らかの動きをするとか。
自分の居る位置からはそんなもの、見つけようがない。
僕は、少し離れた位置で観戦しているニニナの方を見た。
彼女なら、僕が見ているのとは違う角度でこのテーブルを見ている。
僕が戦っている『姉』と『妹』の足の動きを見ることも可能な位置だ。
だがダメだ、今からニニナに、対戦相手のイカサマを見張ってくれなんて伝える方法がない。
まさか相手がそこにいるのに、大声を出して伝えるわけにも行かない。
身振り手振り、目配せで伝えることができる内容でもない。
せめて僕がこういう自体を予期していて、試合前にでも相手がイカサマをしてくる可能性について、ニニナに話しておけば。
ああ、どうして僕は、相手がイカサマをしてくるって可能性を、全く考えなかったのか……。
そう考えていた時。
「宣言します。『3』です。」
『姉』が、そう宣言した。
(外した……!)
そう、この時『姉』の手牌は『1』と『2』である。
『3』は含まれていない、宣言は外れだ。
(イカサマなどしていなかった? イカサマはしていたが伝達を失敗した? イカサマで当てることは出来たがあえて遊んでいる? どのケースだ?)
テーブルの横にいる幼い巫女が僕の方を手で指す。
今から僕の手番だ。
即死はなかった……自分の手番が回ってくる前に、ゲームが終了することはなかった。
(最初の手番にして、最高の勝負所が来た……。)
深呼吸をする。
ニニナと相談した戦法の事を考える。
あえて自分の手牌にあるはずのない『1』を宣言して、相手の思考を撹乱する作戦。
あれを今やるべきか?
それは、危険だ。
その戦法は中盤以降で使うものだから。
最初は大きい数字から宣言していくことが多いこの競技で、いきなり『1』を宣言するのは目立ちすぎる。
必ず何らかの作為があると思われるだろう。
こちらの作戦が読まれてしまうかも知れない。
それはつまり、こちらは手番を無駄にして、相手には情報を与えてしまう、最悪の行為だ。
リスクは高いかも知れない。
(だけど、一度使うと決めた戦法を、やめるのもスッキリしない……。)
僕は、あまり状況に応じて作戦を変えていくのが得意ではない。
それをしようとすると傷口を広げることが多かった気がする。
最初に決めた戦法を貫いたほうが、結果勝利につながることが多かった。
もう一度深呼吸をする。
頭の回転がスムーズに行かない。冷静な思考を保てない。
(落ち着こう……あの戦法を使うにせよ、最初の宣言で『1』と言う必要はない。『7』辺りから宣言して……2,3枚的中させてから、『1』を宣言すればいい。それなら不自然さも少なくなる……。)
(けど、万が一、『7』が一枚もなかったら? 自分の手番が終わってしまう、そうすれば次の『姉』の手番で決められてしまう可能性が高い……。)
(『姉』の今の手牌は『1』と『2』の2枚。2枚ならあっさり当てられてしまう可能性はある。それをさせないためには、やはりあの作戦を使うしかない?)
(そうだ、やるんだ。自分の手牌にあるはずのない『1』を宣言することで、『姉』に『1』を持ってないと思わせて、時間を稼ぐ。僕が今やるべきことはそれなんだ!)
心は決まった。
僕は息を吸い込んで、
「我、宣言す。その数字は『1』なり!」
大声で宣言をした。
極限の緊張で、世界が真っ暗になったような錯覚を味わった。
賽は投げられた。
相手を混乱させて勝利から遠ざけることができるか、それとも手番を無駄にして相手に塩を送ってしまったか。
対戦相手の二人の巫女の表情が、一瞬引きつったように見えたが、その心のうちは分からない。
ともかくこれで僕の手番は終了だ。
『妹』の手番が始まる。
「わたしは『7』を宣言します。」
彼女はほとんど考えることなく、最初の宣言をした。
この時彼女の手牌は『3』『4』『5』『5』『6』『6』『7』。
宣言は成功、手牌から『7』がなくなる。
「宣言します。もう一度『7』です。」
僕は小さく安堵のため息を付いた。
もう彼女の手牌に『7』は含まれていないから、これは失敗、手番終了だ。
手番は『姉』に移る。
と、この時、彼女はすぐに宣言をしなかった。
無言で、僕のことを見つめてくる。
まるで、僕の心を見抜こうとするかのように。
僕は無表情で、彼女を見つめ返す。
異様な雰囲気を感じ取ったのか、観衆のざわめきが静まった。
「わたしは宣言します――。」
爽やかに吹いていた風が、止まった。
「『1』です。」
近くの木々から、バサバサと音を立てて鳥が飛んでいくのが見えた。
こちらの作戦は、見抜かれていた。
僕は賭けに負けたのだ。
めまいがする。
体が傾いていくような気がして、右手でテーブルのヘリを掴む。
ひたいに嫌な汗がにじんでいるのが分かった。
「続けて宣言します。」
無情に『姉』は続ける。
大丈夫、まだ大丈夫だ。
『1』を見抜かれてしまったのは痛恨だが、彼女の最後の手牌、『2』。
あれを当てる判断材料は、彼女は持ってないはずだ。
大丈夫。
大丈夫。
大丈夫なはずだ……。




