表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/40

三十三話 良一、考えていた作戦通り、乾坤一擲の賭けに出る

ここまでのあらすじ:


不幸な奴隷少女を救うために、負ければすべてを失うゲームに挑む良一。ゲーム開始直後、対戦相手の一人、『姉』の猛攻にあう。その不自然なほどの強さに、良一はイカサマを疑う。

 自分からは見えないが、他の対戦相手からは見える、自分の手牌を特定すれば勝ちの競技ゲーム

 思えばこれは、三人で対戦する場合、そのうちの二人が結託すれば簡単にイカサマが可能だ。

 プレイヤーAの手牌を、プレイヤーBが見て、プレイヤーAに教えればいい。教える手段としては目配せや微妙な手振りなど、あらかじめ決めておく合図。


今の場合なら、『妹』の方が『姉』の手牌を見て、それを『姉』に合図で知らせる。この競技ゲームの牌は7種類しかないから、それほどたくさんの合図を決めておく必要もない。


(冗談じゃないぞ……。)


 こっちは人生がかかってるんだ。

 イカサマをされているなら、抗議しないと。

 だがどのタイミングで?

 今か?

 もう一つ当てられて、『姉』の手牌が1枚になったときか?

 それとも、もう二つ当てられて、ゲームが終わってから?


 それ以前に、イカサマの証拠を掴まないと駄目か?

 だがそんなことは可能だろうか。

 表情などを観察していれば可能か?

 だが、合図が、僕の座っている位置からは見えない、テーブルの下で行われていたら?

 足のつま先で何らかの動きをするとか。

 自分の居る位置からはそんなもの、見つけようがない。


 僕は、少し離れた位置で観戦しているニニナの方を見た。

 彼女なら、僕が見ているのとは違う角度でこのテーブルを見ている。

 僕が戦っている『姉』と『妹』の足の動きを見ることも可能な位置だ。


 だがダメだ、今からニニナに、対戦相手のイカサマを見張ってくれなんて伝える方法がない。

 まさか相手がそこにいるのに、大声を出して伝えるわけにも行かない。

 身振り手振り、目配せで伝えることができる内容でもない。

 せめて僕がこういう自体を予期していて、試合前にでも相手がイカサマをしてくる可能性について、ニニナに話しておけば。

 ああ、どうして僕は、相手がイカサマをしてくるって可能性を、全く考えなかったのか……。

 そう考えていた時。


「宣言します。『3』です。」

 『姉』が、そう宣言した。


(外した……!)

 そう、この時『姉』の手牌は『1』と『2』である。

 『3』は含まれていない、宣言は外れだ。


(イカサマなどしていなかった? イカサマはしていたが伝達を失敗した? イカサマで当てることは出来たがあえて遊んでいる? どのケースだ?)


 テーブルの横にいる幼い巫女が僕の方を手で指す。

 今から僕の手番だ。


 即死はなかった……自分の手番が回ってくる前に、ゲームが終了することはなかった。

(最初の手番にして、最高の勝負所が来た……。)

 深呼吸をする。


 ニニナと相談した戦法の事を考える。

 あえて自分の手牌にあるはずのない『1』を宣言して、相手の思考を撹乱する作戦。

 あれを今やるべきか?


 それは、危険だ。

 その戦法は中盤以降で使うものだから。

 最初は大きい数字から宣言していくことが多いこの競技ゲームで、いきなり『1』を宣言するのは目立ちすぎる。

 必ず何らかの作為があると思われるだろう。

 こちらの作戦が読まれてしまうかも知れない。

 それはつまり、こちらは手番を無駄にして、相手には情報を与えてしまう、最悪の行為だ。

 リスクは高いかも知れない。

(だけど、一度使うと決めた戦法を、やめるのもスッキリしない……。)

 僕は、あまり状況に応じて作戦を変えていくのが得意ではない。

 それをしようとすると傷口を広げることが多かった気がする。

 最初に決めた戦法を貫いたほうが、結果勝利につながることが多かった。


 もう一度深呼吸をする。

 頭の回転がスムーズに行かない。冷静な思考を保てない。

(落ち着こう……あの戦法を使うにせよ、最初の宣言で『1』と言う必要はない。『7』辺りから宣言して……2,3枚的中させてから、『1』を宣言すればいい。それなら不自然さも少なくなる……。)

(けど、万が一、『7』が一枚もなかったら? 自分の手番が終わってしまう、そうすれば次の『姉』の手番で決められてしまう可能性が高い……。)

(『姉』の今の手牌は『1』と『2』の2枚。2枚ならあっさり当てられてしまう可能性はある。それをさせないためには、やはりあの作戦を使うしかない?)

(そうだ、やるんだ。自分の手牌にあるはずのない『1』を宣言することで、『姉』に『1』を持ってないと思わせて、時間を稼ぐ。僕が今やるべきことはそれなんだ!)

 心は決まった。

 僕は息を吸い込んで、

「我、宣言す。その数字は『1』なり!」

 大声で宣言をした。


 極限の緊張で、世界が真っ暗になったような錯覚を味わった。

 賽は投げられた。

 相手を混乱させて勝利から遠ざけることができるか、それとも手番を無駄にして相手に塩を送ってしまったか。


 対戦相手の二人の巫女の表情が、一瞬引きつったように見えたが、その心のうちは分からない。


 ともかくこれで僕の手番は終了だ。

 『妹』の手番が始まる。


「わたしは『7』を宣言します。」

 彼女はほとんど考えることなく、最初の宣言をした。

 この時彼女の手牌は『3』『4』『5』『5』『6』『6』『7』。

 宣言は成功、手牌から『7』がなくなる。


「宣言します。もう一度『7』です。」

 僕は小さく安堵のため息を付いた。

 もう彼女の手牌に『7』は含まれていないから、これは失敗、手番終了だ。


 手番は『姉』に移る。

 と、この時、彼女はすぐに宣言をしなかった。

 無言で、僕のことを見つめてくる。

 まるで、僕の心を見抜こうとするかのように。

 僕は無表情で、彼女を見つめ返す。


 異様な雰囲気を感じ取ったのか、観衆のざわめきが静まった。


「わたしは宣言します――。」


 爽やかに吹いていた風が、止まった。


「『1』です。」


 近くの木々から、バサバサと音を立てて鳥が飛んでいくのが見えた。


 こちらの作戦は、見抜かれていた。

 僕は賭けに負けたのだ。

 めまいがする。

 体が傾いていくような気がして、右手でテーブルのヘリを掴む。

 ひたいに嫌な汗がにじんでいるのが分かった。


「続けて宣言します。」

 無情に『姉』は続ける。

 大丈夫、まだ大丈夫だ。

 『1』を見抜かれてしまったのは痛恨だが、彼女の最後の手牌、『2』。

 あれを当てる判断材料は、彼女は持ってないはずだ。


 大丈夫。

 大丈夫。

 大丈夫なはずだ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ