表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/40

三十二話 良一、推理する。しかし対戦相手、『姉』の信じがたい猛攻

前回までのあらすじ:


不幸な奴隷少女を救うために負ければすべてを失う『競技ゲーム』に挑む良一。だが、その競技は両市が想定して練習してきた二人対戦ではなく、予想だにしていなかった三人対戦だった。良一は戦えるという自信を喪失する。

「今より行われる競技が、いつの日か訪れるかも知れぬ『知恵比べの悪魔』との戦いにおける、我々への祝福とならんことを祈る!」

 男が大きな声で言った。

 観衆が沸き立つ。

「コーヅキ氏。名乗りを。」

 男が僕に言った。

 そうだ、前の村で競技をやった時は格好つけて自己紹介したんだった。

 僕は椅子から立ち上がって息を吸い込み、


「競技の達人、上月良一! 挑む!」


 ガッツポーズを取りながらそう叫んだ。

 一瞬後、観衆は声援で答えてくれた。


(なんだ、思ってたほどアウェーの雰囲気でもないか?)

 少しだけ気分が軽くなった。


 そしてついに『競技』が始まる。

 28枚の牌がテーブルの上に伏せられ、かき混ぜられる。

 テーブルの横にいる幼い巫女が僕に7枚の牌を配る。

 対戦相手である二人の巫女も、それぞれ7枚の牌を取っていた。

 そして残った7枚の牌がテーブルの隅に寄せられる。


(二人対戦の時は14枚が余ったけど、3人対戦だと7枚しか余らないんだな。)

 そんな事を考える。

「各自、配られた牌を立てよ。」

 男がそういうと、二人の巫女は自分に配られた牌を、自分には表が見えない向きで立てる。

 僕も一瞬遅れたがそのようにした。


 二人の巫女はマヌアとマヌヌという名前だったらしいが、僕の中では『姉』と『妹』という認識で覚えてしまったので、これからも心のなかではそう呼ぶことにする。


姉の手牌は1、2、4、6、6、7、7。

妹の手牌は3、4、5、5、6、6、7。

(なるほど、ある意味二人対戦のときと同じだ。最初は14枚の牌が見えている、という点に関しては。)

「さて、挑戦者コーヅキ氏よ。そなたが何番手となるか、そなたが決めるのだ。」

 男がそう言った。

 そうだ、以前競技に挑んだときも、挑戦者に先攻かどうか決める権利があった。

 どうするか。


(自分からゲームを開始するのが一番いいだろうか?)

 迷う。

 基本的には、自分から開始するのが良いだろう。

 この競技ゲームは、最初の手番のプレイヤーが、次のプレイヤーに手番を回すことなく勝利するパターンが存在する。

 何のことはない、7回連続で宣言を成功させればいい。

 宣言を成功させる限り自分の手番が続くし、自分の手牌をすべて宣言で言い当てれば勝利なのだから、そういうことになる。

 無論難易度は高い。

 高いが、ありえなくはない。


 であれば、対戦相手から手番を初めて、その最初の手番でゲームを終了させられてしまっては洒落にならない。なすすべなく負けである。そんな事態は避けたい。

 避けたいが……。

 僕は考える。


 こちらは、先のゲームを観察して、対戦相手の心理の癖をある程度掴んでいる。

 それを活かすならば、自分の手番の前に、相手の行動を見てみたい、とも思った。

(大丈夫だろう。7連続宣言成功なんて、そうそう起こることじゃないはずだ。)


 では、自分は一番手ではなく、二番手か三番手になるべきか。

 そう考えた時、三番手になるよりは二番手のほうがいいような気がした。

 これは厳密な理屈があるわけではなく、勘に近いものだが、あえて理屈で説明すると、


 『妹』が手番を行い、それにより情報を得た『姉』が手番を行う、と言う自分の前に二回の行動を許すのが少し怖かった、ということかも知れない。


「我、二番手を望む。よろしいか!」

 大げさなジェスチャーで、大声で言った。

「その希望は叶えられる。では、巫女マヌアが一番手となる。」

 その言葉を受けて、僕から見て右奥に座っている『姉』が、頷いてみせた。

「わたしは、7を宣言します。」

 こうして、いよいよ戦いの幕が開いた。


『姉』の手牌は

1 2 4 6 6 7 7 だ。

「7」は含まれているので宣言成功である。

 幼い巫女が『姉』の手牌から一枚「7」を抜いた。


 さてと、『姉』はなぜ『7』を宣言したか、その心の内を読みたい。

 それにより、自分の手牌が推理できるからだ。

 無論、推理の難易度は高いが……。


(難しい。この『姉』、前の戦いでは『7』よりも『5』の方が可能性が高いところで、あえて『7』を宣言したりしてきてる曲者だから、なおのこと推理は難しいけど……。)


(この『姉』と僕とで共通して見えているのは『妹』の手牌の3、4、5、5、6、6、7。『姉』はその7枚プラス、僕の手牌7枚を見た上で、『7』を宣言した……。)


 あまり卓越した推理でもないが、言えることがあるとすれば、僕の手牌に『7』はそれほど何枚も含まれていないだろう、ということだ。

 例えばもし、4枚もの『7』が僕の手牌に含まれていたら、『妹』の手牌に含まれている1枚を加えて5枚の『7』が『姉』から見えることになり、彼女の手牌には7が含まれている可能性はかなり少なくなる。この場合は『7』は宣言しなかっただろう。


 僕の手牌の『7』の枚数が3枚だとしても、『姉』が『7』を宣言した可能性は少ないだろう。やはり、一番確率の高いところから攻めて行きたくなるのか普通だからだ。


(僕の手牌に、『7』は多くても2枚しかなさそうだ。)

 曖昧な推論だが、一応の結論を出す。


「もう一度、『7』を宣言します。」

 『姉』が言った。

 この時点で姉の手牌は1、2、4、6、6、7だった。『7』が含まれるのでこれも宣言成功。

(『7』を2枚当ててきた。この次が見ものだな。違う数字を宣言するか、それとも?)

「次は、『6』を宣言します。」

  『姉』は通る声で言った。

(やはり変えてきたか。多分、『姉』から見て自分の手牌に『7』がもう一枚もないっていう断定は出来てないだろう。それでもなお、『7』を宣言して『7』がもうないということを確認するのではなく、最速での勝ちを目指して宣言を変えてきた。この人はやはりこういう性格なんだよな。)


 そして、その宣言『6』も当たりである。

 彼女は3連続で宣言を当て、手牌を3枚減らした。

 残っている彼女の手牌は1、2、4、6の4枚。


「次の宣言も『6』です。」

 彼女は淡々と、続ける。

(何だよ……いきなり、4連続で当ててくるか……。)

 背筋がゾクッとした。

 まさか、このまま最後まで連続で当てて、ゲームを終わらせてしまうのか。

 その最悪の想像が思い浮かぶ。


(落ち着け。これぐらいはよくある事だ。大きい数字は含まれている可能性が高いんだから、大きい数字から宣言していけば、4回ぐらい連続で当たることは、ある。)

 自分を落ち着かせようと、自分に言い聞かせる。


(ここまで彼女の宣言は、7、7、6、6。たぶん次は順当に5を宣言するだろう。そうすれば彼女の手番は終わりだ。)


 今の彼女の手牌は1,2,4だ。

 『5』は含まれていない。

 『5』を宣言すれば、彼女の手番は終わり、僕の手番になる。

 そうすれば反撃開始……。

 

「次は、『4』を宣言します。」


 彼女の声が聞こえて、時が止まったような気がした。

 ショックのあまり目の前が暗転する。


(どうして……。どうして、5回連続で当てたりすることができる?)

 幼い巫女が『姉』の手牌から『4』を抜いている目の前の風景が、不思議と遠くで起きているような錯覚を覚えた。

 現実感が、ない。


 彼女の手牌はもう1、2の2枚しかない。

 その2枚を当てられたら、全てが終わる。


(待てよ……まさか、まさか……。)

 僕は、ある可能性に気づき、震えた。

(この勝負はまさか……不正が行われている……!?)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ