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王子様のからくり  作者: ゆきうさぎ
<第1部>
95/145

94:

「あーもー、マジで来ちゃったし」


数日前にも来た桐生の住んでいるマンション。

この前来ちゃったがために覚えてしまった、桐生の部屋の番号。

そしてみなみさんに「内緒ね」と言って受け取らされた桐生の部屋のスペアキー。

彼女でもないのに鍵持ってるってどんだけ。


ため息をついて、桐生の部屋番号を押そうとして、手を止めた。

いやいやいや、さすがに鍵使って入ったら悪いよね。

いやでも、インターホン押して呼び出してもどうなのって話。


「‥しまった、伊織君に渡せばよかったんだ‥!」


なんでもっとはやく思いつかなかったのよ、私!

ってまぁ今さら悔やんだって後の祭りなんだよね。

来ちゃったわけだし。

ぱぱっと渡して帰ればいいよね!

鍵でエントランスの扉を開けて桐生の部屋まで階段を上がっていく。

なんだか見慣れた扉を目の前にして、またため息。


「大丈夫、大丈夫。渡して帰るだけ」


呪文のように唱えて、インターホンを押す。

中からの応答はない。

…出かけてる、とか?

風邪って聞いたし、寝ているのかもしれない。

ポストに突っ込んどいたらいいかな。

と、鞄に入れた預かった配布物を取り出そうとしていたら、中から物音が聞こえた。

ガタガタと聞こえてきて、目の前の扉が静かにあいた。


「………神崎?」


私を見上げるようにして見てきた桐生は、しんどいのか腰をかがめていた。

見上げてきた顔は火照っていて、目は珍しく潤んでいた。


「ど、した?」

「6組から配布物預かってきた」


かばんに入れていた手を出して、これ、と差し出すと、桐生はその配布物を受け取った。

それをぼーっと桐生は何も言わずにただただ紙を見つめる。


「桐生もしかして結構熱ある?」

「あー…測ってないからわかんねぇ」


壁にもたれかかってそう言う桐生はどことなく辛そうだ。

わからないとは言っているけど、熱はけっこうあるんだろう。


「ご飯食べた?」

「………まぁ」

「その間、なに。食べてないでしょ」


顔を覗くようにして目を合わせて言うと、桐生はふいっと顔をそらしてしまった。


「俺が飯作れねぇの知ってんだろ」

「それ自慢げに言うことじゃないからね。…じゃあ何も食べてないの?」


そう聞くと、桐生は何も言わずに首を縦に振った。


「信じらんない」

「…うっせ」

「飛鳥さんは?」

「連絡したけど、無理って」

「どうすんの、あんた」


ご飯も作れないし、看病してくれる人いないって。

ため息をこぼすと、桐生はずるずるとその場に座り込んでしまった。


「実はけっこうしんどい?」

「正直、立ってるの辛い」

「中入りなよ。外寒いよ」

「…神崎も入れば?茶くらい出す」

「病人がなにいってんの。とりあえず肩貸すから。ほら桐生」

「……悪い、」

「病人なんだから謝らないの」


桐生に肩を貸しながら桐生の部屋の扉を開ける。

この前の大して何も変わらないその部屋はカーテンも開けられずに真っ暗のままだった。

エアコンで煖房だけはきいているみたいで、部屋の中はかなり暖かい。


「ほら、ベッドついたから」

「サンキュ、」

「熱だけ測ろうっか。体温計、どこにある?」

「リビングの救急箱、」

「はいはい」


桐生の部屋からリビングに移動して、救急箱に入っている体温計を取り出した私はまた桐生の部屋に戻った。

とってきた体温計を桐生に渡して熱を測らせる。

ぴぴっという電子音が聞こえて、体温計を見ると、39.2℃。


「…熱たっか」


呆れた。

よくまぁこれで病院もいかずに過ごしてたもんだ。


「病院」

「嫌だ」

「わがまま言ってんじゃない」

「ねてりゃ直る」

「根拠もないこと言わないの。病院に行かないなら市販の薬でもちゃんと飲んでご飯食べて」


どうせ桐生のことだから、薬すら飲んでないのだろう。

冷えピタの類もいるかもしれない。


「買い物行ってくる。桐生は大人しく寝てて」

「‥…悪い、」

「食べれそうなものとかほしいものある?」

「なんでも、いい」

「そう。じゃあテキトーに買ってくるからちょっと寝てな」


おろした鞄を持ち上げて、桐生の部屋を出ようとしたとき、桐生が私を呼び止めた。

何だろうと思って振り返ると、桐生が手をあげていた。


「どうした?」

「これ」

「?」


桐生の手から受け取ったものを手のひらで確認すると、そこにはもうひとつの鍵があった。


「この部屋の鍵」

「あー‥ありがと」


そう返すと、桐生は生返事をして布団にくるまってしまった。

しんどいんだろうなぁと、くるまってしまった桐生を見ながら思う。

部屋を出て、いったんキッチンに行って冷蔵庫の中身を確認する。

炊飯器を開けると、中は空っぽだった。


「帰ったらお米炊かないと」


冷蔵庫の中も、やっぱりというかなんというか、食材は少なかった。

桐生ってほんとにどうやって生活してるんだろう。

毎日外食してるのかな。

なんて、関係ないのにね。

私はひとりで苦笑してから、桐生から受け取った鍵で玄関のドアを閉めて買い物に向かった。







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