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「あれー、陽向ちゃんじゃん」
「一条さん」
スーパーで買い物をしている時だった。
後ろから声をかけられてそちらを向くと、私服姿の一条さんがいた。
「こんにちは」
「はい、こんにちは」
隣にまで歩いてきた一条さんは私のあいさつに丁寧に返してくれた。
私服姿でこんなところに来てるってことは今日はお休みなんだろうか。
「今日はお休みですか?」
「まぁね。彼女が今日仕事だから材料だけ買いにきてるんだ」
「ぱしりですか」
「まぁそうともいうかな」
ハハッと笑った一条さんは、年齢は知らないけれどすごく若くて爽やかに見えた。
「そういう陽向ちゃんは?ここって家から遠いんじゃないの?」
この前のこともあって、一条さんたちには住んでいる場所を言ってある。
確かにここまで来なくても近くにスーパーはある。
「いやー‥なんて言いますか」
「あ、澪?」
「まぁ、そうだと言えばそうだし、」
そうじゃないとは言えないんだけど。
桐生のご飯買いに来てるわけだし。
「澪も来てんの?」
そう言った一条さんの顔は楽しそうで、おもちゃを見つけた子供みたいだった。
きょろきょろとわざとらしく周りを見る一条さん。
「桐生はいないですよ」
「え、そうなの?でも澪絡みでしょ?」
「桐生、今寝込んでるんですよ」
「え?そうなの?じゃあ看病してんの?」
「看病っていうか、なんていうか、」
私は桐生の家に行くことになった経緯と今スーパーに来ている理由を一条さんに言った。
聞いていた一条さんは相変わらず笑顔だ。
「そーんな楽しいことになってたんだ」
「楽しくないですよ。なんで私がわざわざ家も近くない桐生の家に渡しに行かなきゃなんないんですか」
意味わかんないと言えば、一条さんにすごく笑われてしまった。
「澪に飯作ってやんの?」
「ご飯食べてないみたいですから」
「あいつ飯作れないからな。飛鳥も今日は無理だろうしな」
「熱、39℃あるんですよ。それで病院行かないんだからバカでしょ」
信じらんないでしょ。
39℃もあったらどんなバカでも病院行くでしょ、普通。
「まぁ‥あいつ病院嫌いだからなぁ」
「なにそれ」
「あれ、聞いたことない?理由は知らないけど澪って病院嫌いなんだよ」
「…子どもか」
「ぷっ。そんなふうに言ってやるなって。陽向ちゃんも嫌いな場所くらいあるだろ?」
「……あーまぁないわけじゃないですけど」
墓地とか、墓地とか、墓地とか。
桐生と初めて出会ったときは、空き地も嫌いになりそうだった。
「でしょ?まぁぶっ倒れでもしたら病院運べばいいよ。男なんだし、あいつもそんなやわじゃないって」
「そうですかね、」
「そうそう。お兄さんだってそうでしょ?」
「…確かに」
寝込んだとこあんまり見たことない。
見たことないっていうか、あいつは丈夫過ぎるし、私にさっさとうつして自分は治っちゃうからたち悪い。
「でもまぁ頑張ってよ、看病」
「看病でなに頑張るんですか」
「うーん‥まぁ頑張ってよ。看病もけっこう気がいるからね」
そう言ったところで、一条さんは私の持っている籠をちらっと見た。
かごの中には、梅干しとたまご、あとはゼリーとヨーグルトにスポーツドリンクが入っている。
「たまごがゆ?」
「か、梅干しかなーって」
「澪、梅干しあんまり好きじゃないと思うよ」
「あ、そうなんですか?」
「うーん、西遠が梅干し嫌いなんだ。あの兄妹、味覚とかけっこう似てるからそうじゃないかなって」
「わかりました。ありがとうございます」
ぺこりとお辞儀をすると、一条さんは「どういたしまして」と言ってにっこり笑った。
「じゃあ私そろそろ行きますね」
「おう。お大事にって言っといて」
「はい」
一条さんと手を振って別れた私は、言われたとおり梅干を避けるため、梅干を戻しにいく。
梅干をもとあった陳列棚に戻して、かごの中身をチェックする。
お米はあるからいいし、スポドリもいれた、ゼリーとヨーグルトもいれた。
「あ、薬」
は薬局でいっか。
確かこの近くに薬局があったはずだ。
ということはもう全部そろったかな。
ちらっとかごの中身を目でもう一度確認して、私はレジへと向かった。
会計を済ませてスーパーを出て薬局へ行く。
風邪薬と冷えピタを買って薬局を出ると、外は冬だけあって6時前はけっこう暗かった。
「陽向?」
「旭?早いね」
声のかけられたほうを見ると、日暮高校の制服を着た男子生徒が数人いて、その中に旭がいた。
この時間にこんなところにいるなんて珍しいと思ったけれど、考えてみれば私のほうが珍しい。
「お前なにしてんの?」
「何って…買い物?」
「それは見たらわかる」
だって他に言いようないし。
「日和が風邪でもひいた?」
「へ?なんで?」
「風邪薬買ってるから」
旭は私が持っている今さっき買った薬局の袋を指差して言った。
薬局の袋は透明だから、中身がばっちり見えている。
「あー…日和じゃない」
「へ、じゃあ誰?」
「うーん…友達?」
「友達で疑問形になるんだ?」
だって友達っていう括りにしていいか迷うポジションなんだもん!
旭は私の態度で相手が誰だかわかったようで、さっき会った一条さんみたいな顔をしていた。
「今日帰り遅くなるってことでいいんだな」
「うーん、ご飯作って大丈夫そうならすぐに帰ろうと思ってるんだけど」
ただ熱高かったから、そんな簡単に大丈夫にはならないとも思ったり。
「飯は?」
「食べてく」
「わかった、母さんに伝えとく」
「ありがと、助かる」
旭はそれだけ言うと、友達のいる場所に戻っていった。
そこでなにか言われてたみたいだけど、聞かないふりをして私は桐生の家に戻った。




