表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王子様のからくり  作者: ゆきうさぎ
<第1部>
42/145

41:

MIO side



「私、先帰るね」


そう言って、神崎は教科書類を片付けて図書室から出ていってしまった。

その様子をポカンとして見ていると、隣から「ごめんなさい」と言う声が聞こえてきた。


「え、なにが?」

「その‥先輩たちが付き合ってるのに、私‥」


もじもじと言いよどみながら言った神崎の後輩の言葉に、俺は目を丸くした。

そしてすぐにありえない、と結論付ける。

あの神崎が、そんなことで出ていくなんてありえない。

だってあいつは俺のことが好きなわけじゃないんだから。


「別に大丈夫だよ」

「でも!陽向先輩、すごく辛そうだった、」

「‥辛そうって…うーん、」


俺にはそんなふうに見えなかったんだけどなぁ。

俺はほほをポリポリと掻いて、隣に座る神崎の後輩を見る。


「なにしてんの、千里」

「安里!」


困っている俺の前に現れたのは、隣にいる彼女とうり二つの顔をした女子。

髪型が違うから見分けが簡単につきそうだけど、これで髪型が一緒だったら多分見分けがつかない。


「あんた、先輩と知り合いだったっけ?」

「あ、いや…さっきまで陽向先輩がいたんだけど、」

「陽向先輩も?じゃあもしかして今噂になってるのって千里だったの?」

「う、うわさ!?」


ため息をつきながら俺の斜め前に座った同じ顔の女子は、呆れた顔をして俺の隣の女子を見た。


「彼女の前ですーっごく仲睦まじく話してる、怖いもの知らずの1年がいるってみんな話してるよ」


肘をついて、ズビシッと指をさした彼女は相変わらず呆れ顔だ。

同じ顔をしてるのに、ここまで性格が違う双子がいるとは驚きだ。

正反対と言ってもいい。

多分、見ていて飽きないんじゃないだろうか。


「陽向先輩は?」

「‥帰ったよ」

「はい?」

「帰った。今さっき」


と、俺が答えると、同じ顔をしているのに性格のきついと思われる彼女に睨まれた。

‥え、俺、なんかした?


「追わないんですか」

「え?」


予想外の言葉に俺は目を丸くする。


「陽向先輩、追わないんですか」

「えっと‥なんで?」

「どう考えたって陽向先輩怒ってるでしょ!」

「ちょ、もう少し声のボリューム下げて」


周りからの視線が痛いし、第一ここは図書室だ。

さっきから図書委員の目が怖い。


「先輩、陽向先輩の彼氏ですよね?それともわざとそれしてるんですか?」

「えーっと‥」

「すいません。安里、言葉きついよ」

「だって普通なら追うでしょ」


そう言って、彼女はじっと俺を見た。

その目をじっと見ていたけれど、思わず耐えきれなくなって目をそらす。


「陽向先輩を傷つけるだけなら別れてくださいよ。先輩、自分の影響力とかわかってるでしょ。こんなことするくらいなら、五十嵐の方が陽向先輩のこと幸せにできるよ」

「安里!」

「なんでもいいから早く追ってください」


キッと睨まれた俺は、複雑な思いを持ちながら渋々といった感じで席から立ち上がる。

まわりから注目されているが、それを咎める気にもなれずため息だけついておく。

図書室の扉を開けて、またため息がこぼれた。


「‥もう帰ってるだろーが」


出ていったの5分くらい前なんだけど。

5分もあれば、ここから結構なところまで歩いて行けるぞ。

前にある廊下をぼうっと見てから、俺は回れ右をして図書室のドアノブに手をかけた。

その時だった。


「先輩、俺にしましょうよ」


なんていう声が聞こえてきたのは。

別に告白なんてどこでしようが、誰がしてようが興味はないが、今回ばかりはなぜか気になって。


「俺なら、絶対泣かせません」


だってその声は、ここ数日でよく聞くようになった声だったから。

足が声のする方に進んでいく。

何をしているんだと、叱責している自分がいるのにもかかわらず、俺の足は止まりそうにない。


見えた先にいたのは、五十嵐だった。

五十嵐の腕の中には、さっきまで俺の前に座っていた神崎がいた。


「俺は‥先輩が好きです。絶対泣かせません。だから、…………俺と付き合って下さい、先輩」


気付けば、唇を噛み締めていた。

わかっていたんだ。

いつかこうなることくらい。

神崎は、俺のものであって俺のものじゃないことくらい。


「王子様も失恋するんだねー」

「…伊織」

「おー、怖い。そんな顔で睨まないでよ。せっかくの綺麗な顔が台無しじゃん」

「茶化すな」


呆然と、あの2人を見ることしかできなかった俺に声をかけてきたのは、部活動中の伊織だった。

伊織は俺を見ながら、目線は俺の先にあるものをとらえている。

それは俺は見たくなくて、でも目をそらせないもの。


「澪はいいの?」

「‥なにが」

「なにって。聞くまでもないじゃない」

「俺には、関係ない」

「そう。だったら、はやくそんな茶番はやめたげなよ。陽向ちゃんが可哀想じゃん」

「…それは、」

「手放せなくなるうちに切り離しといたほうがいいって言ったのはお前だよ、澪」


伊織のどこまでも厳しい言葉が胸に刺さる。

その言葉を言ったのは、まぎれもなく、さっきの俺だ。


「中途半端は傷付けるだけなんだよ。‥それとも、もう手放してあげられない?」


にっこりと笑う伊織は、とてつもなく恐ろしく見えた。

俺の心のうちをすべて見透かされているみたいで。


「どこまでも不器用な男だな、澪は」


そんな言葉を言い残して、伊織は廊下を歩いて行く。

振り向いた先に、さっきまでいた2人の姿はない。


「…どうすりゃいいんだよ、」


気付かなきゃよかった。

でも気付いてしまった。

いや、きっと、最初から気付いてはいたんだ。

でも気付かないふりをしていた。


気付いてしまったら、この関係はなくなるから。







俺は。



俺は、神崎のことが好きなんだ。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ