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王子様のからくり  作者: ゆきうさぎ
<第1部>
38/145

37:

「はぁ‥」

「さっきからため息しかついてないね」

「ため息もつきたくなるわ」

「幸せ逃げるよ」

「幸せがあるのかもわかんないよね」

「リア充が何言ってんの」


パシッと頭を叩かれて、恨めしげに聖を見れば「信じらんない」なんて言葉まで返ってきた。

つーか痛いんだけど。


「王子様と付き合っといて幸せじゃないって、あんたどんだけ理想高いの」

「いや、確かにそうなんだけどさ、」


違うじゃない、と言いかけた言葉を呑み込んで、またため息をこぼした。


「そこの2人喋ってるくらいなら掃除してー」

「「やってまーす」」


持っていた箒で廊下の床をはいて言葉を返す。

何で今日に限って掃除当番なんて当たったんだろう。

もう、ありえない。


「陽向ちゃん見っけ」

「げ、」

「げ、とはご挨拶だなぁ」


はははーと、麗しい笑みを私に向けてやってきたのは、チャラ男もとい伊織さん。

あの日以来、なんだかんだ挨拶や会話をする仲になってしまった。

おかげさまで、私への嫉妬の視線は倍増だ。

何してくれるんだ。


「部活?」

「そ。もうすぐ期末1週間前で部活禁止になるからさ。長いこと吹いておきたいんだよね」

「伊織君って音楽に対しては真面目だよねー」

「今"は"って言葉強調したよね?」

「え、気のせいじゃない?」


強調したけど。

だって事実だし。

未だに新島さんと揉めてるみたいだし。

さっき、新島さんがこのクラスの風紀委員にぼやいてたの聞いちゃったし。


「いいのかなー、そんなこと言って」

「は?」

「せっかく澪から伝言預かってきたのに」

「伝言?」

「そ、伝言」


フフンと鼻を鳴らす目の前のイケメンはどことなく上機嫌だ。


「直接言いに来ればいいのに」


面倒な手段を選んでくれたもんだ。


「だって今日、本当なら部活なんでしょ?」

「本当ならって、伊織君知ってるの?」

「さっき職員室でたまたま聞いちゃったの」

「‥なんていうか、伊織君って抜け目ないよね」


そういうのちゃっかり聞いちゃってるあたり。

普通ならそんなの「ふーん、そうなんだー」くらいに流しちゃうのに。


「でも澪は知らないと思うよ?朝倉がわざわざ言うとも思わないし」

「あー‥瑛太は言わないだろうな」


面白がって。

ほんと、顔に似合わず可愛くない性格してる。

私は箒で廊下を掃きながら、散らばっていたごみを一か所に集めていく。

それを見た聖が塵取りを持ってきてくれて、その中にごみをいれていく。


「さんきゅ」

「いーえ。じゃあ陽向、私今日部活あるからあとよろしくね」

「はーい」


私の返事を聞いた聖はそそくさと教室に戻っていって、すぐに鞄を持って出ていってしまった。

その後ろ姿を見送った後に、ちらりと目の前のイケメンを見て、ため息。


「人の顔見てため息ってどうなの」

「うるさいな。今日はため息が多い日なの」


乙女は忙しいのよ。

乙女かって聞かれたら頷きかねるけど。


「その原因は澪?それとも…五十嵐?」

「…なんでそういう情報って回るの早いの」

「ほんと光速並みだよねー」


そう言って笑うけれど、伊織君の目は全然笑ってない。


「五十嵐をふったのは、澪との件があるから?」

「…伊織君は全部知ってるんだね」

「まぁ、全部ってわけじゃないけどね。澪が珍しいことしてるから聞いたっていうのが正しいよ」

「そう」


と、そんな返ししか思いつかない。

廊下にある掃除用具入れに箒をしまって、仕方なしに彼の隣に並んで窓の外をぼうっと見る。


「どっちだと思う?」

「そうだなぁ‥正直わかんないよね、そこは。でも澪のことがなかったといえば嘘になる、ってところかな」

「そうだね、その通りだよ」


ぽつぽつとグラウンドにいる人たちを見ながら、私は笑みをこぼしてしまう。

だけどそれは、どちらかと言えば自分をあざ笑うかのような、そんな笑みだ。


「でも、桐生がいるから、五十嵐君をふったわけじゃないよ」


そうだ、悩んだことは確かだけど、でも、そこに桐生のことは関係ない。


「たとえ桐生とこうなってなかったとしても、私は五十嵐君をふってたと思うよ」

「‥本当に?」

「うん。私ね、イケメンってタイプじゃないんだよね」


そう言って、私は隣にいるイケメンを見る。


「それ俺を見ながら言う?」

「でも事実だもん」

「澪が傷付くよ、そんなこと言ったら。珍しいよね、イケメンが嫌いって」

「そう?顔が良い人にろくな奴はいないって、経験上知ってるからね」

「そこに澪は入るの?」

「………入れば、よかったのにね」

「え?」

「ううん、何でも」


本当に。

桐生だって、例外なく、そこに入ればよかったのに。

ううん、最初は桐生だって顔だけはいい、ろくでもない奴だったんだ。

‥なのに。

いつからだろう。

彼がそうじゃないと気が付いたのは。

私の中の彼が、どんどん大きくなっていったのは。


「澪、図書室にいるってさ」

「え?」

「澪からの伝言。部活終わったら図書室に来てって言ってた」

「そう、」

「じゃあ俺は部活行くね」


伊織君はそう言って、手を振りながら廊下を歩いて行く。

その後ろ姿を見送りながら、私はまた、外を見やった。







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