再会③
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そして、私は真澄さんと時間を忘れるほど水族館を堪能して、出口を出ると……聞き覚えのある声がして、ふと見ると兄夫婦がそこに居た。
「徹兄…美郷ちゃんも…水族館に来てたん?」
顔を引きつらせながらも、私は二人に聞くだけ聞いてみた。
「お義母さんの光ちゃんからのメールを徹哉が盗み見したんよ! 私は放っておいてあげようって言ったんやけど……徹哉が聞かへんねん」
お義姉さんの美郷ちゃんが、苦笑しながら説明してくれた。
「お久しぶりです。徹哉さん、美郷さん。お元気そうで何よりです」
真澄さんが、白々しく二人に挨拶をするとやっと徹兄の口が開いた。
「俺は許さん! 光は、絶対にお前にはやらん言うたはずや! 大事な妹やからな! 俺の許しなしにデートなんかさせへん」
「徹兄!! 真澄さんに失礼やで! 今日は同意の上でここまで来てるんやから、邪魔せんといて! 美郷ちゃんにも悪いやん! せっかくの休日に…妹のデートの邪魔するのに付き合わせるやなんて……ほんまあほちゃう?」
言いたいことを全部徹兄に言うてから、私は、美郷ちゃんに頭を何度も深く下げてから真澄さんの手を取って駐車場へ向かった。
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駐車場に着いて、急いで車に乗り込むと真澄さんが心配そうに私の顔を覗き込んでいた。
「良いのですか? 徹哉さん、ショックだったみたいですよ」
「良いんです。あれはちょっとやり過ぎやと思うので、暫くの間は反省してもらいます」
私が、感情的になって怒っていると……真澄さんは、私をギュッと優しくハグして言った。
「障害がある程、光さんへの思いは強くなるので私は全然大丈夫ですよ」
そんなことを言ってもらえるほど……私のどこに魅力があるのか? まったく私には解らなかったし、私自身……まだまだ、恋愛というものに面倒臭さを感じているのでどれ位真澄さんを好きかと聞かれると……今は困る。
でも、ギュッと優しくハグされることは、嫌では無かった。
水族館を出て、夕食をご馳走になって少し夜景を楽しんだ私は、真澄さんにマンションの前まで送ってもらった。
「次は動物園にでも行きましょう♪」
真澄さんは、私にそう言うと……またギュッとハグをしてから帰って行った。
家に帰って、シャワーを浴びて缶ビールを飲んで眠くなった私はベットに横になっていた。
「何か……まだまだ、子供扱いされているような気がするんやけど……」
私は、一人でそう呟いてから…それでも動物園ならまた一緒に行っても良いかもと思っていた。
その夜……夢の中に出て来た夜刀は、また少し心配そうだった。
「光は、徹哉にすっごく大事に思われてるんだね。あれはやっぱり昔のあの事故のせいだよね?」
あの事故っていうのは、15年前に家族で行った旅行先で起こったバス事故の事で私は徹兄の横に座っていて、徹兄をとっさに庇って割れたガラスが背中に刺さって死にかけた。
幸い命は助かったけれど……私の背中にはザックリと、その時の大きな傷跡が残ってしまった。
そして……それを知った徹兄は、泣きながら言ったのだった。
「光は俺がお嫁に貰ってやるから心配するな!!」
そうだ……あの時の事がきっかけで、あんな変態シスコン兄貴になってしまったんだ。
「徹哉も、そろそろ光から卒業しないとね」
夜刀も、やれやれと言わんばかりにため息をついていた。
美郷さんと結婚したから、少しはマシになるかと思ったが……甘かった。
私も、今日の徹兄を思い出して一つ大きなため息をついていた。