第96話 女の前で別の女を褒める男
「雨宮さん? 首でも痛めたの?」
「え? あっ、いや……別に……」
どうやら無意識に首のホクロを手で隠してたみたい。これは鳩山君が変なことを言ったせいだよ、絶対に。
うー……こんなもの、あったことさえ忘れてたぐらいなのに……急に恥部に思えてきた。鳩山君が私を狙ってる説が濃厚になってきたのもあって、日に日に恥ずかしい部位に思えてきたよ。
きっとアレだよね、私が気付いてない時に鳩山君の視線がここに吸い込まれてるんだよね。私には分からない性癖だけど、多分そこまで珍しくないのかもしれない。ほら、目の下とか口元のホクロに興奮する人いるじゃん。アニメキャラって不自然なほどホクロが少ないけど、ある場合は大体その辺じゃん。逆にブサイクキャラってそこから遠い場所にある気がする。ブサイクの象徴にも使われるし、セクシーキャラの象徴にも使われる。これはつまり性的なポイントであり……。
「ねーねー鳩山ー、これ見てよー」
むっ……? なんか突然、コギャルが鳩山君に絡みだした。耳飾り……?
「おー、可愛いね。でも校則違反じゃない?」
……うん?
「うわっ、相変わらずかたいなー。まぁいっか、あんがとっ」
聞きたい言葉が聞けて満足したのか、早々に会話を打ち切って去っていった。鳩山君は気付いてないかもしれないけど、めちゃくちゃご機嫌だったよ。言葉は軽かったけど、内心はウッキウキだったに違いない。
………………ねぇ、今の何? 私がいない時ならまだしも、私が真横にいる空間であの会話はおかしくない? いや、分かるよ? 可愛いってのは、イヤリングに対してでしょ? 私は分かってるけど、あのコギャルは分かってないと思うんだ。絶対に自分のことだと勘違いしてるよ。笑えるなぁ、流れ的にどう考えてもイヤリングのことなのに、なんで自分が可愛いって言われたと勘違いできるんだろう。コギャルだから短文しか理解できないだろうね。可愛いってワードしか理解できなかったに違いない。SNSとかネットニュースでもよくいるじゃん。中身全然理解せずに怒り散らかす人がさ。文部科学省仕事してよ。
「………………ああいうのが……」
「ん? 何?」
「……別に」
褒めたのはあくまでもイヤリング。そんなことは分かってるけど、ついついキツイ態度を取ってしまう。でも普通のことだよ。女の子の前で他の女を褒めるって、怒られて当然でしょ? そりゃ私と鳩山君って連絡先も知らない程度の仲だけどさ、でも毎日毎日口説いてきてるんだよ? 毎日毎日、角度を変えて褒めてくるじゃん。これはもう告白してないだけで、実質恋人と言っても差し支えはないでしょ? ……恋人かぁ……えへへ。
「鳩山君ってさ」
いつもみたいにゴニョゴニョぼやくだけで済ませようと思ったけど、さすがに問いただすべきだよね。鳩山君が私に好意を抱いている可能性は極めて高いわけだし、いずれ付き合うことを考えたら今のうちに矯正しないと。
「ん? ああ、はい、何?」
「やっぱり誰にでも可愛いって言うよね」
お願い! 否定して! なんならあのコギャルの全てを否定して! イヤリングは可愛いけど、あの女は厚化粧のブスだって言って! あのズベ公に聞こえるぐらい大きな声で!
「さっきのは耳飾りに対する評価だよ」
「…………」
よっし! 無表情をキープしてるけど、脳内の私は凄い顔してるよ。熱血系陰キャになってるよ。
いやぁ、あのコギャルも哀れだねぇ。鳩山君は私みたいにおとなしい子が好きなんだよ。貴女のような女は、しょうもないヤンキーとよろしくしてればいいんだよ。
「まあ、あの子も可愛いけど」
「……そうなんだ」
……キレそう。なんでそんなこと言うの? そりゃさ、一般的にはあのコギャルの方が可愛いと思うよ? でも鳩山君は……
「勿論、雨宮さんのほうが可愛いけどね」
「……ふーん?」
まっ、そうだよね。鳩山君の中ではそうだよね。
いやいや、分かるよ? 鳩山君は優しいから、あんまり女の子の悪口を言いたくないんでしょ? それは立派だと思うし、素直に尊敬する。でもね、その立ち回りは女の子から嫌われちゃうんだよねぇ。女の子を褒めつつ、別の女を悪く言う。そうしないと女の子から嫌われるよ? 私は理解ある方だからいいんだけどさ。
えへへ……私の方可愛いかぁ。しかも〝勿論〟だってさ。嬉しいねぇ。
「雨宮さんも何かつけてみたら?」
……え? 何かって……あの子みたいにイヤリングつけろって?
なんで? シンプルになんで? なんで他の女に合わせなきゃいけないの? どういう意図で言ってるの? なんか良く分かんないけど、気分悪いよ? デート中に露出高い女とすれ違って『キミも今の子みたいな服着てみたら?』って言うようなもんじゃない? そりゃまあ、そういう目で見られるのは嬉しいよ? でもなんか違うくない? あれ? 私がおかしいのかな? 絶対鳩山君側のバッドコミュニケーションだと思うんだけど。




