第93話 依存度:手遅れ
「雨宮さん、最近イケてんじゃん」
「あ、ありがとう……。でも、そんなこ……」
「それ自分でやったん?」
「うん……。見よう見ま……」
「キレーだけど素朴すぎん?」
「そーそー。とりあえずウチらに任せてみん?」
「えっと……私はこれぐらいが……」
「てか指細くね? おっ、しかも冷たっ」
……しんどいなぁ。今まで路傍の石だったのに、ここ最近コギャルに絡まれるのは何故? 鳩山君と接したことで変なフェロモンが移ったの? クラスメイトが前髪を切ったり、ネイルをしたぐらいで絡むかな? 普通に考えて。
というか食い気味すぎない? 私が話してる最中なのに被せないでほしい。あー、休み時間が鬱すぎるよ。鳩山君も、私が絡まれてる間は空気読んでどっか行っちゃうしなぁ。いや、普通に考えたら空気読めてるんだけど、この場合は全然空気が読めてないよ。鳩山君の方がこの手の輩の扱い上手いんだから、私の代わりに引き受けてほしい……よね? あれっ、なんだろ……コギャルに絡まれるのは嫌だけど、鳩山君がコギャルを褒め殺しするのはもっと嫌かも……。ははっ、恋人でもなんでもないし、それどころか友達と呼べるかどうかすら怪しいのに、何を独占欲働かせてんだろ。
「雨宮さん! また明日! 今日も楽しかったよ、ありがとう」
「あっ………………。うん、バイバイ」
朝ぐらいしかまともに会話してないことについて聞きたかったけど、聞くタイミングを逃しちゃった。でもこれでいいよね……。だって鳩山君からすれば『えっ? 俺と話したいなら、雨宮さんから話しかけてくればいいじゃん。というかもっと女子同士で交流深めたら? 上司に無理矢理キャバクラに連れて行かれた若手社員みたいになってたよ?』って感じじゃん? 鳩山君は優しいから口に出さないだろうけど、心の中じゃ今みたいなこと言ってるはずだよ。だって私、完全に地蔵だったもん。でもしょうがなくない? だってあのコギャル達、一方的だもん。アレ絶対、AIが答えきる前にバンバン質問していくタイプの人達だよ。
あー、登校するの鬱だなぁ。女子はそうでもないけど、なんか男子がやたらチラチラ見てくる気がするんだよね。通行人もたまに私を見てる気がする。いや、自意識過剰だってのは分かるよ? 私なんて全然可愛くないし、スタイルが凄いわけでもなければ、派手な髪型をしてるわけでもない。絶対これ美容院のせいだよぉ……。カットした当初は『床屋とあんまり変わらなくない? コスパ悪くない?』とか思ってたけど、鳩山君が褒めまくるせいで美容院と床屋が全然違うものに思えてきたよ。『アイツあの顔で髪に金かけてんの?』とか思われてるに違いない……。っていうか私自身がそう思ってるもん。
さてと……もうすぐ教室だし、そろそろ今日の覚悟を決めよう。朝の挨拶と共に褒め殺しラッシュをくらうことが確定してるもんね。今となっては一日の数少ない楽しみであり、試練でもあるよ。さて、今日はどういう角度から褒めてくれるのかな。
「……?」
あれ? 鳩山君まだ来てない? トイレかな?
……気不味っ! 鳩山君がいないってだけで、この教室の居心地が途端に悪く感じるんだけど、もしかして依存し始めてない?
うー……ソワソワする。いつの間にか私は、鳩山君から褒められないと一日が始まらないところまできちゃったみたい。早く来ないかなー……。
「雨宮さん、おはよう」
「っ! あっ、おはよう」
び、びっくりしたぁ……。いくらなんでも遅すぎるから、今日はてっきり休みだと思ってたよ。もー、鳩山君ってば心配かけてぇ……。
「今日は遅かったね。えっと……何かあったの?」
……今の私の声、ちょっと気持ち悪くなかった? いや、私の声はいつだって気持ち悪いと思うけど、今のは鳩山君が来たことでテンションが上がって、声が上ずってた気がする。うー……しばらく引きずりそう……。
「いや? 今日はなんとなく家でゆっくりしてただけだよ」
はい? なんとなく?
「へぇ……? こんな遅刻ギリギリまで?」
早めに登校してる私よりも更に早く来てる鳩山君が、遅刻ギリギリに到着? 理由があるならまだしも、なんとなくで? 鳩山君の性格を考えると、事情があるなら隠さないと思う。つまり本当になんとなくなんだろうけど……なんで? いや、なんとなくに理由を求めるのは間違いだってのは分かるけど、不安な気持ちにされた私からすると問い詰めたくなる案件であり……。
「俺に会えなくて寂しかったかい? なんちゃって」
「休みだったら…………。えっと」
「ん? 今なんて?」
「……なんでもないよ」
あっ、あっぶなー……。『休みだったらどうしようかと思った』なんて、本人の前で言えるわけないじゃん。重たい女だと思われちゃうよ。むしろ私は、結構さっぱりしてる性格だし。束縛とか粘着とかそういうのしないタイプだし。
……ふぅ。鳩山君といると、普段言わないようなことを口走りそうになるよ。いけない、いけない。どうせ席替えしたら縁なんか切れるんだし、いつでも鳩山君離れできるようにしないとね。
「これからも登校時間遅らせようかな」
「え……?」
私……まさか嫌われ……え? 登校時間遅らせるって……え? な、何? これ絶縁宣言……? 飽きられた……? っていうか最初から弄ばれてた? からかわれてただけ? よくよく考えてみたら、私なんかに興味示すのがそもそも変だもん。大体初めて喋る女の子に『首にホクロあるんだね。セクシーだね』とか言わないもん。これ絶対罰ゲームじゃん。え……鳩山君ってそういうことするの? たしかやろうと思えばボールペン一本で人を殺せるんだっけ? 待って、なんでいきなり私を突き放すの? 満期終了? 罰ゲームの期間満了?
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