第138話 過去の女
嫁姑問題の心配がないどころか、お義母様から応援されちゃった。しかも晴家さんとかいう女狐は、全然外堀を埋めれてなかったみたい。まっ、念のために牽制しておこうかな。出る杭を打つのは当然として、埋まってる杭も埋め立てないと。
「あのー、晴家さんだよね?」
「むっ……。そういうキミは雨宮女史」
えっ? なんで私のことを知ってるの? 鳩山君の彼女だから? うわっ、好きな男の子の周りにいる女を調査するタイプなんだ、この人。こういうストーカー気質な人って、基本的に報われないと思うんだけどなぁ、何故か本人だけがそのことに気付かないんだよねぇ。
しかも〝女史〟って何? 〝女子〟じゃなくて〝女史〟でいいんだよね? なんか嫌味っぽい呼び方してくるなぁ。
……この人、近くで見ると背が高くて怖いな。細身だけど目つきが鋭いというか、女子校の王子様タイプ? ま、まあ、私が挑むのはパンクラチオンじゃなくて恋人の争奪戦だから、私の方が有利なはず……。
「私のこと知ってるの?」
「詳しくは知らないさ。私の次の被害者だってことぐらいしか知らないよ」
「被害者? なんの話?」
「あの女たらしの被害者だよ」
あー、出た出た。一方的に惚れただけのくせに、捨てられた被害者だと思い込んでるパターンね。鳩山君が優しいから勘違いしちゃうのは分かるけど、早とちりしちゃダメだよ。本当に好きなら、相手の言葉の意図をしっかりと汲み取らなきゃ。
「鳩山君を加害者扱いしないでほしいな。晴家さんが勘違いしただけでしょ?」
「仰るとおり、ぐうの音も出ないね」
な、なんか妙に素直とかいうか、変な余裕が見えるな。これが噂の厨二病?
「我ながら図々しい考えだったと反省しているよ。処女を捧げた程度で恋人になれるなど、おこがましいね」
……うん?
「何を捧げたって?」
「こんな場所で何度も言わせないでほしいな。バージンだよ、バージン」
……噂は本当だったの? 過去に女を抱いたことがあるとは聞いていたけど、正直デマだと思ってた。いや、思いたかった。だって鳩山君は責任感が強くて、女の子に対して真摯に向き合ってる紳士だもん。処女を奪った相手と交際しないなんて、鳩山君のキャラじゃないもん。
………………でもさ、キャラ云々は私の願望じゃん? 大事なのは、晴家さんが処女を捧げても恋人になれなかったってところだよ。そう、この人はなんらかの問題を抱えているんだよ。いや、というかきっと、鳩山君は渋々、この人と体を重ねたに違いないね。どうせメンヘラムーブしたんでしょ? 『私と性交しないなら、私は自害する』とかなんとか、同情を誘ったんでしょ?
「私は偏屈なタチだと自覚しているが、現代の社会通念にそぐわない形で乙女な部分があるらしい」
……何言ってるの? 社会通念?
「情熱的に抱かれただけで勝手に愛を感じてしまった。愛がなければ本気で抱けないなど、今にして思えば潔癖症の部類だね」
「……分かりやすく言ってほしいな」
「いや、なに。善吉君は友情を抱いている相手と性交できるってだけの話さ」
「……晴家さんは違うの?」
「私の方は性交する遥か前から、友情など消え失せていたよ。だからこそ相思相愛だと思い込んだまま、彼と体を重ねた」
……………………初対面なのによく喋るなぁ。
「〝男女の友情は成り立たない〟とよく言うが、ある意味彼は誰よりも成り立たせる能力があるね。友達相手に性欲を抱くのは恥じゃなく、性欲を満たした後も今まで通りの関係を保つことができる。あそこまで器用に切り替えができるのは凄いね」
「………………貴女が何を言ってるかはよく分からないけど、もう鳩山君を狙っていないってことでいいんだね?」
もうこの女と関わるのは勘弁願いたい。言ってることが支離滅裂だし、牽制するだけ無駄な気がしてきたよ。
「恋愛シミュレーションゲームで攻略できないキャラにアプローチし続けるほど、私は酔狂じゃないさ」
回りくどいな、普通に〝はい〟って答えりゃいいのに。
「彼の気が変われば、私の気も変わるのだろうけどね」
はいはい、要するにもう鳩山君を狙ってないってことね。だって絶対に変わらないもん。私と出会う前に汚点を作っちゃってたのはショックだけど、彼氏の過去についてグチグチ言うのは良妻らしからぬ行為だからね、私は不問にするよ。
「じゃあ、邪魔しないでね」
「するまでもないさ」
「……はい?」
「一年後ぐらいに女子会というものをしてみないか? 同じ男に惚れて失恋した者同士なら話が弾むかもしれない」
「……はいはい。惚れた男とゴールインした女と、惚れた男から友達としか見られていなかったピエロの女子会でよければ、謹んで参加させてもらうよ」
あーあ、時間無駄にしたなぁ。晴家さん、私が釘を刺すまでもなく、敗北者マインドだったもん。ああはなりたくないね、可哀想に。




