第12話 強制アポ
昨日に続いて雨宮さんが下校に誘ってくれた。昨日と違って変なイベントはないので気楽なはずなんだが、昨日よりも空気が重い。
「鈴木さんに抱きついてもらえるなんて羨ましいなー。男の子なら至福でしょ?」
ヘッドロックの件をネチネチと責めてくるんだけど、俺悪くないよな? っていうか、抱きつくって表現やめない? 技だから、絞め技だから。
「アレはそんなんじゃなくて……」
「でも嬉しそうだったよね?」
そりゃまあ、男なら嬉しいに決まってるだろ。そこそこの美人で、そこそこのスタイルだぞ? 匂いも柔らかさも、男を喜ばせるには充分すぎる。
「ほら、俺ってこんなんじゃん? 女の子との絡みがそんなにないからさあ」
「そうだよね、私との絡みはノーカンだよね」
ああ言えばこう言うんだから、もう。ネガティブを武器にしないでくれ。意図的ならば、それはもうネガティブじゃないから。
「楽しかったよね? 鈴木さんって明るいし、大人っぽいし」
「キミと喋ってる時のほうが楽しいよ。それは間違いない」
「それ言っとけばいいと思ってるよね? 心にもないことばっかり」
ツンとした態度を取っているが、明らかに喜んでいる。存在しないはずの尻尾とケモ耳がピコピコ動いてるのが見えるもん。
「あのさ、こういうのって主観とかあるから一概には言えないんだけどさ、少なくとも俺はキミのほうが可愛いと思うよ」
「……さすがに嘘だよね?」
存在しない尻尾の動きを止め、ジト目を向けてきた。
「ほら、その顔。俺の好きな表情だよ」
「うー……。私ってチョロいのかも……」
立ち止まり、両手で顔を覆い隠す。うん、とても可愛い。妙に嫉妬深いところや、今朝みたいな奇行に走るクセ、そういうところさえなければなあ。
「でも、でも、でも……。鈴木さんのほうが男子から人気あるでしょ?」
「それは知らんけど、それでも俺はキミのほうが好みだよ」
「嘘だよ、嘘。だって嬉しそうに抱き合ってたし」
抱きつかれていたから、抱き合っていたに進化しちゃったよ。元が間違いなのに、訂正どころか悪化させるんだもんなぁ。
「嬉しかったのは認めるよ。俺だって男だし」
あのご褒美を受けて平気の平左なヤツいる? よほど鈴木が好みから外れているか、性欲がないか、あるいは異性に欲情しないのか、はたまた特殊性癖の持ち主か。いずれにせよ、俺が正常なんだよ。むしろドサクサに紛れて触らなかっただけ、紳士だと思うんだけどね。
「アレが私だったら?」
「アレって……鈴木さんとキミの立場が逆だったらってこと?」
「うん。同じような反応になってた?」
……そりゃ興奮はするだろうけど、雨宮さんはなるべく清楚路線で行ってほしいんだよな。ビッチ路線はビッチに任せておけばいいんだよ。
「そうだね……。雨宮さんって小悪魔系の可愛さが似合うし、アリかな」
「こ、小悪魔系? それって……凄く褒められてる気がする」
「褒めてるんだよ」
内気なキャラも似合うし、あざとい系もアリだし、ズルいよね。現状としては、そのどれでもない方向、決して良くはない方向に進んでいる気がしてならないんだが。
「でも、私ってあんまり……発育が良くないし」
口を尖らせながら、自分の胸に手を当てる。こうしてみると、意外と表情や仕草が豊かで可愛いな。仕草が豊かって表現が正しいのかはわからないけど。
「デリケートな問題だから深くは言及しないけど、俺は今のキミが好きだなぁ」
「っ! い、今のは冗談じゃ済まないけど?」
え? 俺、今いつもより深く踏み込んだの? 普段の褒め言葉とどこが違うのか、わからないんだが?
「何度も言うけど、俺は冗談でこんなこと言わないよ。お世辞なんて相手のためにならないし、自分の心にも傷をつけることになる」
こんな時になんだが、俺って社会に出たら苦労するだろうな。なんだったら、大学生活とかも苦労しそうだ。先輩や教授に媚を売って、上手く世渡りするってことができなさそう。
「じゃあ……。今までの言葉も信じるよ? 鳩山君が私に言ってきたこと、全部本当のことだって信じるよ? いいんだよね?」
むしろ疑われていたことにショックを受けているんだけど、それはさておき、なんですがるような目をしてるんだ? 初めて見る目だが、なんとなく覚悟を決めた人特有の目な気がする。リアルな話、人が覚悟を決める瞬間って中々見られないから、確信は持てないけど。
「本当に可愛いと思ってるし、キミの仕草を好んでる。お世辞じゃない。嘘だったら好きなだけ殴ってくれていい」
「……グーでいってもいいの?」
「グーでもパーでも」
チョキは勘弁してほしい。いや、嘘なんかつかないから、別に問題ないんだけど。
「喉にグーでも?」
痴話喧嘩で飛び出るパンチじゃないよ、それ。相手の今後の人生を摘みにいく時専用のパンチだよ。
「かまわない」
「鳩尾でも? 人中でも? 大事なところでも?」
「いいよ。嘘じゃないし」
覚悟を試したいってのはわかるけど、なんで的確に正中線を狙ってくるんだよ。発想がグラップラーに寄りすぎだろう。
でも嬉しそうだし、細かいことはいいか。俺は正しい選択をしたよ。自分に正直でいるという、普段通りの言動にすぎないけど。
「好きってのは……」
「好みってことだよ。そこに恋愛感情はない」
「……そっか」
おや……? 己の信念に基づいた正しい選択をしたはずなんだけど、失敗した感が否めないぞ? えっと、えっと、なんだ? 今からでも嘘をつくべきか? いや、それはできない。じゃあ何ができる? それは……。
「現時点では……の話だけどね」
補足! 真実を追加! これしかないだろ!
「現時点? じゃあ、その……今後、変化の余地は?」
「大いにある。キミはもっと自分の魅力を知ったほうがいい。キミが前髪を切ったその時から、いつ彼氏ができてもおかしくない状態に入ってるんだよ」
実際、お近づきになろうと機会を伺ってる男子がチラホラといるし。どこまで本気なのかは測りかねるが。
「そ、それも真実なんだよね? 私なんてどう考えても、下から数えたほうが……」
「全国の女子高生の中でも上の方だよ。少なくとも俺が知ってる女性の中では、トップクラスだよ。嘘じゃない」
トップじゃないけど、上の方。うん、嘘はついてないな。あくまでトップクラスだからね、俺が口にした言葉は。
「じゃ……じゃあっ!」
うおっ!? びっくりした!?
今までで一番デカい声が出たけど、どうした? 何かとんでもないことを言い出す前触れとしか思えないんだが、ここが山場……正念場ってことでいいんだな? ここでの返答を間違えたらバッドエンド濃厚、心してかからねば。
「何かな?」
「ど、土曜日……お家に来てくれるよね? 来ないと酷いよ?」
今朝の時点で予想していた展開だから別にいいんだけど、シャドーボクシングしながら家に誘う女子いる?
「うん、お邪魔させてもらおうかな」
「約束だよ? 私、本気で怒ったことないし、人を殴ったことなんてないから……多分、まともに手加減できないと思う」
土曜日、どうなるんでしょうね、私は。一つ確実に言えるのは、その辺の不良にボコられるより悲惨なことになるだろうってことかな。お互い別の施設に入院することになりかねん。よし、土曜日は意地でも予定をあけておこう。




