第102話 顔立て
私がネイルチップを外すと宣言したら、鳩山君がキョトンとした表情になった。あはは、さすがに白々しいよ? だってこれ、鳩山君が望んだことでしょ?
「せっかく作ってもらったのに?」
「大丈夫だよ。ちゃんとファイルに保管するから。………………まあ、一生ファイルの中だろうけど」
「だ、出さないの? もう」
あれっ、本気で動揺してない? 私が思ったよりも良い子ちゃん……というか、鳩山君の思い通りに動く女で驚いてるのかな? 多分だけど、鳩山君は女性関係で苦労してきたんだろうねぇ。我の強い女に振り回されてきたのかな、可哀想に。
「うん。だって、私が独学で塗ったマニキュアのほうがいいんだよね?」
「えっと、いいのか? その、怒られたりとか……」
あー、そういうこと? やっぱり優しいなぁ、鳩山君は。山中さんが逆上して私に危害を加えることを恐れてたんだね。なるほど、さっきの動揺はそういうことかぁ。
「アハハ、デコ入りのネイルしてるほうが怒られるよ」
あえて勘違いしてるフリをしておいた。鳩山君が指しているのは山中さんだけど、私は教師だと解釈したってことにしておく。だってこの勘違いは、私が山中さんに怒られることはないと確信してないと起きないでしょ? 実際のところどうなるかは知らないけど、鳩山君は安堵できるはずだよ。私って本当に鳩山君のことを大事にしてるよね。こんな優しい子、中々いないからね? 絶対手放しちゃダメだよ? まあ、離れる気なんてないし、離す気もないんだけど。
「そうだね、うん。飾らないキミが一番だよ」
「そう? えへへ」
聞いた? ねぇねぇ、今の聞いた? 一番だってさ。今のは全ての女性の中で一番好きって意味でしょ? 未だに信じられないよ、私のことをここまで好いてくれる男子が現れるなんて。
今までっていうか今もだけど、私はこの顔にコンプレックスを抱いている。でも今となっては、この顔に生んでくれた親に感謝してるよ。運命の出会いと言わざるをえないね。出会えてよかったぁ。
「おいっすー。あっ、ネイルつけてくれてる!」
空気読んでほしいなぁ。一昨日、私が速攻で帰った時点で、私からどう思われているかを察してほしいもんだね。しかもよりにもよって、プロポーズされた直後に邪魔してくるなんてね。
……本当に偶然なんだろうね? この期に及んで人の男を取ろうだなんて、ふてぇことを考えてるんじゃないだろうね? 女なんて嫉妬深い生き物なんだから、やめておいたほうがいいよ? 私はサッパリしてるほうだから、まあ害はないんだけどさ。
「……おはよう。うん、凄く気に入ったよ」
良く言えば類を見ないね。悪く言うなら廃材アートだよ。
「マジ? じゃあ放課後、新作を作ろっか?」
ガチでやめてください、迷惑です。保管するためのファイルだってタダじゃないんだからさぁ。
「えー? いいよー。そんなにお金ないし」
厳密には『そんなことに使うお金ないし』なんだけど、私って本当に優しいね。まあ、鳩山君の手前ってのもあるけども。
「いいっていいって、タダでやってあげっから」
あー、やっぱり通じないんだね。こういう輩って、直接言わないと伝わらないのかなぁ? 暗黙の了解とか、不文律とかそういう、あえて明文化しないスタイルが理解できないタイプなんだろうね。
「そんな、悪いよ。お金が用意できたら、またお願いするね」
「そー? 別に気ぃ遣わんでもいいのにー」
渋々帰っていった。もしかして私、冷たい女だと思われちゃった? ハッキリと伝えないのって、温情だと思うんだけど。ここでキッパリと『こんなダサいネイルいらないよ! 野菜炒めみたいなノリで、余ったデコレーションを在庫処分した感が満載だよ!』とか言っちゃうと、山中さんに恥をかかせちゃうしね。
「……面倒だなぁ」
友達多い人って凄いなぁ。私はあの女一人でさえ持て余してるのに。いや、別に友達ではないんだけどね。




