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テックフォードの遺産  作者: 之 貫紀
第2章 FOURTEEN FRANTIC DAYS

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ええ!? ぼったくり!?

「ふわー」

「おいおいハンコック、仕事はまだ始まったばかりだぜ」


 冷たい空気に白い息を吐きながら、バイリヴィール西門の番についたウェスガードは、同僚のハンコックの大きなあくびを見て呆れ顔でそう言った。


「こんな朝一にやってくるやつなんていやしないよ」


 暖を取ろうと手をこすりながらそう言ったハンコックが門を開けると、そこには、立派な馬がつながれた箱馬車と、その後ろには――


「な、なんだぁ?」


 ずらりとつながった十七人の男たちが、精も根も尽き果てた様子で座り込んでいた。


  ❖ ◆ ❖


「え? 盗賊ですか?」

「はい。昨夜街道で襲われたんです。そのまま捕縛して連れてきましたのでお引き渡しします」


 そう報告してきたのは、メイド服を着た可憐な女性だった。


「ほ、捕縛? 襲われた?」

「はい」


 護衛もいない単体の箱馬車で、十七人の盗賊を全員捕縛する? こんな女性が?

 いや、待て。ここはバイリヴィールだ。そんなまねができるのは――


「もしや、魔法学院の?」

「あ、私がそうです!」


 そう言ってメイド服の女性の向こうから挨拶してきたのは、もう少し年下に見える女性だった。

 とはいえ、魔法学院の学生なら立派な魔法使いだ。一人で十七人の盗賊を捕縛したとしてもおかしくはないだろう。

 

 本来はおかしいのだが、魔法のことを凄いものだ程度の認識しかなかったウェスガードは、それだけで納得して盗賊たちを引き取り、受取証を発行した。

 懸賞金の確認などの細かな処理が終われば、それを提出することで報奨金を受け取ることができるのだ。


「ありがとうございました」

「いえ、こちらこそ。ご苦労様でした」


 もしかしたらお金になるかもと、にっこにこのアリシアがお礼を言うと、ウェスガードは照れた様子でそれに答えた。


「お嬢様。衛兵に愛想を振りまきすぎです」

「ええ? いいじゃない。スマイルは0リブレって、おじいさまが言ってたわ」

「愛想を振りまきすぎると、変なのが寄ってきますよ」


 それを聞いてアリシアは、コロネンに壁ドンされたことを思い出して、少しだけ顔を赤らめた。

 あれは別に愛想を振りまいたわけじゃないが。


「あら、お嬢様。どうしました?」

「な、なんでもないから! ほら、商業ギルドに行くわよ!」


 そう言って自分から馬車に乗り込んだ彼女を見て、シャーリーは面白そうに微笑みながら、御者席へと座った。


  ❖ ◆ ❖


「ええ!? ぼったくり!?」


 アリシアが思わず上げた声に、説明をしていた商業ギルドの女性職員――プリシラと名乗った――が笑顔で青筋を立てた。


 商人になりたいと突然飛び込んできたうら若き女性が、サヴール王国の商業権を取得するのに必要な金額が、保証金を含めて金貨三十枚だと告げた途端にこの台詞だ。

 別にぼったくっているわけでも何でもなく、一般的に知られている金額だから、ここへ商業権を取得しに来るような人物には周知の事実であるにもかかわらず、だ。


「ええっと、最低ランクの会員でも?」

「すべてのランクに共通の初期保証金ででございます」

「割引とかは……」

「残念ながら」

「ぶ、分割払いは……」

「ございません」

「あうう……」


 金貨三十枚と言えば学費の七分の二だ。

 せっかく夕べ盗賊から巻き上げた二十七枚だけではなく、さらに報償で貰ったなけなしの三枚をつぎ込んでようやくギリギリ、財布に残るお金は銀貨が五枚と銅貨が二枚だ。

 もはや、人生崖っぷち。もっとも、フォーディーがいなければとっくに深淵の森で終了していたのだが。

 

「ちょっと、相談してきます……」

「お早めにお願いします」


 アリシアは、額から汗を流しながら笑顔を貼り付けてそう言うと、シャーリーの袖を引っ張って、ロビーの隅へと移動した。


「どどど、どーしよう、シャーリー」

「落ち着いてください、お嬢様。フォーディーさんはどう思います?」


 フォーディーの感覚で言えば、ここで言う商業権とは、歴史的にあった座のようなものへの加入権だろう。

 すべてを商える座の加入権が三千GDで得られるのなら安いのではと思わないでもなかったが、何しろアリシアの全財産は金貨三十枚と少ししかない。

 彼女の気持ちも分からないでもなかった。


「商業ギルドの情報が少なすぎるため判断できませんが、手元資金がないといざというときに困る可能性があります」

「つまり?」

「売り先も売り物も決まっていない現在、ここは、商業権を得た場合のルール等が書かれたパンフレットのようなものを確認して撤退することをお勧めします」

「うーん、やっぱりそうだよね。じゃあついでに盗賊の出現情報も貰ってこよう!」


 会員になってもいない一般人に、そんな情報を開示してくれる機関があるとしたら、公共の機関だけだろう。

 仮にも会員の利益を守ることが第一義になるであろう商業ギルドにそんなサービスはないか、あったとしても有料に違いない。

 超小型のスパイ用ドローンを飛ばして盗み見るという手もあるが、それはフォーディーの倫理に反していた。

 

 そんなことは露ほども考えていなさそうなアリシアは、揚々とカウンターへ戻ると、プリシラと再び対峙した。


「残念ながら、今回は諦めます。ただ、後学のために商業権を得た場合の決まり事が書かれたパンフレットなどはありませんか? 予習しておこうと思って」

「入会前に確認できる範囲のルールは、こちらに記載されていますが、お譲りすることはできませんので、この場でご確認ください」


 そういってプリシラが差し出してきたのは、かなり分厚い書類の束を閉じたものだった。

 もっとも大部分は、商業権を購入しようとする者なら誰でも知っているはずの情報なのだが。

 

[ アリシア、それを素早くめくってください。記録します ]

 

 アリシアはそのメッセージを読むと、カウンターの隅の邪魔にならない場所でページをめくり始めた。それを見たプリシラは、あれで読んでいるのかしらと内心疑問に思っていた。

 

 すぐにすべてのページをめくり終わったアリシアは、プリシラにその書類を返しながら聞いた。


「ありがとうございました。ついでで何ですが、最近盗賊に悩まされているルートとかの情報はありますか?」

「安全なルートは、ギルドメンバーにだけ開示が許された内部情報に当たりますから、ここでお答えすることはできません」


 コストを掛けてなるべく安全なルートを調べている以上、その情報がメンバーにしか開示されないのは当然だ。

 それに安全だと思われるルートを開示してしまえば、その情報を元に盗賊が行動することは確実だから販売もされていなかった。

 

「えー?」


 アリシアの反応に、笑顔を貼り付けたプリシラが、「ご用が済みでしたらこれで。登録をお待ちしております」と言った。

 その引きつった口元が、早く帰れと主張していた。

 

 アリシアはその迫力に、へこへこと頭を下げながら、カウンターからあとずさった。

 

  ❖ ◆ ❖


 商業ギルドを出たところで、アリシアはフォーディーに尋ねた。 


「はー、あの人迫力あるよね。だけど、あれで本当に読めてたの?」


 商業ギルドのルールが記されている本など、パンフレットのようなものだろうと思っていたアリシアは、その分厚さを見て驚いた。

 とても簡単に読めそうにはなくうんざりしかけたが、フォーディーにとにかくめくれと言われて、ひたすら書物をめくるだけの機械と化していたのだ。

 

 フォーディーが街にある看板を見て薄々想像していたとおり、そこに書かれていた文字は、銀河標準アルファベットとほぼ同じだった。

 文字だけの看板もかなりの数に上っていたところを見ると識字率も悪くはないようだ。


「もちろんです。記録もしました」

「え。もしかして教科書をこうやって記録して、試験中にゴーグルでそれを見ることができれば座学の試験なんて楽勝なんじゃ……」

「アリシア、それは控えめに言っても不正です」

「そうだけど……もう、融通が利かないんだから」

「倫理をなくした者たちが、人として最低の行動を取ることは歴史が証明しています」

「まあそうね。酷い領主とか、本当に酷いらしいし」

「銀河連邦でも、過去にそういった人物は存在していました」

「へー」


 人はどこでも同じね、と彼女は空を見上げた。


「で、お嬢様。これからどうなさるんです?」

「うーん。商業ギルドで情報が貰えなかったからなぁ……後はコロネン少尉くらいしか当てがないんだけど」


 本当は頼りたくない。

 だが、闇雲に馬車を走らせたところで盗賊に出遭う可能性は低いだろう。そう、背に腹は代えられないのだ。


「よし! 明日の不安より今日の糧だっておじいさまも言ってた……ような気がする!」

「お嬢様……」


 これを前向きと捉えるべきか、いい加減と捉えるべきか……ロイはそんな性格だったかなとフォーディーは、無い首を傾げていた。


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