思惑
「コロネン少尉の分隊が、千を超える異種混合の集落を殲滅したのは事実だった?」
じろりと部下をねめつけたのは、エンドの西を納めているマルロー・ジンファンデル伯爵だ。
濃い茶色の髪を後ろへと流し、髪と同じ色の瞳で鋭い視線を向ける偉丈夫は、貴族と言うよりも軍の精鋭のようだった。
「はっ、指定された場所には、確かに巨大な集落がありましたので、火をかけて焼き払いました」
集落跡をそのままにしておくと、別の群れが住み着いて増えることがあるため、破壊しておくのは通常の手続きだ。
ただし、発見者は報告する際の証拠がなくなってしまうため、それを行うのは状況を確認する部隊ということになっていた。
数日前、使者として現れたのは、小隊を預かる中尉と数名の護衛という名の取り巻きだった。
テリオス・ファーレンハイト中尉は大仰にひざまずいて、エンドの少し先、深淵の森の浅い場所にできた魔物の大きな集落についての報告を行った。
数日前、その報告がもたらされた時は、一体何の冗談かと訝しみ、中尉を威圧のこもった視線で射抜いたものだった。
さすがに辺境を預かる一族だけあって、当主のマルローは迫力のある男だ。
その男の威圧を、どこ吹く風と受け流した中尉を見て、マルローは、どうやらなかなかの手練れらしいと目を細めた。
サヴール王国は北西と南西、それに南東に辺境伯領があるが、深淵の森側には国境を接する隣国がないため辺境伯がいない。
森の脅威が増したとき、何度かそれを置く話も出ていたが、テックフォード家がエンドを治めることになってからそういった話も立ち消えた。
だが、ここで何らかの功績を上げれば、王家預かりになっているエンドを賜り、辺境伯へと陞爵する目も出てくるだろう。
集落殲滅の報告を受けたのは、その報を受けて、軍を召集しようとしていた矢先だった。
千などという部分が虚報で、実は数十の群れを大げさに報告したのではないかと訝ったが、それでも褒賞のことを踏まえて状況をはっきりとさせておかなければならない。
すでに脅威は取り除かれているということなので、数名の信頼のおける部下を派遣したのだが、その部下が先程戻って来た。
「以前からあった集落の廃墟を発見しただけではなかったんだな?」
「は、同道していた学院生などもその場にいたそうで証言が得られています」
「討伐した魔物の魔石は?」
「軍の拾得物として残されていました」
魔石が残されているということは、実際にその魔物がいたということだ。
通常、討伐の褒賞は討伐証明部位か魔石をもって計算されるため、その数を見れば、魔物の数は誤魔化しようがない。
「コロネン少尉は、魔石の拾得は確認部隊に任せると言うことでしたが、我々だけではとても対処できず、取り急ぎ大物の分だけを持ち帰りました」
「ふむ」
軍による行動だとはいえ、拾える分は拾って帰るのが普通だが、今回は多くの学院生を連れていたこともあって撤退を優先したと言うことだろう。
そこで提出された三つの魔石は非常に立派なものだった。
「これは?」
「はっ、どうやらオークの変異種のようで、黒く巨大な魔物のものでした」
「ううむ……」
分隊で、学院生たちを保護しつつ、変異種や支配種を交えた千を超える魔物の群れを無傷で殲滅する?
マルローは小さく顔を振った。自家の領軍でも、そんなことは絶対に不可能だ。
「噂には聞いていたが、これほど能力が高い部隊だとは思わなかったぞ……冷や飯を食わしておくのは構わないが、使わないのは大きな損失だな」
マルローは顎に手を当てながら、遠くを見るような眼差しで宙を睨んでいた。
ここまでで、第1章の終了です。
修正・確認が終わり次第、2章を投稿しますのでしばらくお待ちください。




