見るべきでないもの1-3
「おいおい、私を人気のない場所に引っ張り込んで、何をしたいんだぁ?」
大図書館で読書をしていた聖羅を有無も言わさずに、その腕を引っ張ってアレッタの自室へと連れ込んだ。
アレッタを部屋に引っ張り込んだ理由は昨夜の未来視の鏡がみせたビジョン。
何の説明もなく連れてこられた聖羅は、特に怒るわけでもなく、これは何か面白いことが起きているな、程度に考えてアレッタの発言を待つ。
「むぅ」
「唸るな、唸るな。そう怖い顔しても可愛いから別に怖くはないぞ。なぜ怒っているんだ、私はまだ何もしていないぞ?」
「ま、まだ!?」
「は? いや、本当にどうした? いつもと様子が違うが」
聖羅の表情に心配そうな色が浮かんだ。
「説明してくれ。唸ってばかりじゃ理由がわからんだろ」
聖羅とソファに腰掛けたアレッタは昨夜の出来事をすべて話した。放している間は聖羅も茶々を入れずに黙って聞いていた。むしろ、聞いているうちに赤茶色の瞳には真剣味が泳ぎ始めた。彼女の姿勢を悟ったアレッタは聖羅に心強さを感じた。
「なるほどなぁ。私がお前や見知らぬ誰かに殺される、と。その鏡は?」
「これ、です」
机の引き出しに入れてあった手鏡を聖羅に渡す。
まじまじとその鏡を見渡し、その仕掛けを解こうと魔力を流してみたりもしたが、至って普通の手鏡だった。聖羅は次なる手段に出るために、一度、その手鏡をアレッタに返した。
「深夜に大浴場に行くぞ。そうすれば、こいつはまた未来を視競るんだろう?」
「はい。幽霊さんが言うには」
「なら決定だ。このことは誰にも言わない方がいい。私とアレッタ、二人だけで向かう」
「柊先生にもですか?」
「当たり前だ。よく考えろ。そんなものが実在していると知ったら、間違いなく取り上げられ、私もその原因を知らずに、その将来を迎える可能性がある。もしかすると、その原因が知れるかもしれないという希望的観測もあるがな」
「そうですね。原因が分かれば、私と聖羅であればきっと変えられますよね」
「ああ、決められた運命なんてクソ食らえだ。最悪な運命ならなおさらだな」
「聖羅、言葉が汚いですよ」
「クク、ならお上品に言ってやろうかァ?」
二人で笑い合った。
互いの実力を認め合って、信頼し合っているから、どんな困難も二人がそろえば打ち砕けると思っている。
運命を変えるのはとても困難なはずだ。生半可な実力と覚悟では変えられない。だが、運命を変える力こそ奇跡と呼ぶのではないか。
「ああ、お前に一つ、私が心掛けている生き方を伝授してやる」
「聖羅が心掛けている?」
「迷う前に突き進め、だ。迷ったら遅れをとる。迷いが生じた瞬間から自分の道を見失って、ああでもないこうでもない、と余計に迷い迷宮に埋没していく。お前はよく迷うからな。頭の片隅にでも入れておけ」
「そうですね。私はよく迷います。確かに迷いを抱けば、余計に自分がとるべき最善の選択が遠ざかっていく気がします。その正体は焦り、ですね」
「クク、流石はアレッタだ。自己分析はお手の物だな。よし、私はもう一度、大図書館へ戻って、この組織の誕生から探ってみるとするか」
「本当に迷いがありませんね」
「当然だ。迷いを抱く前に、何をすべきが最善の道筋かを導きだせるからな」
聖羅はアレッタの頭を撫でて「大丈夫だ。私はお前に殺されるようなこともしないし、お前が知らない顔を持つつもりもない」と言って、部屋から出て行った。
「本当、聖羅は」
きっと聖羅なら大丈夫。自分もいる。幹久や香織もいる。道を踏み外そうとしたら、自分たちが修正してあげればいいのだ。踏み外す要因は潰す。迷ってはいけない。迷う前に動け。聖羅らしい自分主義な道だ。
「友達を助ける為ならば、迷いも捨てます。非道だって、何だって手段も問いません。それで仲間が守れるなら。統括者を目指すのですから、汚い一面も持たなくてはならないのですね」
あの晩、アレッタの中から出てきた異形を、躊躇いなく、冷たい一言で殺した柊のように。
自分も今やるべきことをできるだけやっておこうと、大浴場に向かう。
なぜ鏡が大浴場にあったのか。どうしてあの時間でなければ未来を映さないのか。その原因が大浴場にあるとしたら、行って調べてみなければならない。今の時間は誰もが入浴できる時間帯なので幽霊も出てこないはずだ。調査していて不審がられるかも知れないが、避けるべき未来の為に、周囲の視線を無視しようと決意した。
こんばんは、上月です
次回の投稿は14日の21時を予定しております!




