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見るべきでないもの1-1

 汗を掻いたアレッタは大浴場に向かっていた。


 フラフラとした足取りで、思考もままならない、本能で汗を流す場所を求めて夜の通路を一人で歩いている。


「はぁ、はぁ」


 火照って赤く染まった顔に定まらない視点。


 風邪に似た症状の気怠さも相まって、今にも倒れ込みたい気分だった。


 この原因は魔力の急激な消耗による負荷によるもの。


 数日前に聖羅たちとシェルシェール・ラ・メゾンの噂の真相を突き止めるべく、南棟の角部屋に向かった翌日から体調を崩していた。


 聖羅は何ともない様子で見舞いにきてくれたが、巻き込まれて体調を崩したアレッタからしてみれば、ピンピンとしている聖羅が恨めしかった。


 眠ればあの悪夢にうなされて心も休まらない。


 寝汗を拭き取るだけでは気持ち悪さは払拭できず、とうとう無意識に大浴場を求めた。


 深夜の大浴場の噂なんて、今のアレッタの頭の片隅にも無い。


「お風呂……」


 脱衣所でいつもなら畳んで置いておく服も、目先に囚われて、籠の中に乱雑に放り込む。朝と夕の五時に二回の清掃が入る。多くの人が使った後の湯ではあるが、24時間お湯は出しっぱなしなので熱々の湯に浸かる事が出来た。


 身体の芯から陣割とした心地良さに少しだけ気分が楽になり、ボーっと天井を眺めて入浴を満喫していた時だった。


「――誰ですか!?」


 振り返り、浴場を一周見渡してみても誰も居ない。


 気のせいかと思ったが、確かに耳元で誰かが囁くような声を聞いた。お湯が流れる音とアレッタが身じろぎすることで湯に波が立つ音しかしない。緊張状態の脳は一つの、思い出したくなかった噂を思い出した。


「深夜の大浴場……」


 自分はなんて時間に来てしまったのか。


 禁止はされてはいないが、誰もが各々の危機管理でこの時間帯は使用しない。完全な立ち入り禁止に指定されている南棟ほどの脅威は無い。ただ、大浴場に伝わる噂は本当に都市伝説のような話の肴になる程度のもの。


 ヨゼフィーネが過去に一度、その事実を確認しようとしたが、結局は何も起こらなかったと柊から聞かされた。だから、聖羅は南棟の検証に向かったのだ。


「噂は噂、ですよね?」


 自分に言い聞かせる。


「そうよ」

「ですよね。噂です……し?」


 耳元で確かに聞こえた女の声。


 首をゆっくりとそちらに回しながら本能で止めようとした。向いてはいけない。それと同時にそこにいる者の姿を想像してしまう。聖羅が日本から取り寄せたホラー映画に出てくるお化けの姿を。


「ハロォ、銀髪のお嬢さん。こんな時間にお風呂なんて、噂を知らないのね」

「お、お……お」

「お?」

「お化けッ!!」


 波をザブザブと立てながら浴槽から逃げ出そうと慌てふためくが、少女は素早い動きで先回って立ち塞がる。


「待って、待って、待ちなさいな。お化けは酷いんじゃないの?」

「で、ですが……ああ、そうですね。えっと、ごめんなさい。具合が悪いもので、もしかしたら、貴女が入浴していたのに気付かなかったのかもしれません」

「大丈夫よ。お化けだから」

「――ッ!」


 卒倒しそうに表情が固まるアレッタに、自称お化けの少女はクスクスと笑ってみせた。とてもお茶目に笑う少女は、ホラー映画に出てくるような悍ましい容姿ではなかった。金色の豊かな髪にモチっとした頬が特徴的な愛らしい少女だ。アレッタより少し歳下くらいだろうか。その少女は湯に浸かってはいるが、湯の中には彼女の下半身は無い。


「別に襲わないわ。だって、襲っても貴女には返り討ちにされちゃうんだもの」


 敵意は感じられないが、幽霊には変わりない。


 この間のホラー映画鑑賞だって、アレッタがそういった類の存在に恐怖していることをしっていて、聖羅は「これもまた成長だ」といってアレッタを無理やり鑑賞させたのだ。途中でトイレに席を立った聖羅だが、まったく帰ってくる気配がなく、探しに行こうとしたが、画面の悍ましい恐怖によってその場で金縛りにさせられ、視線をその映像から逸らす事が出来ず、エンディングを迎えるまで緊張状態を維持し続けさせられた。


 スタッフロールが終わった所で聖羅はニヤニヤとした表情で帰ってきたので、思いっきり泣き叫びながら、掴み掛かって押し倒した。我を忘れるほどに幽霊という存在を恐れるアレッタに、目のまえの存在はやはり恐怖の対象でしかなかった。


「そんな事よりね。面白いものがあるのよ。どう、気にならない?」

「面白いこと、とは何でしょうか」

「面白い事は面白い事よ。教えたらつまらなくなるわ」


 この少女はアレッタをこのまま帰隙が無い事くらい、この立ち位置を見ればわかる。初めから選択の余地なんてない一方的な道。


「わかりました。見ます。見たら帰ります」


 具合が悪いので、なるべく早く終わらせて部屋に戻りたかった。


「じゃあ、持ってくるわね。ええ、楽しみにしていなさいな」


 幽霊の少女は湯の中に潜った。

こんばんは、上月です



昨日はバタバタしていて投稿できませんでした。


次回の投稿なのですが今週の土曜日に引っ越しますので、しばらくは投稿できそうにありません。

引っ越し後も色々と忙しそうなので、一応の予定では4月11日くらいにとうこうできればいいな、と思っております

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