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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第三章
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国の頂点

 アゼルからの報告を受けて俺達は大通りから離れる。アゼルが連絡役なので動き回っており……やっぱり手伝った方が良いのではと一度は思ったのだが、他ならぬアゼルから「大丈夫です」と返答がきたため、俺が動くことがなかった。

 その間に俺は改めて状況を整理する。ロックらしき竜族が大通りを歩いていたため、それを打倒すべくゴルエンも動き出した。既に騎士や兵士なども動員しているが、現在は昼間。潜伏場所が大通りに近しい地点であったなら周辺にも被害が及ぶ可能性がある。ゴルエンとしても人的な被害が……怪我人などが出てしまうのはまずいと思うだろうし、どこまで準備ができるのか。


 あと、もう一つ問題が。


「……これ、俺達が活躍していいのか?」


 ゴルエンが俺達に依頼した、という形にもっていくことになるとは思うが、そうなると当然ながら竜族が人間を頼ったということになる。『闇の王』に関することであれば、と説明することもできないので、何かしら問題が生じないだろうか。

 また白昼で戦った結果、リリーの存在がイファルダ帝国側に知られてしまう可能性もゼロではない。現在山道は封鎖されているわけだが、人間がゼロというわけではないだろう。その中でリリーを知る者がいたとしたら――


「懸念は至極当然だけど」


 と、リリーが俺に対し横槍を入れた。


「考えても仕方がないんじゃない? 結局のところ『闇の王』と戦う場合は、そんなことも言っていられない状況になるだろうし」

「それはまあ、そうなんだが……」

「帝都へ帰る手土産としてもまあ、上々だろうしね」


 さらにリリーは語る。構図としては『森の王』と『山の王』と顔を合わせ、帝国とよりよい関係を築いていくための下地を作った……と言えなくもない。オディルやゴルエンにその辺りのことを伝えれば、リリーが帝都で立ち回るくらいに信用を得られるようなことも不可能じゃない。

 ただ、その場合俺の立場が最大の問題なんだよな……と、クレアも同じことを思ったようで、


「レイトのことはどうするのよ?」

「色々と不満はあるけど……そこは、お父様の記憶を戻してどうにかするしかないよ」

「結局それかよ……ただ『闇の王』との戦いで陛下の記憶を戻すのは必要不可欠だろうし、仕方がないか」


 問題はどうやって信頼を得るか、だが……ゴルエンのように事情を話したのなら完全に信頼を得ていなくとも記憶戻しが成功する雰囲気ではある。よって、まずはリリーの功績で取り入って事情を説明するところからだな。


「ま、帝都へ赴いた時のことについてはとりあえず置いておくとして……さて、対策は不完全なんだが……やれるかどうか」

「レイト、具体的にどう立ち回る?」

「以前戦った時のように、俺は槍術を用いて仕掛ける。リリーとクレアは援護……ただ、相手の動きを縫い止めるような形で攻撃して欲しい」

「能力から考えると、通用するかわからないよ。もちろん私達だって対策はしているけど」

「攻撃が通用するかどうかは重要じゃない。特に必要なのは、相手の退路を塞ぐことだ」


 ロックの能力は魔力を受け流すという効果を持っている。逆に言えば受け流すことができないようにすれば、攻撃が通用することになる。技法が特殊なので、それを抜いたらおそらく体まで攻撃が届くはずだ。で、俺はその能力を突破するために作業を進めていた。


 後半日ほどで、完成する予定だったのだが……こうなった以上は再び交戦する中で完成させるしかない。一応、ロックと対峙し攻撃を決めた後でも魔力の注ぎ方次第ではやりようもある。臨機応変に……それが何より重要だ。


「左右とかについては私達で対処できるけど、問題は上だよね」


 さらにリリーが語る。まあ逃げられるとしたらそこなんだが――


「ならば僕が」


 アゼルが手を挙げた。ふむ、相応の対策があるということか。


「……任せていいか?」

「はい。必ず」


 自信を含んだ言葉。アゼルも遠距離ではあるがロックの存在は捉えていた。彼の分析能力などは高いし、彼なりに何かしらつかんでいるのだろう……ならば、任せるとしよう。

 決まった直後、兵士が連絡を寄越した。ロックの居所がわかったため、攻撃を行うというものだった。


「こちらの指示に従ってください」


 そう兵士は語る。次いで作戦の説明を受けたのだが……ふむ、今打てる最善策といったところか。

 さすがに白昼で奇襲というのは困難なのだが、できる限りのことはする……ゴルエンとしては再び俺達にロックの撃破を任せる形になったわけだが、それが最善ということか。


「今度こそ、応えないといけないな――」

「それと、もう一つ」


 概要を説明する騎士が、俺達へ語る。


「陛下からのご伝言です。失敗しても構わないから、無理はするなと」

「……わかりました」


 そう応じた後、騎士は作戦に入るためこの場を去った。


「騎士や兵士達がいる以上、そう言わないといけないんだろうけど……」

「本心じゃないかな?」


 と、リリーは肩をすくめながら話す。


「常に最悪の事態を想定している……ゴルエンは意外と細かい性格だからね。レイトに気を遣っているんだよ」

「……失敗したら全責任が降りかかってくるんだぞ?」

「王である以上、当然って考えじゃないかな……私も皇帝になっていたから、わかる」


 ――国の頂点に立った者として、ゴルエンに思うところがあるのか。


「誰に頼ろうとも、誰に託そうとも、頂点に立つ以上は全て自分に跳ね返ってくる……でも、ゴルエンとしては次の作戦まで考えている。今回真っ昼間に攻撃を仕掛けることだって相当な決断だと思うけど、実行した。その責任は自分にあることくらい、ゴルエンはよくわかってるよ」

「……それが王、という存在か」

「まさしく」


 やがて俺達は歩き始める。ゴルエンの決断に対し報いたいところだが、


「また『闇の王』の恐ろしさを知っている。だからこそ、二重三重と策を考えている。打てるチャンスがあるのなら、進んで実行しよう……そんな風に考えているのかも」

「相応のリスクを抱えることになっても、か?」

「そこはゴルエンが闇の強さを知っているから、だね」


 早期に仕留めることが最善だと考えているわけだ。そこは俺も同意だが……いや、


「……ここはゴルエンの国だ。なら、俺はこれ以上とやかく言う立場にはないか。報酬の一件もある。次は失敗しないように……そうだな、ゴルエンの予想を覆すくらい、頑張ろうじゃないか」

「その意気ね」


 クレアが言う……気付けば、ずいぶんと否定的な考え方に陥っていた。被害が拡大する可能性を憂慮して、後ろ向きな気分になっていたらしい。

 そんな心境で『前回』は生き残れなかった。どれだけ絶望的な状況でも、前を向き仲間を信頼し突き進む……そうでなければ、最終決戦を挑む前に敗北していたことだろう。


 ならば、今はゴルエンの決断を信じ、俺は役目を全うするだけ……危険なのは間違いないが、それを振り払って必ず勝利する。そう心の中で呟き、俺は目的地までペースを変えることなく歩き続けた。


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