白昼の遭遇
大通りの中で、フードを被り歩む男性と思しき竜族の姿があった。日差しでもよけているのかと思ったのだが、少しだけ気になって意識をそちらへ傾ける。
それと同時に、魔力を感じ取った……竜族で内に多大な魔力を抱えていたとしても、距離もあるし普通であれば何も感じないはずだった。魔法を使えば話は別だが、こんな町中で使うわけにはいかない。
けれど、俺は気付いてしまった……体の内に宿っていると思しき、ほんのわずかな闇の魔力を。
「……リリー」
声を掛けると同時に俺は視線をフードの竜族へ注ぐ。
「ほんの少しだが『闇の王』の力を感じるヤツがいる」
その瞬間、彼女は俺を見返し、
「どこにいるの?」
「フードを被っているヤツだ。この距離だから相手も流石に気付いていない」
周囲は結構人影もあるため、こちらの視線に気付く可能性は低そうだ……と、ここでリリーは、
「まさか、ロック?」
「顔を隠しているからわからないが……もしロックじゃないなら他にも闇を取り込んでいる者がいるってことだな。気配を限りなく殺して町中をうろついているのかもしれない。その目的は、警戒態勢がどんなものかを探っているのか、それとも他に何か理由があるのか」
「尾行する?」
「それでもいいが……さすがに荷物は置いてこいよ」
「そうだね……二分で戻ってくるから」
「ああ。俺はつかず離れずアイツを追う。あ、それとアゼル達に怪しいヤツがいると伝えてくれ。それならアゼルがゴルエンへ連絡を行うはずだし」
「わかった」
リリーは走って宿へ。その間に俺はゆっくりと怪しい存在の後を追う。
できれば顔を確認したいが、正面に回るのは顔も知られているし無理だな……俺はできる限り相手に気付かれないよう、人影に隠れながら追いかける。
その歩みは決して速くない。目的があるわけでもなく散歩しているようにも見えるのだが……このまま追っかければねぐらに辿り着くだろうか?
ともかく、まずは見失わないように……視線でその姿を追い続ける。唐突に振り返ったら上手く誤魔化したいところ。
相手は大通りの真ん中付近を歩いており、どこへ向かっているのかはわからない……そうこうする内にリリーが戻ってくる。格好も元に戻っており、戦闘準備は万全だ。
「アゼルには伝えた。それなら、と火急の用件ということでクレアと一緒に城へ向かった」
「なら大丈夫そうだな……理想的なのはロックだと断定できた瞬間に捕まえてしまうことだが」
問題は、対策が完成していないこと。ただ俺としては慣れた状況だった。『闇の王』との戦いなんて、それこそ対抗策が完成する前に戦うことなんて日常茶飯事だったから。
もし干渉するにしても、路地か何かに入ってからか。ただ路地に入り込んでしまえば備考が難しくなる。使い魔を用いて探りを入れるか……ただ大通りでネズミとか使用すると騒ぎになる可能性もある。
「リリー、尾行ってできたっけ?」
「技術とか必要ある? 気取られないようにするためには色々方法があるのかもしれないけど、通りには結構人もいるし、遠くから観察する分には問題ないと思うけど」
フードの竜族はなおも大通りを歩いている。あれがロックであるなら後を追ってアジトを見つければそれで終わり……技法が通用するかは未知数なので、終わりと断定するのは早計か……。
「ゴルエンとしてはどう思うのか。敵に気づかれていないしチャンスではあるけど……」
「判断を待つしかないね」
「そうだな……」
ただ相手が行動を起こすより先にこちらは先手を打つことができるのも事実。ゴルエンはどうするのか。
「もしロックが何かの準備を行うために外に出ているなら、目論見を潰せるけど」
リリーからの言及。そういう見方もできるのだが、
「俺の技法も完璧じゃないからな……」
「利用はできるの?」
「一応、な。けど、確実に通用する、と言えないのが正直なところだ」
できればこんな不完全な状態で使いたくはない……これで通用しなかった場合、ロックも相応の対応をしてくるだろう。下手すると二度と通用しない、などという展開だって考えられる。
ただし、都の被害拡大を防ぐのであれば、ここで決着をつけることがおそらくベストだろう。彼がどこに潜伏しているのか不明ではあるが、路地裏かつ人通りの少ない場所だったら、その周辺を封鎖して、というやり方もあり得る。
ふいに、フードの竜族が周囲を見回した。尾行を気にしているのか、それとも何か探しているのか……俺達は相手の視界に入らないように動く。まだ顔は見えないが……、
「――レイトさん」
そこで、アゼルの声が聞こえた。どうやら報告を行いこちらへ駆けつけた。
「王から伝言が」
「内容は?」
アゼルは一拍沈黙を置いて、
「騎士に人相を確認させたところ、ロックであると……遠距離からの精査でも当人であるとのことで、ここで決着をつけると」
そういう結論に達したか……であれば、俺も覚悟を決めなければならない。
「肝心の手段は?」
「潜伏先を特定して、周辺を封鎖。その後、仕掛けると」
「昼間からやるのか?」
「……相手の出方次第ですが」
ゴルエンにしても危険な賭けであるのは間違いない。けれど待ったらどうなるか予想もつかないとくれば、どこかで決断しなければならないのは事実。それを今、ここで……というわけだ。
準備が完全に整っていないことはゴルエンもよくわかっているはずだが、彼は『闇の王』の策略が完全に発動するより先に仕留めた方がいいという判断か。リスクは高いが、闇の恐ろしさを知っているが故の判断、といったところだろうか。
「俺達はどうすれば? 何か指示はあったのか?」
「監視についてはこちらで行うと。容姿の確認などを行っていますし、既に部隊は展開しているということでしょうね」
アゼルから報告を受けた時点で、即座に行動を開始したってことだろうか。厳戒態勢を維持したままで、さらにロックに対し兵力を注ぐわけで、かなり大変だとは思うが。
するとアゼルがさらに告げる。
「ただ、部下に指示を出すだけで精一杯という状況みたいで、援護できるかどうかはわからないと」
「決戦の場にいることができないかも、ってことだな? ま、その辺りはいいさ。とにかく今度は逃げられないように……絶対に仕留める」
その言葉により仲間の表情も硬くなる。
「ひとまずゴルエンの指示通りに動くことにしようか。俺達は距離を置いて様子を見る。さすがに宿には戻らないが……ゴルエンと密に連絡を取れる状況を維持しておこう」
「伝令などの役目は僕が」
「いいのか?」
「はい」
城内の竜族に顔が多く知られているアゼルが適任か。
「戦闘に入った際も、自分の身は自分で守りますから、心配しないでください」
「そっちだって調整は完全じゃないだろ?」
「なんとかなりますよ」
彼としても踏ん切りがついたということか? ともあれ他ならぬ『闇の王』の脅威も知っているアゼルが言うのだ。これ以上「いやしかし」と否定の言葉を投げるのは野暮というもの。
「わかった……リリー、クレア、そっちも活躍してくれよ」
「うん」
「ええ、頑張るわ」
そんな二人の言葉を受けた後、俺達は一度ロックと距離を置くことにした。




