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最強皇女と魔法の王  作者: 陽山純樹
第三章
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人間と竜族

 その後、俺の見立て通りリリーは店員に勧められるがままにさらに店の奥へと突っ込んでいく。見事、沼にはまってしまった。


「先ほどザックについて言及しておりましたので……」

「おおおお!」


 そして相変わらずテンションの高いリリー。うん、これは駄目ですね。

 まさかこういう形で後悔することになろうとは……まあテンション上がってもらえるのは嬉しいし、これはこれで良かったのだろうか。


 で、ザックがどれがいいのかとリリーはものすごい興奮して聞いてくる……なんというか、確かにこれはデートと呼べるものなのかもしれないが、選んでいる物が完全に実用品というのはどうなのだろうか。

 元の世界でアウトドア好きのカップルがこういう形で買い物をするのは納得がいくし、素晴らしいことだと思うのだが……今目の前で興奮しているリリーと俺では、そういうシチュエーションではないだろう。


 しかし、美術館を回っていた彼女の姿とは打って変わった様子だし……ここでどれがいいのか押しつけてくるリリーの姿を見る。笑顔で店員に勧められるがままにどれがいいかを訊いてくる彼女。この場所だけ切り取れば、間違いなくデートか……。

 ただ、乗せられて買った結果、旅に支障が出る可能性もあるんだよなあ……それが一番危惧することなのだが、もしまずい事態になったらゴルエンにでも引き取ってもらおうか。うん、そうしよう。


 というわけで、満面の笑みを浮かべる彼女に従うことにする。きっと彼女の緊張もほぐれたことだろう。それだけでここに立ち寄ったことに価値があった……かな? ただ、


「って、リリー! 押しつけるな! 一つ一つ感想を言っていくからテンションを抑えろ!」

「はーい」


 間延びした返事をするリリーに対し俺はため息をつく……確かに緊張がほぐれたのは事実だけど、逆に緊張感が皆無になっている。これはこれでいいのだろうか……。


「ま、いいか……」


 楽しんでいるリリーを見ていると、戦いのことを尋ねるだけ野暮な気がしてきた。よって、このまま付き合おう……そう思いながら、俺は突き出されたザックに対し評価を始めた。






 結果として、店員からかなりの物を押しつけられそうになったのだが……それについてはどうにかこうにか抑え気味にして、結局最初に進められたグッズとザックを購入するに留めた。ひとまず「他は限定じゃないから、出立する前でもなんとかなる」という俺の発言に一定の理解を得たようだった。


「いやあ、良い買い物だったね!」


 そしてリリーはご満悦。ここまで喜んでもらえたのはなによりだが、


「リリー、買ったからにはきちんと荷物整理をしておけよ」

「はーい」


 まったく……とりあえず仮とはいえデートについては成功、ということでよさそうだ。


「ひとまず荷物もあるから戻るか?」

「いやいや、まだ見て回ろう」


 ふむ、テンションが上がったことにより上機嫌となった結果、楽しくなってきたのか? そうであれば、


「なら荷物は俺が持つよ。で、どこに行く?」

「そうだね……特に考えてはいないけど、大通りを見て回ろうか」


 その言葉に俺は「わかった」と応じ、ブラブラし始める。

 リリーの心境が変わったせいで、なんだか大通りも賑やかに見える……いや、実際は何一つ変わっていないのだが、気持ち一つでここまで変わるのかと自分でも驚いている。


 この辺りの経験についても、リリーは参考してプランを練ってくるのかな……などと考える間にリリーは一軒の洋服店へ目を向けた。

 ショーウインドウのような物が設置されており、ドレスのような物が展示されている。帝都ではこういった店構えと洋服はそれほど珍しくなかったが、この場所にとってはあまり多くはない。その中で確かにこの店は目を引く場所ではあったのだが……、


「珍しいな、そういうのに反応するなんて」

「別に私だってオシャレに無頓着なわけじゃないよ。帝都の洋服店と比べてどういった違いがあるのか……そのくらいは見るから」

「へえ……」

「何、その疑いの目は」


 ドレスとか、色気のある話なんか一度もなかったからなあ……とはいえ彼女がそう語っているのだから、何も言わないことにしよう。


「で、感想は?」

「竜族も好みは変わらないのかなー、と。並んでいる衣服は、どちらかというと帝都でも売られている物と似ているから」

「あるいは向こうの流行を取り入れている可能性もあるな」

「あ、確かにそうかも」

「……イファルダ帝国と竜族とは距離を置いていた間柄だけど、経済的に、文化的にはそれなりに結びついていたのか」


 ゴルエンは『前回』の記憶を取り戻した。その流れでこの世界では関係が改善方向に進むかもしれない。


「なあリリー、イファルダ帝国としては、竜族と手を結ぶことは望ましい……よな?」

「帝国の上層部にいる人の中には竜族の力により、帝国の政治に影響が出ると懸念を訴えていたケースもあった。でもまあ、さすがに『山の王』だってイファルダ帝国の政治に口出しするような真似はできないわけで……杞憂だろうと一蹴されていたけど」

「リリーはどう思っていたんだ?」

「んー、交流はしてもいいんじゃないかなーとは思っていたよ。そもそも交易とかはしていたし、この山脈周辺では竜族と交流しているし、今更だとも思った」

「旅をしていたからこそわかったこと、か」

「そういうこと。で、今回の場合はゴルエンに記憶が戻った……ま、上手くやってくれるでしょ」


 楽観的ではあるけどな。しかし一度深淵を見てしまった彼だ。『闇の王』について対策をとるのは確定だし、なおかつイファルダ帝国の皇帝とかの人物像なども把握している。上手く立ち回ってくれるかな?


「後はロックという竜族を捕まえるだけだが……」

「そろそろ作業に戻る?」


 リリーの問い。表情を窺うとその顔は興奮していたものではなく、いつもの彼女に戻っていた。


「……そうだな。今日はこのくらいにするか」

「私も手に入れた物をしっかり見定めて、きちんと使えるようにしておかないと」

「そんな大層なことか?」


 クレア達が見たらどう思うのだろうか……いや、仲間としてもリリーがオシャレな洋服を買ってくるとは思わないだろうし、むしろ「ああ、それなら納得」と言うかもしれない。


「ロックとの戦いについても、次は役に立てるよう頑張るから」

「役に、か……わかった。期待しておくよ」


 ――こちらの戦力としては、十分ではないが決して悲観的なものでもない。ロックが持つ能力によって一度は逃げられてしまったが、次は絶対にそうはさせない。

 思考が徐々にシフトしていく。まだ時間はあるだろうし、ここからさらに宿にこもって作業する必要はあるけど……その時が来るまでに間に合わすことはできる。


 過去の戦いの思い起こす。闇に飲まれる絶望的な戦い。イルバドとの戦いも、ルーガ山脈の魔術師も、俺達が気付かなかったら同じ結末を迎えていたかもしれない。

 一つ一つ目を潰し、元凶と思しき『仮面の女』に近づく……接近しているかは不明だが、今はそうなっていると信じて突き進むしかない。


 俺とリリーは宿へ戻るべく歩き始める。この心情なら作業ペースも早くなるだろうか……そんなことを思った時、俺の視線は、大通りの一角にある異変を捉えた。


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