災厄の月
クロトは連日連夜千絋ちゃんを探し続けていたし、時折暗い表情も見せていた。
この夜が明けたら、クロトは本当のバケモノに変わってしまう。だからこそ、彼女に伝えなくちゃいけない。
……例え、誰かを犠牲にして人様の家に忍び込む事態になっても。
「……へぇ、ずっといないと思ってたらこんな所にいたんだねぇ」
「え……!?」
憂いを帯びた表情で月を眺めていた彼女は、僕を視界に認めるなり目を見開いた。
「驚いた?」
「……それは、驚くに決まっています」
「だよねぇ。僕もさ、まさか役人殺しにならなきゃここに侵入出来ないなんて思ってもみなかったよ。……まぁ、この話は無かった事として。君に言っておく事があるんだ」
一層目を見開いた後、千絋ちゃんは目を伏せた。
意識して人を見ると、その人が抱えている気持ちや問題は嫌と言うほど伝わってくる。彼女の場合、かなり「重い」モノだった。
「別に連れ戻そうって訳じゃない。君は君の意志で戻ればいい。……本当の事を言えばすぐ戻ってきて欲しいけど、今はそれよりも大事な話がある。聞くだけでいいからさ」
無理矢理に目を合わせた。僕は彼女と目を合わせて話をしたくないけれど、今回は別だ。
「毎年この時期になるとクロトがいなくなる事は知ってるよねぇ。でも、その間に何をしてるかは分かる?」
「……分かりません」
千絋ちゃんは首を振る。それも当然だろう。組織内でこの事を知っているのは僕とトランぐらいだし、世間でも知られていない。
「一般区域で、60万人は人間を殺してる。多い時はその倍だ。
クロトはねぇ、君が知ってるよりも遥かに強いのさ。一般区域で人間を殺し、異能者区域に貢献する事で、ここに存在する事が許されている。もし一度でも拒めば、この関西を永久に支えるエネルギー源として封印されるんだ」
「……嘘」
「嘘はついてないよ。ポルカさんの「強大な力を持つ者はそれに相応する貢献によってその存在を維持しなければならない」って言う約束のせいで、クロトは永遠にバケモノ呼ばわりされる。彼女もそれを受け入れているみたいだねぇ」
千絋ちゃんの目が、少しずつ揺れを増していく。
「どうして、姉貴だけがそんな目に遭わなきゃいけないんですか……俺も、そうならないとダメなのでは」
「クロトは壊れやすいココロと全てを壊す力を持つんだ。いつ力を制御出来なくなるか分からない。君も本当はクロトと同等の力を持つけど、抑えられるだけのココロがある。ただそれだけの違いさ。
……本題に入ろうか。彼女は、明日恐ろしい事をやろうとしてる」
「恐ろしい事って……」
「機関への復讐だってさ。それで、皆もその手作いをするために後からこっそりついていくつもりだ」
「……どうして?」
「僕は機関に詳しいんだ、教えても大丈夫な事は教えたよ。澪が異能者じゃなくて本当は人工能力を得た人間って事、僕がクロトと君の改造に関わっていた事」
「なっ……」
自然なネタバラしだから気づかれないだろうと思ったけど、あっさりバレた。
「恨みたいなら恨むといいよ。でも、僕達と来るなら明日の21時に戻ってきて欲しい。皆、君を責めたりはしない……それだけ。じゃあねぇ」
言うべき事はちゃんと言った。クロトの事を知ったうえで見殺しにするか、クロトに救済を与えるか、どう動くかは彼女の自由だ。
僕としては、後者である事を願う。




