ACT:1-1/知らないフリ
ちょっとした好奇心から攻略する事にした、『記憶の迷宮(メモリアル・ラビリンス)』。途中ギャラリーに囲まれたりして団員の皆に置いていかれたけど、4、5分ぐらいですぐに合流出来た。
辺りは夜みたいに真っ暗で、ほとんど何も見えない。ぴちょん、ぴちょんと反響する水音に気づくと、ボクはコートのフードを被った。迷宮特有の冷たい空気が頬を撫でる。より探索意欲が湧いてきた。
「……まだちょっとしか進んでないのに、ここまで暗くなるとはね……トラン、これに火付けてくれるかな?」
追いつくまでずっと持っていた、大きめのランタンを手渡す。
「了解アル、ボス!……『炎雷の手(ファルトハンド)』!」
彼は意気揚々とランタンに右手をかざす。ぼんっと言う音と共に火がつけられ、辺りは一気に明るくなった。
トランは自分の手とその周辺に雷と炎を出す能力……『炎雷の手(ファルトハンド)』を持っている。まだ11歳だけど、ほぼ完全にその力を使いこなせているから驚きだ。
「……にしても、クロは物好きだなー……電灯があるのになんで使わねーんだ……?」
「その方が面白くて良いでしょ。RPGゲームっぽくてさ」
「……なるほど」
気怠そうな時紅はゲーム絡みになるとすぐにやる気を出す。こういう所だけは普通の男の子って感じだなー……としみじみ思った。
荒れた道を歩いていると、急に寝無が立ち止まる。
「……クロト。よーく耳を澄まして」
仮面をカバンにしまいながら、寝無は小声でそう言ってきた。こういう時は大抵敵が迫っているから、言われた通りに耳を澄まそうとした。
……いや、耳を澄まさなくても聴こえる。……『奴ら』特有の奇妙な唸り声が。
「皆、戦闘態勢。雑魚のおでましだ」
身構えるのと同時に、それは姿を現した。
頭に草木を生やし、棍棒を手にした小人。……ボク達ヒトに害を為す「クリーチャー」、その中でも雑魚の部類に入る『草野人(グラスゴブリン)』だ。
「10体っスか…………だぁらっしゃあああ!!」
開幕早々刀と木刀を振り回し、まるで竜巻みたいに澪が暴れ回る。
その勢いに手を出せず、草野人は1体、2体と薙ぎ倒されていった。
「ふいー……これで終わりっスね」
瞬く間に草野人を狩り終えると、いつもの涼しい顔をして帰ってきた。
彼女が持つのは自分とその周囲の時の流れを操る能力……『瞬完加速(セツナブースト)』。それを使った連撃は嵐の様に速いけど、何処か川の様な美しい流れを感じさせる。
皆でお疲れ様、と声を掛けると、良いタイミングでトランと淋が奥への道を見つけた。
人数と地図情報を確認して、先へと進む。
「……でっけードラゴンとかいねーかなー……」
「昔はボク達の近くに居たんだよ、銀色ですっごく大きいの。ねー、千絋」
「ああ。それもヒトの言葉を話す珍しい奴だ」
「…………へー」
つまらなさそうに時紅が言うので、二人で少しだけからかってみた。
案外本当の話だったりするけど、きっと彼は信じないだろう。
「この話、信じる?」
「……それむちゃくちゃ食いたい」
「……時紅に聞いたボクが悪かったね」
いや、返事になってないし食べたら駄目でしょ。
ツッコミたくなる気持ちを呆れで抑えると、前を向いて歩き出した。