ACT:1-2/コトバの顕現
開けた空間では、色とりどりの水晶が連なって淡い光を放っていた。
「……ねぇお兄、この中に核(コア)があるのかな……?」
迷宮を形成している結晶……核(コア)を探しながら、淋が聞いてきた。
今日は2月7日、まだ冬だ。来た時も寒かったけど、奥に進むともっと寒くなってきた。皆が防寒具を着込む中、淋だけが寒がる様子も見せずに聞いてきた。
「うーん……あるかもしれないし、ないかもしれない。でも凄いね、水晶の森みたい……こんなに綺麗なの、初めてだ」
「ふっふーん、オレが頑張ったからネ、当然の結果アル!」
道中、出てきた雑魚はトランと澪が排除してくれたけど、惜しい事に着いた先は行き止まりだった。そこで現れた麻痺針蜂(パラライズ・ビー)との戦闘中、トランが偶然見つけた隠しボタンのおかげで先に進む事が出来た。拠点に帰ったら目一杯褒めてあげよう。それと……
「……千絋、そこの奴取るなら早めにね。全部ぶち壊しちゃうから」
そう、千絋はれっきとした女の子だ。綺麗なモノが好きと言うのも有り得る。……同じ女の子でも、ボクにはよく分からないけれど。
自由行動を促しても、千絋にしては珍しくその場から動こうとはしなかった。それどころか、うつむいて震えている。
「……千絋?」
「別に良い……俺には、構わないでくれ」
訳が分からないまま立ち尽くしていると、急に耳鳴りがした。
……まさか。
「くっ……四次元リュック!!」
ボクが短く叫ぶと、背負っているリュックがごそごそ動いた。すぐにぽんっ、と言う音と共に、いつもの武器が手元に落ちてくる。
……普通の人は、これを武器とは言わないだろうなぁ。
メガホンの後ろには、ゲームの充電器みたいなコードの付いた無線機。その近くにはスコープが付いていて、武器と言うより……子供が寄せ集めで作ったガラクタに見える。
……とこの間時紅に言われたけど、油断してもらうと困る。これはとんでもなく恐ろしい武器だ。
「……『a shock wave』!!」
アンテナが光る。その直後……爆音と共に、水晶は木っ葉微塵に砕けた。
英単語さえ覚えて叫べば、“大抵”その通りになる。文法を覚えて英文にすれば、可能性が広がる。
これがボクの、『発言性覚醒機(メガフォライザー)』。
「……これで大丈……うっ」
風邪でもないのに、頭痛がした。思い出したくない記憶が、鮮明に甦る。拒絶反応の様に、呼吸が乱れていく。
「………なんでこんな……さっきので核は……壊れたハズじゃっ……!!」
普通、核を壊せば迷宮は崩壊する。けど、まだ迷宮は崩壊していない。
確か、核は奥にあるタイプとクリーチャーに寄生(?)しているタイプがあったハズ。ならここは……後者、か。
「グルルルル……」
突然聴こえた唸り声に気づいたのは、きっとボクだけだろう。
悲しくて、苦しくて、とっても辛い。そんな過去を、皆は思い出すハメになっているのだから。
それでも独りで立ち上がる。独りで敵をねじ伏せる。それがリーダーの、残酷な宿命だ。
振り返った先には、胸から蒼い結晶が生えた狼がいる。
限界だったボクが叫んだ言葉は……
「『existence is denied』!!」
「存在を否定する」。何でも嫌がる子供みたいで、狭い世界しか知らない大人の様でもある。そんな言葉。
今、狼は核と共に消えつつあるのだろう。達成感も無く、ただ無言で大型の簡易転移術式(テレポーター)を置いた。
さっき崩れた結晶達は、涙で視界が滲んで見えそうにもない。
……初めて大事な人を亡くした、あの時みたいに。




