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BORDER:ARRIVE ~絶対少女と不可視の境界~  作者: GAND-RED
ROG:2/正義の味方はバカのために走るのか
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勇者と魔王

「……起き、た?」

目を覚まして最初に聴いたのは、淋の泣きじゃくる声だった。

「……おはようっス」

「アンタ、3日も寝てたんだよ。それこそ死んだみたいにさ。ほら」

ニヤニヤしている絶望野郎が、タンスに入れられ顔に白い布を掛けられたあたしの写真を見せてきた。

淋やトランはこんな事しないし、やっぱりこいつがやったのか。

「気持ち悪りぃわボケェ!!」

頭に血が登ったあたしはすぐさまそれを奪い取り、ビリッビリに破く。

「フキンシンな奴アル、今度澪姉にそんな事言ったらぶっ飛ばすネ」

「お子様にそんな事出来るのか見物だねぇ」

「むきー!!やっぱ腹立つアルー!!」

……それにしても、あたしはそんなに寝てたのか。トランもずいぶんと上手い事言う様になったもんだ。

「……やぁ、おはよう。起きたばっかりなのに元気だね」

騒ぎを聞きつけたらしく、絶対王が顔を覗かせた。

「クロトだって毎晩泣いてたくせによく言うよ」

「死ね」

言い終わるかどうかのタイミングで、ビンタが炸裂する。聴いてて清々しいぐらいに良い音だった。

「クロトちゃん、様子はどうかなー……って澪おぉぉ!!」

ドアを開けるなり、弾丸の様な速さで姉ちゃんが飛びついてきた。

「お姉ちゃん心配したんだからねー!!びえぇぇん!!」

「あー、姉ちゃん、本当ごめんってば、だから泣くなよー……」

「びえぇぇぇ……」

こうなるともう手がつけられない。どうした事やら。

「……零、あれは?」

「出来たよー!」

絶対王が一瞥すると、姉ちゃんはすぐに持っていた布を広げて見せた。

待て、なんだその切り替えの早さは。

燃える様な赤の旗には、昔本で見たクリーチャー……『皇龍(バハムート)』が描かれていた。

皇龍はクリーチャーの王とされる伝説の龍。なるほど、絶対王にぴったりだ。

「なんでこんなの頼んたんスか?」

「鈍過ぎ。本っ当バカ澪はバカ澪だよね」

「あんだとぉっ!?」

「澪姉大丈夫だよ、寝無が勘違いしてるだけだって……」

「そうアル!アイツが変に意識高いだけネ!」

「……こほん」

絶対王が大きく咳払いをすると、皆が皆固まった。

「何とか間に合った、これで組織が設立出来る。ボクはもう帰らせて頂くよ。……その前に」

仮面をリュックにしまい、彼女は小さく息を吸う。

「皆がここにずっといる訳でもない。淋とトラン、それから澪と寝無は、一緒に帰るべきだと思っている」

「な、何であたしらまで」

「澪のおかげで、自分のやりたい事が他にも少し見えてきた。責任はキミにもあるだろう?」

そう言って、絶対王はふっと笑った。

「じゃあ僕は何でそれに巻き込まれたのさ」

「キミは『奴ら』の事を知っている、ボクはそう確信している。来るべき時に尋問するためかな」

絶望野郎に見せた笑みは、何故かあたしに向けたモノと同じとは思えなかった。

「……はいはい。ついでにこのバカ澪の世話もしろって事でしょ?」

「そんな事は言ってないけど。……でも、一応選ぶ権利はキミ達にある。他の人達とも約束をしているから、嫌なら入団を断っても良い」

4人で顔を見合わせ、頷いた。

『入る!』

「……満場一致、か。ありがとう」

「ボスー、組織の名前って何にするアル?」

「それはもう決まってるけど……まぁ、ちゃんとメンバーが揃ってからのお楽しみ」

トランの頭をぽん、と叩いて絶対王は微笑んだ。今までの意味深な笑みとは違って、普通に女の子らしい。そんな顔だった。

「絶対王、他のメンバー……あ、まだ決まってないんスよね、ならメンバー候補って何人いるんスか?」

「2人かな。……後、いつまでも絶対王って言われると嫌なんだよね……あ、そうだ」

「?」

「いっその事首領(ドン)って呼んでよ!」

あたしの手を取って、彼女は目を輝かせる。

「……押忍!!了解したっス、ドン!!」

気合いを込めて呼ぶと、幸せそうに頬を緩めていた。意外に子供っぽいし、不老不死とは言ってもまだ幼いんだろうか。

「色々ありがとう、零。じゃあ……ボクはそろそろ」

「うん!私ももう少ししたら戻るし、また会えると良いね!」

「ああ。……きっと会えるよ、またどこかで、いつでも」

手を叩いて、ドンは歩き出す。


「澪ー、寝無君ー!絶対迷惑掛けちゃダメだからねー!!」

ちょっと心配そうな顔の姉ちゃんに、2人でこう怒鳴った。

「「こいつなんかと一緒にするなっ!!」」


「……早速迷惑掛けてるじゃないか。ほら、早く行こう」

しばらくこちらを見ていたドンは、また前を見て歩き始める。


その隣を歩くだけでも、あたしは誇らしいと胸を張った。


そして、深くこの人に一生ついて行こうと思った。


この人と同じ世界を見ようと決めた。


この人の守りたいモノを、全力で守ろうと誓った。



もうあたしの側にいるのは孤独じゃない。

最高の仲間だ。

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