ACT:2-5/当然の報い
昼飯の後に行われた尋問の結果、のぞき行為を行ったのは絶望野郎だけだった事が分かった。他の2人は能力で無力化されていたらしい。異能者のクズだ、恥さらしだと確信した。
今は寝無だけを休憩室に連れ込み、被害者の会ことあたし達が囲んでいる。
「さて、寝無君」
怒りが混じりに混じった声音で、ドンが絶望野郎にじりじりと近づく。
奴の身体は柱に鎖で縛られていて、身動きは絶対に取れない状態だ。
「覚悟は出来たかな?」
「ちょ、ちょっと待ってよマスター。これには訳があってだねぇ……」
「言い訳はあの世でやってくれないかな。キミは見ただけで女の子を汚せる程度には気持ち悪いからね、極上の方法で拷問してあげるよ」
見た者全てを戦慄させる怖い笑顔の後、眼帯に手を掛けた。
「こんなグズにドンのアレを使うなんて勿体ないっス!!ここはあたしが……」
「いんや。あっしがやる」
ドンを制止しようとしたら、咲ちゃんに遮られた。
「こいつは紳士の恥さらしやんね。ぶちのめしてやんよ」
自分の背丈と同じぐらいあるトンカチを右手でぶんぶんと振り回した。
ピック状に尖った真っ黒なヘッドには、閉じた眼が彫られている。何とも不気味だ。
竜の顋(アギト)みたいな反対側は紫の手……みたいな鉤爪をくわえているし、ヘッドを貫く持ち手の先端は槍の様に鋭い。
どっちで攻撃されても物凄く痛そうだ。
「変なトンカチっスねー」
「むいっ、トンカチじゃねぇぞ。大昔に最強と呼ばれたスイスの傭兵達が使ってたハンマー、『ルツェルン・ハンマー』!その形を持った最強の闇魔装だぜぃ!!」
「ほーほー、なるほどー。そりゃすげーっス」
「なぬっ!?ちょっ、やめぇぇい!!」
「にゃあぁ!!さ、咲ぃぃ!!」
大して聞く気もなかったので、得意気な咲ちゃんの頬をつついた。新品のゴムボールみたいな感じで弾力がある。80点ってとこか。
隣でにゃーにゃー言ってる檜も気になるなー、とうずうずしていると、彼女の羽織っていたパーカーの裾が引っ張られた。
「咲お姉ちゃん、お兄怒ってる。もうやっちゃうよ」
「あっ……せやったな。任せとけ!そぉい!」
「ぶへっ!!」
慌てながらもトンカチを軽く振るった。小さい子には弱いのだろう。気持ちは分かる。
「女の子の価値を踏みにじった罪は重いぜぇ……どりゃぁっ!!」
「ねぇこれどうにかなんないの……ぐへぇ!!」
「おらぁ!!」
「いや……ちょっ、あの、痛いんですぐぉあぁ!!」
鉤爪でひっかかれる度に悲鳴があがる。
性格だけじゃなくて悲鳴まで気持ち悪いとは。救えない奴だ。
「おら、桐原のお嬢」
肩に手を置かれる。師匠だった。
「何スか?」
「あのぼんぼん、物足りないって顔してんぞ。行ってやりな」
「どういう事っスか?」
師匠はふっと笑う。やっぱり格好良い。
「お前に気があるって事さ」
「へっ!?」
ないないないない。あたしと絶望野郎はずっと喧嘩してた仲だ。お互い「嫌い」とか言う単語もあたしが251回、絶望野郎が136回使っている。
とてもそう思われる様な人に映ってはいないだろう。
「嫌よ嫌よも好きのうちってな。お前もそうだろ、お嬢。
……全く、いい青春してんじゃねぇか」
うんうん、と頷いている。ああもう恥ずかしい。ただでさえ風呂上がりで熱いのに、余計に顔が熱くなる。
「……い、言わなくても良いじゃないスか。相変わらず師匠は酷い人っス……」
「ぐずぐず言ってる暇があったら行って来い!」
ばしっ、と背中を叩かれ前に出た。
「……何、ラスボスのご登場?」
ひび割れた仮面越しに言われ、怒りのボルテージが上がる。
「うっせぇぞ絶望野郎!!テメェの相手はこのあたしだっつー……のっ!!」
心拍数が上がっていた事は知らないフリをして、木刀で思いっきり頭を叩いた。
こうして拷問は夜まで続き、絶望野郎の罪は晩飯抜きの刑でようやく皆に許されたと言う。




