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BORDER:ARRIVE ~絶対少女と不可視の境界~  作者: GAND-RED
ROG:1/最強少女と過去と雨
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解けるココロ

誰かの声が聞こえた気がする。

「……んー……!?」

身体を起こそうとして、腕の辺りに重みを感じた。見てみると、

「……くかー……」

「にぅ……にゃー……」

そこには、咲と昨日見た二人組の片方が寝息をたてていた。

腕をどかそうとすると、ずきりと痛みが走る。……どうやら枕代わりにされたらしい。ものすごく幸せそうだけど、こっちもものすごく迷惑だ。

「…………?」

目の前の異様な光景をひとしきり眺めると、窓に目を向けた。

暗い空を、少しずつ陽が登っていく。見慣れた光景だ。

けど、毎朝見ていても飽きる事はない。ボクはこの光景が好きだ。物語の中の旅人も、歴史上の英雄も、この光景を見ていたと思うと、本当に胸が熱くなる。


「……」

朝が来るのを見届けて、息をつく。

「やぁ」

気がつくと、後ろにロギがいた。

……自分は夢中になり過ぎると周りに目が行かないらしい。小さいうちに直さないといけないな、と思った。

「おはようロギ…………早くどけて、痛い」

軽く睨みつけると、すぐにへこへこ謝ってきた。

「ごめんごめん、二人が勝手に塾を飛び出したって聞いたから迎えに来たんだけど……本当によく寝てるから、全然起きなくてさ……」

「ならボクが起こす」

「……どうやって?」

痛いのを我慢して腕を抜き、二人の耳元で囁く。

「……殺されたくないなら起きろ」

「にゃあぁぁぁ!!!?」

「ひぃえぇぇ!?勘弁して下さいいぃぃっ!!!」

するとがばっと飛び起きて、一目散に逃げて行った。


「はい、起きた」

「こーら、まだ小さいのにそんな言葉使わないの。二人共逃げちゃったじゃないか」

「……うー……」

何が悪いのかさっぱり分からない。『命が懸かると何でもする』と言うヒトの行動を考えてやった事なのに、どこに駄目な所があったんだろう……?

「……殺すって簡単に言うとこ」

……また読まれた、か。……読心能力はなかなか油断出来ないなぁ。

それにしても、何だろう。この感覚……

目の奥が熱い。熱いのに……嫌じゃない。


……何、だろう。

「……嬉し泣き、かな?」

「たぶん……それ」

ロギの言葉で、自分が今泣いている事に初めて気がついた。勿論泣いている所なんて見られたくなかったから、顔をそらした。

「今が本当に嬉しくて幸せだ……って証拠だね。……好かれてるなぁ、僕」

「!!……バ、バカ……!!」

右頬にビンタをお見舞いして、布団に隠れた。顔まで熱くなっている。

こんなに恥ずかしいと思ったのは初めてだ。

もしかしたらこれをネタにいじられるかもしれない。それとも陰で笑われるか。

そんなボクの予想は、盛大に外れた。

「ぷっ……あはははは!!まっ……まさかこんな子だと思わなかったや……ははははは!!」

思いっきり笑っている様子を想像して腹が立ったので、布団から抜け出して怒鳴った。

「……ほんっとバカ……最低!!」

ロギが言い返そうとすると、短くブザー音が鳴った。

『声量が大き過ぎると判断されました。他の患者様への迷惑になりますので、面会はなるべく騒がず、静かにして下さいます様お願い致します』

続いて、警告音声が小さく響く。

それに気圧されてしばらく二人で黙っていたけど、やがてロギが口を開いた。

「……まだ7時か。そう言えば、ずっと外に出られないって聞いたんだけど……体調はどう?良かったら昨日の続き、聞かせてあげるけど」

「聞く!」

彼が言い終わるかどうかのタイミングで、反射的に答えていた。また警告音声が鳴らないかひやひやしたけど、今度は無事鳴らなかった。

「はは、元気そうだね。じゃあ始めようか。…………」


普通に聞けば難しいんだろうけど、ロギの話は分かりやすい。難しい言葉は言い換えてくれたし、時々自分の考えも交えて話していた。昔は先生でもしていたのだろうか。だとしたら聞いていて面白いのも納得だな、とボクは思った。


「……で、またラグナロクが起こった。ここで終わり……にしたいけど」

「……?」

「実はポルカさん、急に用事が出来たらしくてね。代わりに今日1日様子を見ておいてくれって頼まれてるんだ」

つまり今日1日はロギと一緒って事か。……ちょっと待てよ。

「じゃ、じゃあ……」

「うん、まだ話せるよ」

期待を裏切らず、彼はにこりと笑った。

「やったぁ!」

「そんなに僕の話聞いてて楽しい?」

「うん!」


ああ、流石に興奮し過ぎたかなぁ。……何だか、今までより感情を表に出せる様になって来ている気がする。昔はどんなに楽しくても決して顔に出せなかったから。

もしかしたら、感情を顔に出さずにいたせいでポルカは……いや、皆はボクを心配して色々してくれていたのかもしれない。

だとしたら、謝らないと。

「大丈夫だって。そういうのはもっと大人になってからで良いと思うよ」

ぽん、と頭に手を置かれる。不思議に思って見上げていると、ロギはまた笑ってみせた。

「それに、今は少しでも楽しんでもらいたいからね」

「……ありがと」

「じゃあ、さっきの続きからね。……」


ただ話を聞けるだけで喜ぶボクは、やっぱり子供なんだろう。

けど、そんな自分でも許してくれる今があると言う事は、とっても幸せなんだなと思った。

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