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大御所はハリウッドスター

リーンリーン


静かな別荘の書斎。背広にある携帯が鳴り出した。


「うん?」


リビングの電話ならば無視を決め込みたいが…


「誰かな?おっ!なんだっ~」


脚本家は思わず組んでいた足を正座にしてしまう。


ディスプレイに燦然と光輝くは"ハリウッドスター"の名前だった。


テカテカと畏れ多き大御所の名前


芸能プロダクションから戴いていた電話番号が表示されていた。


「よぉ~先生っ」


大スターの風格


じわりじわり


威圧感になる。


「先生の活躍はテレビで拝見しています。しかし長くご無沙汰してしまいましたなあ」


芸能界に権威と威厳を放つ堅物というイメージが強い大御所だった。


電話の向こうはいたって気さくなおじいちゃん。


「はあっ~お久しぶりでございます」


なんだ?


いきなりの電話だぞ


堅物の大スターが


一介の物書きに何の用件なのだ。


「???」


脚本家は二つ返事をして台本を書き直すと承諾した。

「トレンディ俳優がいなくなってしまいましたか」


主役を若い俳優から大御所にして欲しい。


医療がメインドラマ。


なんとでも脚色を変え配役も容易である。


「俳優の身内が倒れたのですか」


孫のスタジオ収録を見学をしていた。


「ついては…ハリウッド帰りの私が名乗り出たいものだ」


民放のドル箱ドラマはNHK大河に様変(さまがわ)りしてしまいそうである。


「まあっなっ。手短かなことだが」


明日以降の収録は院長(大御所)主役にして展開をして欲しい。


「なあにっ2話収録程で若いのは戻ってくるさ」


差し当たり


院長の医科大学教授時代のエピソードを織り交ぜて展開してくれ


「ハリウッドに来たこともあるんだ」


日米合作映画のスタジオに大学教授は陣中見舞いをしていただいた。


「ちょっとしたエピソードだがな」


ワンカット入れてくれたら

「私は喜んでひとり二人役をこなしてみせましょう」

囲碁のシーンも入れてくれたまえ


医学部時代の女遊びも


「こちらのリクエスト。なにかと増えたなあアッハハ」


カチャン


電話が切れた


台本を書き直せ!


院長登場シーンをふんだんにしてくれ


ことのほか原稿作成にチャチャ入れられては


頭がクシャクシャになった。


局に渡した台本は構想を練りに練った自信作である。

「ハリウッドスターの一声で書き直せっと厳命されてもだなあ」


今の画面にある他局の脚本をごそごそと次ページに追いやる。


「医療系のやつはどこだった?」


東京にある事務所の所員を呼び出して"推敲原稿"扱いにする。


局からの依頼でドラマは第3話まで下書きされ輪番で台本に仕上げられている。

「あっあ~今宵は徹夜になるのか」


附属病院からの規則正しい生活と食事療法をして体調もよかったというのに。


幸いに事務所は若いライターが残る。


「先生にしては珍しいですね。よろしいですよ」


推敲原稿を送信してください


「期日が迫りますね。手伝います」


若い脂の乗り切る文学青年はこうした場合に役に立つ。


「さあってと…」


書き直せの号令に従っていこうか


パソコンに向かえば構想が浮かぶ


「若い医師よりデェ~ンと構えた老医師がイメージしやすい」


二話あたりで院長の威厳さをドラマチックに描くことをしよう。


「あのハリウッドだから」

院長役というオーソリティーに最適な大御所である。

「もうメチャクチャ派手な院長さまに仕上げてやるぞ」


カチャカチャ


院長は…独立独歩


医師は…社会的上位


大学教授


教え子


大御所の演じる偉大な祖父

キーワードを思い浮かべた。


パソコンに向かえば条件反応として創作意欲がわいてしまう。ドラマ脚本で長年生きてきた経験である。


ノンストップでキーボードを打ち込む。


「お父さんどうされたの?」


夕食が済み定時のお茶菓子の時間である。


うん?


振り返ると書斎にお盆を運んだ娘が立っていた。


「あっあ~もうそんな時間になったか」


急ぎの台本が入ってしまったんだよ。


あらまぁ~


「お父さんの体調もよろしくないというのに」


早寝早起きが健康の秘訣なんですよ


「今夜は徹夜になるかもしれない」


夜食頼む。


「お父さん。夜にいただくのはいけないよ。まあっ胃の負担が軽いサンドイッチかな」


サンドイッチ?


うどんか素麺(そうめん)が食べたいな


お年頃の女子高生。


私はダイエットをしなくちゃっと喉がグイッと鳴ってしまった。


徹夜覚悟の原稿は深夜に第2話が脱稿される。


「ふうっ~まずまずの仕上がりかな」


事務所に送信し推敲を受け入れる。


「今から手を入れてくれたら朝イチ番には局に届けられている」


心地よい脱力感が全身を襲う。


「仕上がりは満足だ。ドラマのトラップ(話のオチ)も我ながら…」


深夜のシャワーを浴びながらニヤニヤしてしまう。


「ご褒美に。ウィスキーぐらい寝酒で煽り眠りたいものだ」


娘の目が届けば


アルコールは控えるべきであった。


局にディレクターのパソコンに脚本は速急で届けられている。


「うひゃあ~」


あの堅物の


気難しい脚本家大先生が


「こりゃあ見事な芸当だ」

さっそく台本に刷り役者さんに配布する。


AD(アシスタント)はどこだ。一番にハリウッドスターに届けてくれ」


仕上がり具合は見事なまでの台本であった。


「あらまぁ!医者のお坊ちゃんがなくなって院長先生がメイン」


脇役の役者さんは目がギラギラ輝いてしまう。


「院長先生がメインのテイク(収録)は第2話もあるわ」


滅多に共演者となれない雲の上の存在ハリウッドスター。


プロットごとに端役との会話セリフがちりばめられている。


「まったく参ったな」


大御所たるハリウッドがはまり役を渾身の力を持って演じてくる。


収録スタジオにいるディレクターは最高の出来を期待しメガホンを握りしめるのである。


「ディレクターさん。初回からの放映結果が出ました」


AD(アシスタント)が好視聴率のありがたい数字を知らせてくる。


「おめでとうございます。初回から高い数字でした。ありがたいことでございます」


かわいい子役のおかげ


医院というハイソな家庭環境


人気抜群のトレンディ俳優の自伝的ドラマ


「ちょっと見て見ようかとお茶の間に話題になったんだろうなあ」


小学生役の子役が成長し高校生(トレンディ俳優)になれば数字も違ってくるであろう。


「この調子なら大丈夫!次節にハリウッドスターさんでございます」


大御所という芸能界ビックネームで数字は取れると踏める。


「まずまずの出足になるな」


ディレクターはほくほく顔で収録スタジオに向かうのである。

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