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さくら台駅前ペット探偵事務所 「FXで数億稼ぐサヴァンの天才」×「バツイチの40代おじさん」。凸凹バディが挑むのは、迷子のペットと「人間の感情(バグ)」!?  作者: あおにし
CASE10 さくら台の絆と探偵の誇り

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33/39

File 33 ギリギリの挑戦

「いつも応援ありがとうございます!さくら台駅前ペット探偵事務所、第33話です。

第一部最終話です。お楽しみください!」

「……すべてのエラーが合致」


「えっ!何かわかったのか?」


「ムギは完全室内飼いの猫。野良猫のテリトリーから外れた安全圏に隠れるはず。そして『明け方』は猫が最も活発になる時間帯。……野良猫たちは、自分たちのテリトリーの境界に見知らぬ新参者であるムギが潜んでいることを察知し、警戒していると推測」


「なるほど!でも、ヒカル、そこにムギがいるとしても、他人の空き家の敷地に無断で入ったら不法侵入になるぞ」


俺が顔をしかめると、タエ子さんがポンと手を打った。


「その空き家、うちの不動産屋の管理物件よ! すぐに持ち主の高橋さんに電話して、立ち入りの許可を取ってあげる!」


「タエ子さん! あんたマジで最強の大家だよ!」


「でも、高橋さん、今お仕事中だからすぐには電話に出ないかもしれないわ。ちょっと待っててね」


タエ子さんが電話をかけ続ける間、もどかしく、じりじりとした待機時間が続いた。


だが、ヒカルはその時間を無駄にはしなかった。タエ子さんが事務所の奥から持ってきた空き家の古い図面データを広げ、パソコンで瞬時に解析を進めていく。


「……野良猫が物理的に入れず、かつムギが身を隠せる完全な死角。……外からは絶対に見えない『床下換気口のさらに奥の基礎部分』。座標を特定」


約1時間後。午前11時すぎ。


「イナガキ所長! 高橋さんと連絡ついたわ! 事情を話したら、入っていいってさ!」


タエ子さんの声に、俺たちは弾かれたように立ち上がった。


「行くぞヒカル! これ以上遅れたら、本当に間に合わねえ! 」



許可を得て敷地内へ入った俺たちは、空き家の裏手へと忍び込んだ。


「……イナガキさん、配管の隙間からJスコープを。光量は最小に」


ヒカルの指示に従い、俺は基礎部分のわずかな隙間から5mケーブルを滑り込ませる。


モニターの緑色がかった暗視映像が、埃まみれの床下を映し出す。その一番奥深く――。


「いた……!」


配管の影で、ガタガタと小刻みに震える茶トラのムギの姿があった。


だが、ここは人間が絶対に入れない狭さだ。しかも相手は極限のパニック状態。


少しでも大きな音や光を出せば、さらに奥へ逃げ込んで永久に出てこなくなる。


「……完全にフリーズしてる。空腹より恐怖が勝ってる状態 。視覚と嗅覚の安心感だけで誘導する」


ヒカルは音を立てず、莉子さんから預かっていたムギのお気に入りの毛布を、隙間の入り口にそっと広げた。そして、俺たち自身は完全に視界から消えるよう壁の死角に身を潜め、息を殺す。


「……イナガキさん、息を殺して。極度のパニック状態にある猫にとって、人間の呼吸は捕食者のロックオンと同義」


一分、五分、十分……。 永遠とも思えるような沈黙と、極限の心理戦。


その十分間、床下の奥からは呼吸音一つ聞こえなかった。本当に生きているのかすらわからない、猫捜索特有の恐ろしい静寂が俺の背筋を這い上がる。


時刻は昼前。脱走から4日目。これ以上水が飲めなければ、命に関わるギリギリの限界だ。


だが――。


ヒカルが放ち続けたシグナルと、入り口から漂う毛布の匂いに、ムギの極限の緊張が少しずつ解け始めた。


暗闇の奥。ガタガタと震えていたムギの、恐怖で見開かれていた瞳孔の散大がスッと収まる。


「……呼吸数、低下。筋肉の硬直も解除。……もう、危険な変数は何もない」


動物行動学に基づく、絶対的な安全を示す『カーミングシグナル』。


やがて、自分の匂いが染み付いた毛布の匂いに気づいたのか、床下から


「……ミャア」


と微かな声が聞こえた。 ズリ……ズリ……と、暗闇から這い出してくる小さな影。


ムギが毛布の上に乗り、安心したように丸くなったその瞬間。


「今だ!」


俺はキャリーバッグの口を毛布にぴったりと合わせ、ムギをそっと、だが確実に押し込むようにして扉を閉めた。


「……対象の、保護を完了」


ヒカルの静かな声が、昼前の空き家に響いた。


ついに床下の完全な死角から、ムギを保護することに成功したのだ。



「……対象の呼吸が浅い。至急、点滴処置が必要だ」


ヒカルの言葉に、俺はすぐさまスマートフォンを取り出し、『さくら台動物病院』の瑞希先生へ電話をかけた。


「先生、突然申し訳ない! 弱っている保護猫がいるんだ、緊急で診てもらえないか!?」


平謝りしながら頼み込む俺の電話を、先生は嫌な声一つ出さずに引き受けてくれた。


それから約1時間後。 俺からの連絡を受けた莉子さんが、居ても立っても居られず、タクシーで病院へと駆け込んできた。


「ムギッ……!」


診察室のベッドの上。点滴の管に繋がれ、疲れ切ってスヤスヤと眠るムギの小さな姿を見て、莉子さんはその場に泣き崩れた。莉子さんは震える手で、点滴の邪魔にならないように、ムギの小さな頭をそっと、何度も何度も撫でた。


「よかった……本当によかったね、ムギ……っ!」


ムギの健康状態を確認し終えた瑞希先生が、カルテから目を上げて真剣な顔で言った。


「……重度の脱水症状を起こしているわ。あと半日発見が遅かったら、本当に命に関わっていた。でも、もう点滴が入ったから大丈夫。ギリギリで間に合ったわね」


泣き崩れる莉子さんの横で、俺はジャージのポケットの中で強く拳を握りしめた。


あの詐欺業者が時間を引き延ばし、素人に大金を用意させている間、ムギは水一滴飲めない暗闇の中で、あわや命を落とすところだったのだ。


俺の怒りを察したように、瑞希先生が声を潜めて言った。


「最近、獣医のネットワークでも、飼い主から不当に高額な費用を巻き上げる悪質な業者の噂をよく聞くのよ。あの子がこんなに衰弱するまで放置されたのも、そのせいね。……あなたたち、気をつけて」


「ああ。近いうちに、キッチリ落とし前をつけてやるさ」



その足で俺は、裏で業者の調査を進めている桐生に連絡を取った。


「依頼を受けていた猫は無事に保護した。そっちの裏付けはどうだ?」


『こっちは例の業者のダミー会社や資金洗浄ルートを内偵中だ。証拠を完全に固めるまで、もう少し待て』

「ここまで読んでいただきありがとうございました!

第一部終了しました。また、引き続き第二部も作成してしますので、しばらくお待ちください。


もし『続きが気になる!』『このコンビ、面白い!』と思っていただけましたら、下部の☆☆☆☆☆から【評価】や、作品フォロー&ブックマークをしていただけると、執筆の励みになります!ぜひよろしくお願いします!」

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