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さくら台駅前ペット探偵事務所 「FXで数億稼ぐサヴァンの天才」×「バツイチの40代おじさん」。凸凹バディが挑むのは、迷子のペットと「人間の感情(バグ)」!?  作者: あおにし
CASE9 消えた足跡と優しい誘拐犯

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29/39

File 29 消えた足跡

「いつも応援ありがとうございます!さくら台駅前ペット探偵事務所、第29話です。お正月ということもあり、調査がなかなか進まない。お楽しみください!」

カスミちゃんが帰った直後、新年の第一号となる依頼人が、顔を真っ青にして事務所に飛び込んできた。 三丁目の住宅街に住む木村香織さん。


お正月の親戚の来客で玄関がバタバタしている隙に、愛犬のシーズーである「モコ(1歳・オス・人懐っこい)」が外へ飛び出して行ってしまったのだという。


「……犬の捜索のセオリーは『軌跡(ベクトル)』。香織さん、モコが逃げた方向は?」


「ごめんなさい、お客さんの対応でバタバタしていて……どっちに走っていったか、誰も見ていないんです」


「……初期ベクトル、不明。だが、対象は小型犬のシーズー。関節構造から算出される1日の最大移動距離は1km以内。さらに現在の外気温による体力消耗を考慮すれば、最大でも『半径500m』の範囲に留まっている確率が高い」


ヒカルはノートパソコンを開き、マップ上に赤い円を素早く縁取った。

「……イナガキさん。香織さんの家を中心とした半径500m圏内で聞き込みと痕跡探しを。目撃情報という『点』を拾って『ベクトル』を繋ぐ。僕は事務所のPCから周辺のネットワークとSNSのトラフィックを解析し、独自の広域調査を並行して実行する」


「よし、任せとけ!」


俺は重い機材バッグを背負い、ストーブの効いた事務所から、極寒のさくら台へと飛び出した。



開始から1時間。正月三が日の冷たい風が吹くさくら台。 俺は息を切らしながら、耳に装着したイヤホンマイクのスイッチを入れ、スマホの通話アプリ越しに事務所のヒカルへ報告を入れた。


『ダメだ、ヒカル! 大通りや駅前は初詣の客でごった返してるのに、一本裏に入った住宅街には誰も歩いてねえ。初詣客に聞き込みしても、みんな自分のことで頭がいっぱいで、足元の小さな犬なんて誰も気にかけてない。有益な目撃情報がゼロだ。そっちのデータ調査はどうだ?』


『……こちらの広域スキャンでも、モコに該当するデータはゼロだ。……初詣客の無関心というノイズ。大通りの雑踏に怯えた対象は死角へ逃げ込んだはずだが、『点』の取得ができない。……『ベクトル』の推測は不可能』


ヒカルは即座にノートパソコンのマップ上の赤い円を見た。


『……方針を変更する。先ほど限定した半径500mの『領域』を、サーモグラフィで直接スキャンする。……今から僕も機材を持って現場へ向かう』



さらに1時間後。正月三が日の静かな住宅街。


俺は『LEDヘッドライト』を点灯させて側溝や縁の下を隈なく這いつくばって泥臭く探していた。


少し離れた場所では、ヒカルが『サーモグラフィ』を構え、住宅街の路地裏や公園の茂み一帯を冷徹にスキャンしている。


「(インカム越しに)……おかしいぞ、ヒカル。足跡一つ、フェンスに引っかかった体毛一本すら見つからない。不自然なほど、動物の痕跡が完全にゼロだ」


ヒカルの持つ青黒い画面の中には、家の中にいる人間や野良猫の熱源が赤く映し出されているはずだ。ヒカルはそれらを「ターゲット不一致(ノイズ)」として淡々と除外していく。


「(サーモグラフィを下ろしながら)……こちらもエラー。この極寒の環境下なら、恒温動物の熱源は赤外線で鮮明に可視化される。周辺500m以内の屋外において、人間や野良猫などの熱源(ノイズ)は複数確認・除外したが……対象のシーズーと一致する体積の『孤立した熱源反応』は、完全ゼロ。これ以上の屋外捜索は無意味」


「外にいない!? じゃあどこに消えたんだよ!」


「……通常計算との著しい乖離(バグ)。痕跡も熱源もゼロなら、答えは一つ。対象はすでに誰かの家の中にいる」


「他人の家の中……? そんなの、勝手に入って探せるわけねえだろ。八方塞がりじゃないか」


底冷えするような寒さで手先の感覚がなくなっていく中、俺達は一度事務所に戻ることにした。



ドアを開けた俺は、一足遅れて強烈な「違和感」に襲われた。


外の冷気から一転して、極寒のはずの事務所の中が、ストーブでぬくぬくと暖まっている。


そして相談用テーブルの脇には、勝手に持ち込まれた『こたつ』と山盛りになったみかんが広げられ、タエ子さん、ヨシエさん、ミツコさんの『さくら台FBI』の三人が、完全にくつろぎきった様子で正月特番のテレビを観て爆笑していた。


「な、なんであんたらが勝手に人の事務所に入って暖まってんだよ!」


「何言ってるの、私このビルの大家よ? 合鍵くらい持ってるに決まってるじゃない!」


タエ子さんがみかんを剥きながら、犯罪スレスレの理屈を自信満々に言い放つ。


「…………」


(……まあいい、おばちゃんたち)


俺はFBIに事情を説明した。


「そんなわけで、三丁目で逃げたシーズー犬のモコを探してるんだけど、外に一切痕跡がなくて手詰まりなんだ。何か噂話とか聞いてないか?」


藁にもすがる思いで尋ねたが、タエ子さんは首を横に振った。


「お正月はうちの不動産屋も閉まってるから、さすがに新規の賃貸情報もローカルな噂も入ってこないわねえ」


「うちの美容院も三が日はお休みだから、奥様たちの井戸端会議のアップデートもまだよ」


やはり、お正月は最強のFBI情報網も機能不全に陥ってしまうらしい。頼みの情報網が使えず、俺は絶望した。

「ここまで読んでいただきありがとうございました!

次回、真実とは……!?


もし『続きが気になる!』『このコンビ、面白い!』と思っていただけましたら、下部の☆☆☆☆☆から【評価】や、作品フォロー&ブックマークをしていただけると、執筆の励みになります!ぜひよろしくお願いします!」

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