表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さくら台駅前ペット探偵事務所 「FXで数億稼ぐサヴァンの天才」×「バツイチの40代おじさん」。凸凹バディが挑むのは、迷子のペットと「人間の感情(バグ)」!?  作者: あおにし
CASE8 本能の逃走とさくら台縦断レース

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/39

File 25 本能の逃走

「いつも応援ありがとうございます!さくら台駅前ペット探偵事務所、第25話です。

今回は真冬に驚きの事情で迷子探しをすることになります。お楽しみください!」

12月中旬の夕方。事務所の中では、赤々と燃えるストーブが温かい熱気を放っていた。


俺はデスクで深くため息をついてボヤいた。


「あーあ。最近、ありがたいことに依頼はだいぶ増えてきたが……来る客みんな、最初から『一日2万円でしょ?』って言ってくるからな。2万円をコツコツ積み重ねても、まだ今月の家賃と俺の給料には届かねえ……。相場破壊の犯人、あのおばちゃんたちだしなぁ」


バンッ!と勢いよくドアが開き、大家のタエ子さん、美容院のヨシエさん、居酒屋のミツコさん――『さくら台FBI』の三人が、クリスマスツリーの飾りやクラッカーを抱えて、大騒ぎで飛び込んできた。


「イナガキ所長! ちょっと聞いてちょうだいよ! 今年のクリスマスパーティーの計画、完璧に決まったわよ!」


「おばちゃんたち、ケーキの予約もしちゃったんだから!」


「パーティーの予定忘れないように、注意喚起に来たわよ」


「クリスマス! カンキ! カンキ!」


窓際で、オウムのステラが間の抜けた声で合いの手を入れる。


部屋の奥。為替チャートを睨んでいたヒカルが、ピクリと眉をひそめた。


「……ノイズ。大音量の会話とクリスマスの浮かれた感情データ。僕の思考領域を乱すだけの無意味な音声。……無視」


ヒカルはノイズキャンセリングヘッドホンをきつく押し当て、完全にシャットアウトした。


そこへ、エプロン姿にマフラーを巻いた向かいのパン屋の看板娘、カスミちゃんが、少し大きめのケーキ箱を大切そうに抱えてはにかみながら入ってきた。


「あ、ヒカルさん、イナガキさん、おばちゃんたち! FBIのタエ子さんから特別注文をいただいていた、お父さんのクリスマスケーキの試作品ができたので、持ってきました……!」


「待ってました! さすが鉄平の新作ね!」


パカッ。カスミちゃんが箱を開けた。


そこには、切り株を模したロールケーキの表面に、生クリームの代わりに『あん肝のペースト』がねっとりと塗られ、飾りのモミの木の代わりに『焼いた長ネギ』が何本も突き刺さっている、異形極まりない地獄のケーキが鎮座していた。


「……は?」


「ちょっと……これ、ケーキじゃないじゃない!」


おばちゃん三人が絶句する中、カスミちゃんは純粋無垢な笑顔で言った。


「お父さんが、お酒好きのFBIのおばちゃんたちのために、『甘さを限界まで抑えた、シャンパンに世界一合う大人の贅沢ブッシュ・ド・ノエルだ!』って……!」


部屋の奥。


振り返ったヒカルがその邪神のようなケーキを凝視した。


ヒカルの透き通った瞳の奥で、ケーキの視覚データが激しく明滅し、バグの警告音が鳴り響くのがわかった。


「……長ネギのアリシンと、あん肝のビタミンAおよびEPA。……いや、ダメだ。這い寄る混沌のような視覚的カオスと、海鮮とネギの暴力的な匂いが、スイーツという概念のプロトコルを完全に破壊。味覚予測の計算式が、エラーを吐き続けている。……解析不能」


ヒカルは両手で頭を抱え、フラついた。


「……ショート。処理能力、限界……」


「うわっ! ヒカルのスーパーコンピューターが、ケーキを見ただけで知恵熱出してフリーズしたぞ! どんな破壊力だよ、親父さんのケーキ!」


俺がヒカルに保冷剤をおでこに当ててやっていると、ヒカルは額の保冷剤を無意識に鼻先へ近づけた。


「……冷気で匂い刺激が散る」


コンコンッ。


ドアを激しく叩く音が響き、顔を真っ青にした若い男性が飛び込んできた。依頼人の斉藤さんだ。


「た、探偵さん! 助けてください! うちのレオが、散歩中に急にリードを振り切って、物凄いスピードで逃げちゃったんです!」


「ジャックラッセルテリアか! 3歳ってことは元気盛りだな。いなくなった状況を詳しく!」


「さっき、近所を普通に散歩してたんです。そうしたら、急にレオが何かの匂いを嗅ぐように鼻をヒクヒクさせ始めて、その次の瞬間、白目を剥くようなパニック状態で、本能の塊みたいにもの凄いダッシュで走り去っちゃって……! 実は大手探偵社にもすぐに連絡したんですが、『すぐには対応できない』と言われてしまって!」


俺は腕を組んで窓の外を見た。外では、乾いた12月の冷たい北風がヒョウヒョウと吹き荒れている。


「……おいヒカル。急に鼻をヒクヒクさせてパニックになったって、どうして逃げたんだと思う?」


ヒカルはおでこから保冷剤を外し、机に置いてノートパソコンを開いた。


「……発情したメス犬の性フェロモンを嗅ぎ取って追跡したと推定」


「は? 今は12月のクソ寒い真冬だぞ。フェロモンを追って逃げたなんてあり得るのか? メス犬の発情期ってのは、春か秋だろ?」


「……不正解。室内飼育の現代犬は、季節性がかなり薄れている。冬の発情も珍しくない。……だが、一つだけ通常のデータから逸脱する『エラー』が存在」


「何がエラーなんだよ」


「……距離。犬の鼻は、人間には想像もできないレベルで遠くの匂いを追う」


「遠くって、どれくらいだよ」


「……風に乗れば、最大で『半径数キロメートル』先。数キロ風上の、見知らぬ家から流れたフェロモンを拾った。……そして、本能のレーダーが示すベクトルへ向かって、ただ一直線に走り抜けた。文字通り、この街を縦断して」


ヒカルの瞳の焦点が外れる。


「……気象観測アプリ『そらまめ君』の風向データを取得。現在、北北西の風。フェロモンは風下へ流れる。レオは『匂いが濃くなる方向』へ走った。……つまり、発生源を目指して風上へ向かっている」


ヒカルのビー玉のような輝きを放つ瞳の奥に、12月の冷たい北風の気流データが、さくら台の住宅街の3Dマップに美しく重なる。それは遥か数キロ先の「風上エリア」をサーチライトのように照らし出していた。


イナガキ「数キロメートル……! 街を縦断って、そんな広範囲、俺たち2人じゃ今から走っても間に合わねえぞ!」


「……タスクの分散。イナガキさん、ノイズ処理フィルターの最大動員を。……僕たちの『観測レーダー』を起動して」

「ここまで読んでいただきありがとうございました!

次回は、アクション要素の多いお話です……!?


もし『続きが気になる!』『このコンビ、面白い!』と思っていただけましたら、下部の☆☆☆☆☆から【評価】や、作品フォロー&ブックマークをしていただけると、執筆の励みになります!ぜひよろしくお願いします!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ