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さくら台駅前ペット探偵事務所 「FXで数億稼ぐサヴァンの天才」×「バツイチの40代おじさん」。凸凹バディが挑むのは、迷子のペットと「人間の感情(バグ)」!?  作者: あおにし
CASE5 イレギュラーな飼主と知恵熱のヒカル

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18/39

File 18 プロの矜持

「いつも応援ありがとうございます!さくら台駅前ペット探偵事務所、第18話です。ヒカルの推理は?推理の先の壁は……。お楽しみください!」

さくらベーカリーの店頭。 俺たちの前に立ちはだかったのは、腕の太さが丸太ほどもある、強面で巨大な『お父さん』の鉄平さんだった。


「お前らが、カスミの言ってた探偵か。……悪いが、裏のダクトは店の心臓部だ。部外者をウロチョロさせるわけにはいかねえ! 帰れ!」


娘が気にかけている男たちに対する、父親特有の強烈な警戒心と、不機嫌さ丸出しの態度。


「親父さん、そこを曲げてお願いします! このままじゃ中で動物が死んじまうかもしれないんです!」


「ダメなものはダメだ! いいか、食品を扱う店にとって、お前らみたいな泥だらけの部外者が裏口をウロチョロして『ホコリ』や『異物』が混入するのがどれだけ致命的かわかってんのか! 万が一にでも店の信用に傷がついたら、俺はカスミを食わせていけなくなるんだよ!」


俺は迷うことなく、コンクリートの地面に両膝をつき、勢いよく頭を下げて土下座をした。ジャージの膝は、午前中の這いつくばった捜索ですでに泥だらけだった。


「なっ……!?」


「あんただって、命懸けでパンを焼いてるプロの職人だろ! 俺たちも、小さな命を繋ぐために本気で仕事してんだ! どうか、中に入らせてくれ!!」


俺の、なりふり構わぬ泥臭い誠意。


鉄平さんは圧倒されたように言葉を失い、腕を組んだまま、大きくため息をついた。


「……チッ。いい歳した大人がみっともねえ。……もしパンにホコリが1ミリでも入ったら、お前らの事務所ごと吹き飛ばすからな。……今回だけだ、入れ!」


裏手の古い空調ダクトの前。


ヒカルが、新しく買った『Jスコープ』の細いケーブルをダクトの隙間に差し込み、モニターを覗き込んだ。


「……発見。ダクトの奥深くで、丸まって睡眠中」


「よし! じゃあ引っ張り出すか!」


「ストップ。ダクトが曲がりくねっている。無理に引きずり出せば、フェレットの骨格上、脱臼のリスクが80%。物理的に回収不能」


俺はニヤリと笑い、機材バッグを開けた。


「なら、自ら出てきてもらうしかねえな」


俺は円柱型の捕獲器『ラウンドハウストラップ』を取り出すと、ダクトの出口にピッタリと隙間なく連結させた。


トラップの中に、サヤカさんから借りた『ヨレヨレのスウェット』を敷き詰め、ダクトの隙間から、借りたおもちゃをガサガサ、キュッキュッと鳴らした。


モニターの中で、タマちゃんがピクッと耳を動かして目を覚ました。


ダクトの奥で、小さな鼻がひくひくと動く。


フェレット特有の「狭いトンネルを突き進む習性」に従い、一直線にダクトを駆け抜けてくる。


スポッ!!


タマちゃんが自ら、トラップの中へスッポリと飛び込んできた。俺はすかさず扉を塞いだ。


「……対象の、無傷での保護を完了」


ヒカルはそれを見届け、静かにモニターを閉じた。


俺はトラップのケージを大事に抱え、店の前で腕を組んで待っていた鉄平さんに深く頭を下げた。


「親父さん、ダクトを使わせてくれて本当にありがとうございました。おかげで無事に保護できましたよ」


鉄平さんはトラップの中で丸くなるタマちゃんを見ると、目を丸くして驚いた。


「おいおい、本当にこんなのがうちのダクトの中にいたのか……」


そして、大きなため息を一つ吐き出した。


「……もしこいつの毛が1ミリでもうちのパンに入ってたら、店の信用は丸潰れだった。お前たちが来てなきゃどうなってたか……。むしろ、うちが被害を出す前に捕まえてくれて助かったよ。ご苦労さん」


「へへっ。また美味しいパン、買いに来ますね!」


不骨な職人からの思わぬ感謝の言葉に、俺はニヤリと笑って現場を後にした。



夕方。サヤカさんのアパート前。


「タマちゃぁん! よかったわァァァ!」


タマちゃんを抱きしめて号泣するサヤカさん。


彼女から、約束通り2万円の入った封筒を押し付けられるように受け取る。


彼女は熱を帯びた、ひどく潤んだ瞳で俺を見つめた。


「イナガキさぁん、本当にありがとう……。アタシ、パニックになってたのに、話をあんなに真剣に聞いてくれて……イナガキさんのその誠実なところ、本当に好きになっちゃったかもォ……」


サヤカさんは俺の腕にピトッと身を寄せ、上目遣いで擦り寄ってきた。 俺はタジタジになりながらも、逃げず、大人の男として真剣な表情で向き直った。


「……気持ちは嬉しいよ、サヤカちゃん。でも……俺には、別れて離れ離れになっちまったけど、今でもずっと愛してる元妻がいるんだ」


哀愁を帯びた、イナガキの一途な告白。


それを聞いたサヤカさんは、ピタリと動きを止めた。


「イナガキさん……」


潤んだ瞳からポロリと涙がこぼれ落ち、彼女は俯いて、静かに肩を震わせた。


(悪いことをしたかな……。でも、ここで変な期待を持たせるわけには……)


俺が気まずく思い、フォローの言葉をかけようとした、次の瞬間。


サヤカさんはバンッと顔を上げ、両手を頬に当てて激しく身悶えし始めた。


「……別れた奥さんを、今でもそんなに一途に想い続けてるなんてェ……! イヤだ、ますますキュンと来ちゃうゥゥ!! イナガキさぁぁん!」


「あ、あれ!? 話違くない!? ちょ、サヤカちゃん、くっつきすぎだっての!」


サヤカさんの過剰なスキンシップがさらにヒートアップし、俺は引きずられそうになった。


「(真顔で空間を見つめながら)……イナガキさん。対象の好意のパラメータが限界値を超え、さらに急上昇中。……完全な逆効果。ご愁傷様」


「他人事みたいに言ってないで助けろよ!!」



数日後の、9月20日。


ガチャリとドアが開き、冴子さんが入ってくる。


「ヒカル、イナガキさん。今月もお疲れ様です。はい、今月の『事務所の経費』と、『イナガキさんのお給料』。それと、『ヒカルの生活費』ね」


冴子さんは微笑みながら、三つの封筒を机に並べた。 俺はその中から自分の名前が書かれた封筒を受け取って、ほっと息をつく。


「すっかり秋の空気になってきたから、今日は『脂の乗った秋刀魚(サンマ)の塩焼きと、ホクホクの栗ご飯』を買ってきたわ。お二人とも、秋の味覚を食べて栄養つけるのよ」


デパ地下の紙袋を机に置く冴子さん。ヒカルが、空間の一点を見つめたまま淡々と言う。


「……サンマの豊富なEPAとDHAが、ショートした脳の認知機能を早期に回復。栗のビタミンB1が糖質を効率よく脳のエネルギー源へと変換。……知恵熱からの再起動において、完璧なシナジー」


「相変わらず理屈っぽい奴だな! 素直に美味そうって言えよ」


俺はステラの方をチラリと見て、ドヤ顔で言う。


「はいはい、これで今月も胸を張って養育費8万円振り込めるぜ! お前に言われる前にな、今からきっちり振り込みに行くよ!」


出し抜かれたステラが、首を傾げる。 そして、悔しそうに羽をバタバタと羽ばたかせながら、謎の言葉を叫んだ。


「サキゴサ! サキゴサ!」


「なんだよその言葉!」


俺は手元の封筒の重みを確かめながら、照れくさそうに、けれど清々しい顔で笑った。


窓の外では、秋の気配を含んだ風が、さくら台の駅前を優しく吹き抜けていた。

「ここまで読んでいただきありがとうございました!

さくら台駅前ペット探偵事務所、とりあえずCASE5まで公開いたしました。


もし『続きが気になる!』『このコンビ、面白い!』と思っていただけましたら、下部の☆☆☆☆☆から【評価】や、作品フォロー&ブックマークをしていただけると、執筆の励みになります!ぜひよろしくお願いします!」

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