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さくら台駅前ペット探偵事務所 「FXで数億稼ぐサヴァンの天才」×「バツイチの40代おじさん」。凸凹バディが挑むのは、迷子のペットと「人間の感情(バグ)」!?  作者: あおにし
CASE5 イレギュラーな飼主と知恵熱のヒカル

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16/39

File 16 イレギュラーな飼主

「いつも応援ありがとうございます!さくら台駅前ペット探偵事務所、第16話です。キャラの強い依頼人との関係が中心です。お楽しみください!」

外はうだるような9月上旬の猛暑だというのに、うちの探偵事務所はすっかり別の意味で熱気に包まれていた。


クーラーをガンガンに効かせた部屋の中心で、大家のタエ子さん、美容院のヨシエさん、居酒屋のミツコさん――『さくら台FBI』の三人が、堂々と麦茶となぜか温かい『干し芋』を広げて井戸端会議を開いている。


「あははは! でね、イナガキ所長。干し芋食べる? どうせ今日も依頼ゼロで暇なんでしょ?」


タエ子さんが笑いながら言う。


「暇じゃねえよ! しかもこのクソ暑い中、朝からモソモソするもん食えるか! ポスターの整理とか、俺には色々やることが……」


「あんた、しっかり仕事しないと子供の養育費も払えなくなるわよ! お父さん、頑張らないとだめよ!」


「オトウサン! ガンバレ!」


窓際の鳥かごから、オウムのステラが間の抜けた声で合いの手を入れた。


「うるせえ! 頑張ってるよ!」


俺がほうきを持ったまま憤慨している横で、部屋の奥に座るヒカルは、いつものようにノイズキャンセリングヘッドホンをつけ、おばちゃんたちの騒ぎを計算外のノイズとして完全にシャットアウトしている。



「……大音量の会話。僕の思考領域を乱す、ただのノイズ。……無視」


そして、ヒカルは、無表情で届いたばかりの大きな段ボール箱を開封した。段ボールの中から出てきたのは、黒いケーブルのついた、最新型のモニター付きの機械だ。


「おいヒカル! お前、またそんな高そうな機材を勝手に買って!」


「……最新型の『工業用内視鏡(Jスコープ)』。前回の壁の裏の捜索で、狭所・暗所における内視鏡の有用性は100%証明済み。これは浪費ではなく、不可欠な初期投資。……文句(ノイズ)は却下」


「ぐっ……お前が金出してるからって好き勝手しやがって」


俺が悔しさに唇を噛んだ、その時だった。


バンッ!!


静かな事務所のドアが、地響きを立てるような勢いで跳ね上がった。


「お願いィィ! 誰か助けてちょうだいッ!」


飛び込んできたのは、身長180cm、体重100kgは確実に超えている巨体に、フリフリの派手なワンピースを着た女装家だった。つけまつげは涙で剥がれかけ、マスカラが顔中に黒く滲んでいる。


圧倒的なビジュアルと物理的な質量に、俺は思わず後ずさった。


「あらっ!? 駅前スナックのサヤカちゃんじゃない! どうしたのよ、そんなお化粧ボロボロにして!」


ミツコさんが驚いて立ち上がると、サヤカさんは床に崩れ落ちるようにして泣き叫んだ。


「ミツコママァ……ッ! アタシの可愛い『タマちゃん』が逃げちゃったのォ!」


「ええっ!? それは大変じゃない! イナガキ所長、サヤカちゃんはね、うちの常連さんたちもよく通ってるスナックの人気看板娘なのよ! サヤカちゃん、この事務所はね、一日2万円で探してくれるのよ。イナガキ所長、絶対に見つけてあげてちょうだい!」


「だから、うちの基本料金は一日8万円だっていつも言ってるだろ! 勝手に値引くな!」


俺が呆れて突っ込んでいると、ヒカルがカタカタとキーボードを叩きながら淡々と尋ねた。


「タマ……対象は『猫』。品種は?」


「フェレットよォ!」


ピタリ。 ヒカルのタイピングの手が、凍りついたように止まった。


「……エラー。……対象名『タマ』。猫を想定。だが対象種はフェレット。さらに視覚情報と性別表現が一致しない。……認識モデルが破綻した 」


彼の脳内マップが、理解不能な情報の過剰入力によってバグを起こし、警告アラートで真っ赤に埋め尽くされていくのがわかった。


「……ショート。処理能力、限界……」


プシュー、と。 脳内がショートして熱を帯びたヒカルは、両手でノイズキャンセリングヘッドホンを強く押し当て、知恵熱を出したようにそのまま机に突っ伏して、完全にフリーズした。


(……コイツ、規格外のノイズの過剰入力で、ダブル・バグ起こしてやがる……!)


俺は深くため息をつくと、ほうきを壁に立てかけた。


(……ヒカルが使い物になるまで、俺がやるか)


俺はジャージの膝を叩き、サヤカさんの目の前にしゃがみ込んだ。大人の男の、深く真剣な眼差しを向ける。


「大丈夫ですよ、サヤカちゃん。俺たちが絶対に見つけますから。タマちゃんのことを、詳しく教えてください」


その誠実な言葉と眼差しに、サヤカさんはハッとしたように涙を止めた。


「……ほんとォ? イナガキさぁん……」


サヤカさんは潤んだ瞳で俺を見つめると、感極まったように、俺の両手を自分の大きな分厚い両手でガシッと包み込むように握りしめてきた。もの凄まじい握力だ。


「(冷や汗を流しながら)えっと、タマちゃんが一番反応する音や、安心する匂いはありますか?」


「タマちゃんはねェ、オヤツをあげる時に鳴らす鳴き笛の音が1番好きなの。あとは、アタシが部屋でスッピンの時に着てる、アタシの匂いがするヨレヨレのスウェットよ……」


サヤカさんは話しつつ、俺の腕をペタペタと触ったり、肩に寄りかかったりと、明らかに過剰なボディタッチを開始した。彼女の表情は、完全に恋する乙女のそれに切り替わっている。


「(タジタジになりながら)な、なるほど。じゃあ、そのスウェットとおもちゃを貸してください」


背後で、机に突っ伏していたヒカルがむくりと起き上がった。 ヨシエさんが慌てて冷蔵庫から持ってきてくれた保冷剤を額に当てられ、プロテインウォーターを無言で一口飲む。


「……ヒカル、もう平気か?」


俺が尋ねると、ヒカルは保冷剤を押さえたまま、静かにこくりと頷いた。


そして、おもむろにキーボードに向き直ると、カタカタカタカタカタカタ!!!と、再起動した脳で怒涛のような打鍵音を響かせた。


さっきまで完全にフリーズしていたとは思えない速度で、ヒカルのノートパソコンの画面が、フェレットの骨格図や生態データ、論文のPDFで一色に塗り潰されていく。


「……インプット完了。イタチ科フェレット。骨格構造、習性、予測軌道、すべて脳内に再構築した。移動開始。……イナガキさん、機材の運搬を」


(立ち直り早ッ!!ていうか、あの数秒でフェレットの専門家になりきってやがる……!)


俺は重い機材バッグと、サヤカさんから手渡された、サヤカさんの濃い匂いがするスウェットを抱え、事務所を飛び出した。

「ここまで読んでいただきありがとうございました!

次回、ヒカルはどんな推理をするのか……!?


もし『続きが気になる!』『このコンビ、面白い!』と思っていただけましたら、下部の☆☆☆☆☆から【評価】や、作品フォロー&ブックマークをしていただけると、執筆の励みになります!ぜひよろしくお願いします!」

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