表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/3

第三話 産声

大星歴エトワール八六四年六月六日 ロスナーサ王国リエヴァン


(息ができない)

 海の底に仰向けで沈んでいる。そこからゆっくりと浮かび上がっていくような感覚。目も開けない。これ以上無理というところで海面に出た。

 思いっきり息を吸って、そして吐いた。

「おぎゃあ! おぎゃあ!」

 部屋中に泣き声が響く。自分の声のようだ。

(ここが別の此岸しがんというやつか? どういうことかわからないが記憶はそのままだ。アルビナとの会話も全部覚えてる)

「エレーヌ、女の子よ」

「大変! この子髪の毛が真っ白だわ!」

 近くで何人かの女性の大声が聞こえる。

(私の姿で生まれ変わってもらうと、アルビナはそう言っていた。だから髪が白いのも当然だ。ということは瞳も赤いのだろう)

 懸命に目を開けようとするがうまくいかない。

(赤ん坊はすぐには目を開けられないんだっけ)

 がんばって少し薄目を開けることができた。眩しい光筋が瞼の裏に流れ込んでくる。

 ぼんやりとした視界にこちらを覗き込む年配の女性たちが映る。

「きゃあぁ!」

「この子、目が、瞳が血の色みたいに真っ赤だよ!」

 耳を刺すような女の叫び声。

(うるさい。汚い。なんなんだこの場所は)

 それが最初の感想だった。

「きっと忌み子だわ」

「何かの前触れかしら……」

「初産なのに……かわいそうにエレーヌ」

 今度は聞き取れないぐらいのひそひそ声だ。

 エレーヌと呼ばれた若い女性が母親みたいだ。

「……」

 エレーヌは呆然として赤ん坊を見つめていた。

 両手を胸の前で握り締めてこちらに手を伸ばそうともしない。

(なんだ……この冷たさは)

「忌み子なんかじゃないよ! アルビナ様に生き写しじゃないか!」

 年配の女性が節くれだった指で横から奪うように、赤ん坊を抱き上げながら優しく見つめている。

(この人、アルビナを知っているのか?)

「で、でもエミさん……その子、死体みたいに全身真っ白じゃないか。それに目が血を吸ったみたいに……」

 エミと呼ばれた女性は、女たちの赤ん坊への悪口を完全に無視して、エレーヌに近づいた。

「エレーヌどうしたの? 抱いてあげて」

「嫌よっ! あっちへ行ってお母さん! 何がアルビナ様よっ! こんなに苦労して産んだ子がアルビナに呪われているなんて!」

「……エレーヌ!」

「十年前におとうさんを見殺しにして、今度は生まれてきた私の子に呪いを……」

「馬鹿なことを言うんじゃないよ、あのときは……」

「お母さんっ! その気持ち悪い子をあっちへ連れてって! 顔も見たくないわ!」

「エレーヌ……」

「見なよあの体の色。まるで死体じゃない。あんなのがアルビナ様のはずがないわ。きっとアルビナ様をまねた魔物か何かよ」

 女たちの囁き声が追い打ちをかける。

 エレーヌは生まれて間もないわが子を激しく拒絶した。エミとの間に起きた過去の出来事が今だにエレーヌの心に深い傷を残しているようだった。エミは仕方なく隣の部屋に赤ん坊を抱いたまま連れて行った。

 

(これは……エミさん……に育ててもらうしかないか)

 城田は、腕の中で顔の筋肉をもぞもぞ動かしてみる。生き残るための、精一杯の愛想笑いのつもりだった。

「まあっ、なんて愛らしい笑顔かしら。ほんとうに大聖堂の祭壇画のアルビナ様にそっくり」

 エミは溢れんばかりの笑顔で答えた。

 どうやらここは教会で、大聖堂にはアルビナの祭壇画があるという。本当に城田はアルビナの姿で生まれ変わったようだった。

(――やれやれ。どうやらこれで当面の食い扶持は確保できたか)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ