Part1
雲ひとつ無い空。春にふさわしい爽やかな風が吹いていた。
約一週間前からこの国に多くの観光客が訪れていた。
「パパー、これどこに置いておけばいい?」
「それ、なんの箱?」
「これはね……クリーム!」
「うん、じゃあ考えるまでもなく冷蔵庫だね」
天由遥冴、喫茶店の店主であり九人の子の親。
先程クリームの箱を運んでいたのは、遥冴の娘。
九人姉弟の長女 妃乃である。
この日は数年に一度、不定期に行われる世界最大の祭り、『CountryFestival 』の前日であり現地で出店準備をしている。
CountryFestivalは「次へ」をテーマに開催される。
「ふぅ、腰に来るなぁ」
腰に手を当て伸びている遥冴の元に一人の女性と二人の男性が近づいて来た。
「おぉやってるね、手伝おうか?」
この人は飯塚華蓮、遥冴の古くからの友人。
「明日が本番だってのに、体を言わせて大丈夫かよ」
豹堂鶴見、華蓮と同様遥冴の古くからの友人。
「心配するなら黙って手伝え」
和筆玄德、以下同文。
三人は今回、CountryFestivalの警備スタッフとして雇われていた。
本来であれば遥冴もスタッフ陣営に回るはずだったが長女の妃乃の願いの元、出店することになってしまった。
「玄德の言う通りだ、ちょうど人手が足りなかった所だから手伝え」
「はいはい、分かってるわよ。鶴見! 逃げるなよ?」
「逃げるかよ! 舐めんな!」
荒々しい口調だがなんだかんだ素直を手を貸してくれている。
玄德も何も言わずに手伝ってくれている。
「…………前回の〇〇開催からもう、五年経ったのか」
遥冴の隣に立ち手伝いをしている華蓮が、遥冴にしか聞こえない声量で呟く。
一年に一度、くじ引きで開催地が決まるCountryFestivalはいつかの出来事を境に五年に一度必ず〇〇で開催するという規定が出来た。
「何をそんなに考えてんだ?」
「いや、時間の進みが早いなと…そう思ったんだ」
「んなの今更だろ、というかむしろやっと落ち着いたんじゃないか」
「長かったもんね、でも……」
華蓮はどこか不安に怯えている表情を浮かべている。
そして、その理由を遥冴はなんとなくだが分かっていた。
「華蓮、お前が何を考えて何を感じているのかは、分からないが……いらない心配はするな。
お前は考えると動きに影響が出る」
「分かってるよ、それは痛いほど実感した」
「それに、俺が居るんだ。何も心配する必要は無い」
「……これが自意識過剰じゃないって言うのが、ズルいよね」
遥冴や華蓮、鶴見達は適度に休憩を取りながら明日の準備を進めていた。
数時間すると学校帰りの他の姉弟達も徐々に集まりみんなで和気あいあいと準備を終わらせた。
次の日、いよいよCountryFestival当日。
会場は多くの人に包まれていた。
異国の人達が楽しそうに現地に集まり、唯一無二の空間を作っていた。
出店している飲食店には長蛇の列が出来ていた。
その中でも一際目立っていたのは……
パレットだった。
「かおり! ちょっと咲射枯を裏から呼んできて、接客に移ってもらうから」
「わかりました! …少々お待ちくださいね」
遥冴が出店している喫茶店 パレットは長蛇の列所では無いほど多くの人が並んでいた。
「うーん、想定外だったな。まさかここまで人が並ぶとは思わなんだな……というかまだ十時だぞ?」
遥冴はこうなる事をある程度予想し販売スペースを通常の三倍ほど広くとっていたが、その予想遥かに超える人の量に苦労していた。
パレットを動かしているのは遥冴含め八人。
手が回らなくなるのも時間の問題であった。
「遥冴くん、少し休憩してください」
「今、休憩したら絶対に回らないけどね。しょうがない一旦全員で休憩兼補充するか」
「わかりました、早速伝えて参ります」
「頼む、流石に疲れた…ふぅ……メインイベントまでまだ二時間あるってのにこの調子じゃまずいなぁ〜」
遥冴は既に注文を受けていたお客さん達を捌きながら呑気に焦っていた。




