亜人との遭遇
次の日、俺は言った。
「思ったより南部の密林は険しいから、本部からもっと人員を回すべきだな。あと冷凍庫とドライアイスをコッチに送ってもらおう。果実の低温輸送だ」
「はい司令、無線で本部に増員要請を伝えます。すでに天然ガスの利用を始めてますので、供給に問題はありません。移動中に腐らせるのは勿体ないですからね」
早朝に兵士達の何名かを、採集した果実と列車に乗せて本部へ帰還させる。
みんなに早く食わせたい。俺達だけが食ってるのはズルいからな。
しばらくは列車の往復が続くだろう。
「おいしいいいいい!」
「これが毎日食べられるのなら、私は南基地へ行くぞ!」
案の定、果実を口にした全員が転属願いを出してくるが、他の仕事が止まるので、部隊を半月交替することで折り合いをつけた。
鉄道が複線になり南部の開発が進めば、移動争いもなくなるだろう。
俺達は開拓をしながら密林の奥へと進み、調査隊が襲撃された場所に近づいていた。
「神聴耳…………駄目だな、密林は雑音が多すぎる」
超能力で、敵の気配を探ってみようとしたが無理だった。
視界も悪いので警戒しながら進むしかない。
ちなみに俺は機甲羽衣は使っておらず、防具を装着した戦闘服を着ていた。足にはブーツ。
本部で自作したもので、この方が俺としては動きやすい。体はまだ子供だしな。
護衛は不要なのだが、静香と志乃が絶対に許さず、弥生部隊と他の小隊が俺の周りを固めていた。
側にいる紅美は軽口を叩く。
「敵がいるって聞いてたのによう、さっぱり出てこねえじゃねえか? ああ暴れ足りねえぜ」
「……蛇でも潰してろ」
弥生とのどつき漫才を聞きながら、更に進むと遠くに何かが見えた。
開かれた場所に黄金色の穂が揺れている。稲に間違いない。
ただ野生の草にしては高さが均一で、一定の間隔で生え揃っているので、これは明らかに人が育てている。
俺達が立ち止まってると、ガサッという音がした。そして何かが襲ってくる。
「敵襲!」
と誰かが叫ぶも、相手は物陰に身を隠しながら動き、素早くて姿が捉えられない。
そして不意打ちをくらう。
「くそ、この野郎!」
紅美が殴って反撃するも当たらず、直ぐに隠れてしまう。
攻撃自体は大したことはなかったが、不利な状況なので俺は指示を出す。
「全隊密集隊形、円周防御で互いの背中を守れ!」
「了解!」
俺を中心に陣形が組まれると、敵は警戒して近寄らなくなり、グルグル走り回りながら様子を伺っていた。
数は三人? いや三匹といったところか。
そう思ったのは、敵は人の動きではなく獣に近かったからだ。
俺は短気なので睨みあいを続ける気はなく、次の指示を出す。
「威嚇射撃開始!」
「了解しました。撃てえ!」
全方位に短機関銃が放たれ、けたたましい連射音が密林に鳴り響く。
弾丸が幹を抉り、樹皮が弾け飛ぶ。そして見えないどこかで、草が揺れ声が聞こえた。
「ニャッ⁈」
「そこか! 射撃停止、神影走!」
弾を当てる気はなく、敵の居場所を探るのが狙いだった。
見つけた! もう逃がさない。
迫る俺の気配を察したのか、そいつは慌てて逃げ出し、猿のように木から木へと飛び移っていった。
俺は神風船も使いながら、木々を蹴って追いかけていく。残念だったな俺の方が早い。
接近して見ると、その姿に驚く。
ふわりとしたケモ耳の少女で、獣の毛皮を肩から羽織って、四つ足で走っていたのだ。
頭が混乱したが、とにかく捕らえることにした。むろん殺しはしない。
後ろから一気に近づいて、羽交い締めにする。まるで猫のようだった。
「ウニャアアアアア!」
「こら暴れるな! と言っても無理だな。神影縛」
無理矢理、念力で体の自由を奪う。さてどうしたものか? と思っていると、いきなり強風が吹き付けてきた。
体が吹き飛ばされそうになるほどの威力で、並の人間ならとっくに倒れてるだろう。
俺は咄嗟に障壁を張って防ぐ。これは超能力か⁈
なぜなら俺だけに風が吹き付けられていたからだ。周りにある稲穂は動いていない。
エスパーが相手となれば本気で闘うしかないな。
さて、今の俺にどこまでやれるか……と意気込んでいたら風はピタリと止んで、声がかけられる。
「その子を放していただけませんか?」
目を向けると、立っていたのは長身の女で、金髪をなびかせ毛皮をまとっていた。
鋭い眼差しで俺を見ている。
問題なのはその耳だ。人より長く先が鋭く尖った耳……もしかしてエルフ?
ケモ耳少女といい、やはり俺は幻想世界に転生したのだろうか……?
んなわけあるかい! 小説ジャンルが変わるだろうが‼
俺がケモ耳少女を放してやると、すぐに女エルフの後ろに隠れて威嚇してくる。
「シャアー!」
俺は赤い○星ではないぞ、と意味不明な突っ込みを入れてると、
「アラシー!」
「司令ご無事ですか⁈」
静香と志乃の声が聞こえてくる。二人は後続部隊を率いて、慌ててやってきたようだ。
俺は腕を上げて命令する。
「ああ問題ない。全隊停止、絶対に撃つな!」
「分かりました。全軍待機!」
エルフ女はホッとした表情になる。俺としても争いたくはないからな。
もし原住民で超能力も使うとなれば、敵に回すと厄介だ。
「武器を収めていただき、ありがとうございます。何もございませんが、こちらへどうぞ。お話をいたしましょう」
「ああ」
敵意はないようなので、俺と静香と志乃だけが女の後についていく。
もし、何かあれば無線で連絡するだけだ。
稲作地を抜けると、そこにあったのは集落。
藁と木で組まれた家がまばらに立っていて、焚き火のそばでは土器があり、煮炊きをしていた。
米を炊いてるのだろう。
「なっ…………!」
あまりにも原始的な生活を見て二人は絶句していた。ただボロボロになった鍋釜や、皿もあって使っている。
住人達は不安そうに俺達をジッと見ていた。エルフやケモ耳の他に小柄な少女もいる。
見た感じココも女だらけなので、俺は嫌な予感がしてならない。
集落の中心にくると、そこにあったのは折りたたみテーブルと錆びたパイプ椅子。
見慣れた物があり、明らかに異なる文化が入り混じっていた。
俺達は椅子に座って向かい合う。エルフの隣には、さっきのケモ耳と小さい少女がいて、俺をにらんでいる。
エルフ女の顔をよく見てみると、静香達に引けを取らないほどの美人だった。
ああこれはやはり……
「初めまして、私はE510と申します。ここの代表です。この子らはB723とG375です。私達は人に造られ、人に捨てられし者です。あなた達は何者ですか?」
名前とは言えない番号を彼女は言った。
「ッ…………!」
静香と志乃も、何者か分かったようだ。自分達と同じだからな。
言いたいことはあるだろうが、俺を差し置いての発言はしなかった。
俺は彼女に名乗る。
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