救出作戦
静香が頭を下げたので、これには紅美も驚く。
部下を軽んじる士官ばかりで、こんな隊長はいなかったからだ。
「すまない……補充員も補給も本部に何度も申請してるが、ずっと無視されてる状態なんだ。ただ他所の隊も状況は同じで、整備兵の数も足りてない。恐らく今回の敗戦で、軍は再編成されるだろう。だから私からは待ってくれ、としか言えない。本当にすまない!」
「…………」
嘘は言っておらず静香の誠意が伝わってくる。
もし下手に誤魔化してたら紅美はキレただろう。
しかし下手に出られてしまうと、部下達は何も言えなくなる。
「……分かった。もういいい」
紅美も謝ってる上官を、これ以上責めるわけにはいかなかった。
軍の状況が厳しいことは分かった。ここは我慢するしかない。
「八雲曹長は何もないのか?」
「…………」
八雲弥生は黙って顔をふるだけだった。もともと無口で何を考えてるかはわからない。
静香は部下達に敬礼し、テントから出て行く。少し歩いてからぼやいた。
「あー、やっぱり感情をぶつけられるとキツいわ。でも不満があって当たり前、本部は何もしないし、もっと強く具申しないとダメね。みんなの命がかかってるんだから」
静香は部下の為なら、自分が犠牲になってもかまわないと思っていた。
これほど情に厚い隊長はいないだろう。
考えながら歩き続け、やがて士官兵舎の自室へと入った。
指令所の近くに建てられた仮設プレハブで、小隊長達は個室を与えられていた。
もっともベットがあるだけでテントと待遇差はなく、上官の命令を早く聞くための場所にすぎなかった。
肉体的にも精神的にも疲れた静香は泥のように眠った……。
◇◇◇
――数日後。
鐵乙女軍の指令所に隊長達と上官が集まって、作戦会議をしていた。
ある情報が議題となる。
「敵軍がこちらへ近づいて来てるのですか?」
「そうだ。問題なのは、逃げてきている味方もいるということだ」
「敗残兵を利用した平行追撃ですな」
「うーむ、さてどうする?」
上官達は悩む。
逃げてくる友軍を見捨てて基地へ逃げ帰るわけにもいかず、かといって敵と一緒に来られたら反撃しづらくなってしまう。
なにより、まともに戦える部隊がもうないのだ。負けて物資も戦力もない。
「…………」
会議場は沈黙して重苦しさだけが漂い、時間だけが過ぎていく。
そこに挙手する者がいた。
「僭越ながら、作戦を上申いたします」
「氷室少尉か、言って見ろ」
「はっ、それでは今動ける部隊を集めて味方を救出しましょう。そして救出部隊が戻り次第、全軍で本部基地へ帰還するのはどうでしょうか?」
「なるほどな、攻められる前にこちらから動くわけか」
「私は賛成だが、現在動けるのは極少数だ。もし多数の敵に囲まれたら殲滅されるぞ。流石に特攻命令はだせない」
「それでは志願兵のみで構成し、あくまで敗残兵の援護に徹して、危なくなったら撤退すれば良いと思います。このまま友軍を見殺しにはしたくありません!」
「ふーむ」
熱意のこもった氷花に説得され、上官達も救出作戦の許可を出す。
ただし無理は禁物、危うくなったら即時撤退。
現場指揮官は提案者の氷室少尉が務めることになる。彼女には思わくと野心があった。
「これで手柄をあげて私は出世してやる。静香もこないか? 貴官がいるなら心強いんだが。副官をやってほしい」
「……私一人では決められない。隊のみんなと相談する」
静香は重い足取りで、部下達の元へ向かう。氷花に直接は言えなかったが、かなり無茶で無謀な作戦だと感じていた。
敵に対して臨機応変というのは聞こえはいいが、ただの行き当たりばったりでしかなく、また逃走経路も決められてなかった。
作戦参加は死にに行くようなものである。とても部下には無理強いできない。
なので、テントの中で開口一番。
「いいか、今回の作戦には絶対に参加するな! 味方の救出だが、予想生還率はたったの十数パーセントだ。私は同僚に付き合うしかないが、貴官らは仮病で不参加だ!」
いつも冷静な静香が声を張りあげたので、全員がキョトンとなる。
詐病を部下に勧めるなど上官としてはあるまじき行為で、バレたら軍規違反で処罰されてもおかしくはない。
それでも静香は誰も死んでほしくなかった。部下達は笑い出す。
「あっははははは!」
「失礼だぞ、紅美!」
天羽准尉がたしなめるも、久遠軍曹は大笑いした。
月城椿と八雲弥生も笑いを堪えていた。巴隊は久々に明るい雰囲気になる。
この瞬間、上と下が打ち解けあったと言って良い。
笑いが収まったところで、紅美は静香に向かって敬礼する。
「久遠軍曹、本作戦に参加します!」
「私の話を聞いてたのか、軍曹! これは決死隊だ‼ 死ぬかもしれないんだぞ⁈」
静香はキレるが、
「自主参加とのことなので、勝手にさせていただきます。おっと勘違いするなよ。あたいはアンタの死に様を見たいから行くんだぜ」
「それでは小官も参加します」
「……い、く」
「なっ!」
月城伍長と八雲曹長も手を挙げて参加を表明する。
天羽准尉は隊長に惚れ込んでるので、最初から付いていくつもりだった。
これで巴隊は全員参加となり、静香の必死の説得は失敗してしまう。
今回は逆の意味で反抗されたと言って良い。ただ部下達も隊長を思っての行動である。
ただ互いの願いはすれ違った。
「どいつもこいつも身勝手な奴らばかりだ! もう、知らん知らん! 勝手にしろ!」
ふてくされた静香が怒鳴って出て行くと、テント内では笑いが木霊していた。
こうして志願兵は集まったものの、物資不足ですぐには動けない。
各部隊から整備兵が出向き、壊れた機甲羽衣から部品を流用して、機体の修理と整備をした。
なんとか武器もかき集めて、これで三個小隊が出動できるようになる。
そして二日後。
「目的は味方の救出、この任務成功させるぞ! 出陣!」
「了解」
救出部隊が動き出す。




