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9 量産


 今日も私はレイエルと家の台所で料理をしている。

 近頃は自分達の食べる分以上に作っているけど、それには事情があった。聖女ルーシャ教団の人達がしばしば私に料理を習いにくる。

 からあげを配ってずいぶんと信者が増えたあの一件で、彼らは気付いた(味をしめた)。人の心を掴むには胃袋を掴むのが近道だと。


 教団に入れば聖女が異世界からもたらした激ウマ料理を食せると結構人気らしい。

 ……宗教団体やめて、もう普通にレストランをやればいいんじゃない?


「中でも一番人気の料理は鍋なんですよ」


 また我が家にやって来ていた元侍女二人の片方がそう言った。これにもう片方が相槌を打つ。


「ルーシャ様に色々な種類の鍋を教えていただいたおかげで、週一開催の鍋パーティーは大勢の人が集まって大盛況なんです」


 なるほど、信者の皆は美食クラブのように捉えている模様。本当に普通にレストランをやればいいんじゃないかと思うけど、それならそれで私の狙い通りの教団になりつつある。


 教団をやる上で、神官達には私からその方向性を示してあった。信者からお金を吸い上げて私腹を肥やすような組織には絶対にしないということ。受け取っていいのは定額の月会費だけ。

 ちょうどいい感じの教団になってきたから、この際はっきりと活動内容を決めてしまおうか。


 私達聖女ルーシャ教団は、余裕のある信者からは月会費を受け取り、その資金で生活に苦しい人達に炊き出しなどの支援を行う。富を再分配するシステムの歯車になることこそが教団の目指すべき姿だ。


 私は立っている台(二歳児なので料理をする時には必須)の上でそう宣言した。

 すると、キッチンの椅子に座っているおじいさん、司教さんが賛同するように拍手を。彼も侍女の二人と一緒に来ていたんだよね。


「……かつてわしらが仕えていた神は、王国の守護神とは名ばかりの貴族達に富を集めるシステムの歯車でしたのじゃ。わしはそれが分かっていて、見て見ぬふりをしておりました。……ルーシャ様のおかげでようやくかつての罪が償えそうですのじゃ。そのご意思を反映させたきちんとした教典を書きましょう」


 しみじみと司教さんがそう呟くと、侍女達もどこか嬉しそうな表情で「お手伝いします」と頷く。

 一方で、レイエルは昔を思い出させる子犬のような笑顔を向けてきた。


「とてもルーシャ様らしくていいと思います。あなたが聖女でいる限り教団は大丈夫ですよ」

「そうかな? 今更ながら、私は責任重大な気がしてきた……」

「ですから、今のままのルーシャ様で大丈夫ですって。さあ、私達も鍋にしましょう」


 そう、今日は司教さんや侍女の二人も食べるから、我が家でも昼ご飯は鍋にした。

 材料も切り終えたしこれで始められ……、うーん、白菜がちょっと足りなくないかな?


「レイエル、白菜ってもうなかったっけ?」

「全部切っちゃいましたよ。買ってきましょうか?」


 いや、ちょっと待って。野菜も細胞でできているのは肉と同じなんだから、もしかして……。

 白菜の一片を手に取った私は、それに〈ヒール〉をかけてみた。

 途端に大きくなり出した白菜の欠片は見る見る葉を増やし、あっという間に立派な株に戻っていた。


「野菜も再生できた! この世界の〈ヒール〉すごいな!」


 叫ぶ私に対し、司教さんが首を横に振る。


「すごいのはルーシャ様ですじゃ。わしらが〈ヒール〉を使っても、白菜の欠片は欠片のままですからのう」


 ということは、やっぱり魔力の強度が高いからなんだろうか。

 まじまじと自分の手を見つめていて、侍女達がキラキラした眼差しをこちらに向けているのに気付く。


「ルーシャ様! 鍋の材料は全て再生できるということじゃないですか!」

「今後は肉だけじゃなく野菜も私達に提供していただけるということですね!」

「提供できるけど、野菜は小さいのもあるから一個一個再生するのは大変かな。まあ、魔力の消費はなぜか肉より格段に少ないから、時間さえかければできなくはないだろうけど」


 この私のぼやきに、酒瓶を手に現れたテルミラお母さんが「だったら、あんたが範囲魔法の〈ヒールワイド〉を覚えればいいのよ」と言った。


「それを使えばまとめて再生できるの?」


 聖霊魔法をかじったものの、私はまだそこまで魔法に詳しくない。尋ねるとお母さんは頷きながらいつもの自分の椅子に座った。


「範囲魔法はあんたの意思に従って対象を自動で選別してくれるからね。結構高度だけど、そこのおじいちゃんなら使えるでしょうから教えてもらうといいわ。すでに〈ヒール〉を覚えていて習得の早いあんたなら数時間でいけるんじゃないかしら。それより……、早く鍋パーティーを始めて! こっちはもうとっくに飲む準備ができているのよ!」

「はいはい……。じゃあレイエル、やっていこうか」


 そうして皆で楽しく鍋を囲んだ後、私は司教さんから〈ヒールワイド〉を教わりはじめた。魔法の理論がやや難解だけど、確かに一、二時間で何とかなりそうではある。


 この間に侍女の二人は包丁で大根を細かく刻んでいた。


「細胞なる目には見えないものが残っていれば再生できるそうなので細かくしましょう」

「ええ、ものすごく細かくしましょう」


 シュカカカカカカカカッ!


 ……いや、そこまでこま切れにしなくても。どれだけ大根を量産させる気だ。たんまり持って帰りたいという思惑が透けて見える……。


 それから一時間ちょっと経ち、予定通り私は〈ヒールワイド〉を習得した。

 キッチンのテーブルの上にはまるで荒塩のように細かくされた大根が山を作っており、侍女達は満足げにそれを眺めている。


 またすごく頑張ったな、……細胞まで壊れてるんじゃない?

 とりあえずさっさとやってしまおう、と私は手をかざした。


「じゃいくよ、〈ヒールワイド〉!」


 あれ? 今、割と魔力を消費したような……?


 魔法の発動と同時に粉々にされた大根が膨張を開始。

 ずんずん大きくなり、目で見て各々が大根だと分かるサイズになった頃、テーブルが重さに耐えきれずに倒壊した。


 ……ちょっと待って、これはまずいのでは?

 目を合わせたレイエルも同じ嫌な予感を感じているのが分かった。


「ルーシャ様! 逃げた方がいいと思います!」

「皆! 早くキッチンから出て!」


 全員が台所を後にした時には、すでに中は大量の大根で満杯状態だった。

 程なくベキベキという音と共に、台所の壁が内側から押されてこちらに膨らんでくる。もう駄目だ! と思った瞬間、ようやく大根の再生が終了した。


 一息ついたのち、私は二人の侍女に視線をやる。彼女達の方は気まずそうに目を逸らした。


「……これは、細かくしすぎて、そして大量に作りすぎたようですね」

「……ちょっと、欲張りすぎたようですね」


 うん、だよね。





「アフターエピが多い……」とお思いになったかもしれません。

この話、書くのが楽しくなってきました。

沢山の人が読んでくださっていますし(本当に有難うございます)、連載にするかもしれません。

気に入っていただけたならブックマークは維持していただけると有難いです。


後日追記:48時間以内に次話を投稿できるように努めています。

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― 新着の感想 ―
別に本編扱いでも良いんじゃ無いかな? …人を立てに真っ二つにしても完全絶命する前にヒールしたらどうなるのか?とか、やってみてほしい。
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